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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
123/149

119.彼女と彼は報告に行く。

side リディア

 どうやら、面倒なことに首を突っ込んだみたいだわ……。


 わがままを通して決行した登山も意外と好評に終わって。

 王都でお世話になった皆様にも御礼をして。

 公爵家の中庭をお借りして開いた宴にも喜んでもらって。


 遂に王都を離れることになったのだけど。

 まさか、お土産を戴けるだなんて、思ってもいなかった。


 しかも、そのお土産は桜の木だったのよ。


 そりゃ、大陸に桜がないことは残念に思っていたけれど。

 さすがに苗木を買って帰ろうとは考えていなかったのだ。


 それを、お土産として貰い受けることになるなんて。

 吃驚して感動して、うっかり泣いてしまったわよね。


 そうして最後までよくしてくれたリュート様に感謝をして。

 長らくお世話になった公爵家にお別れしたわけだけど。


 道中聞いた、ジングに来てから巻き込まれた騒動の顛末には驚いたわ。


 と言っても、宰相やメイドの件は納得できる話だったし。

 魔術師団や騎士団の件も。

 脅しの内容はさておき、もう手を出されないなら言うことはない。


 驚いたのは、魅了の件なのだ。

 わたしたちはどうやら、面倒なことに首を突っ込んでいたらしい。


 と言うのも。

 あの魅了の首飾りは大陸から持ち込まれたということが判明して。

 ジングは実験台にされた可能性が出てきたのよ。


 持ち込まれたのは数年前。

 ということは、効果検証にはいい頃合いなわけで。

 近く、大陸で面倒なことが起きる可能性に思い当って慄いたわよね。


 実は、シェリー様からはその後、調査報告が届いていて。

 今のところ、祖国で新たな魅了の魔道具は発見されていない。

 ということだったのだけれど。


 今回の話を聞くに、再度調べて貰ったほうがよさそうだわ。


 グリーンフィール王家には、シエル様から話が行くとして。

 その流れで、ドラングル王家にも伝わるはずだから。


 後はレンダルが心配だけれども。

 ラディがご実家に話してくれるだろうし。

 お母様も王妃様に連絡してくれるわよね?


 ……と、ここまでは考えたものの。

 基本的には偉い人に任せるのが一番なので。


 とりあえず、残りの旅を存分に楽しむことにした。


 だって、新婚旅行なのよ?

 最後まできっちりと楽しみたいわよね。


 だから、シズレまでの道中はみんなでわいわいと過ごして。

 シズレに到着してからは、ジング最後のお買い物を満喫したわ。


 緑茶とか、お香とか、和柄の巾着とか。

 王都で買い忘れてたものを買い漁って。


 シエル様がご家族へのお土産に選んでいた飴細工の精巧さに感動して。

 ―――じっと見てたら、ジョージ様が買ってくれた。


 初日にやらかしたお魚屋さんが、早々に屋台を開いてたことに驚いて。

 ―――もちろん、立ち寄って鮪丼を食べたわ。


 船出のときには、シズレのゴンザさんも駆け付けてくれて。

 ジョージ様とラルゴさんも、ぎりぎりまで残って見送ってくれたから。


 皆に大きく手を振って、ジングを後にしたのよ。


 そうして、わたしたちは予定通り。

 約一ヶ月ぶりにグリーンフィールに戻ってきたのだ。


「リディアちゃん!!」


 船を降りて早々に、お母様が物凄い勢いで抱きついてきて。

 ラディが支えてくれなかったら倒れてしまいそうだったんだけど。


「おかえり。ふたりとも元気そうで何よりだ」


 お父様にそう言ってもらって、帰ってきたんだと実感する。

 『おかえり』って素敵な言葉よね。


 船着き場には、伯父様とレオン様も来ていて。

 シエル様の無事を確認して、ほっと一息ついていた。


「お前らは厄介ごとが好きすぎないか?」

「何にでも首を突っ込みよって」


 シェロやダズルも来てくれてたのはありがたいけど。

 それはなかなかに失礼ではないかしら。


「好きで巻き込まれているわけじゃないのよ?」

「巻き込まれたならば一緒だ。あまり心配させてくれるな」

「精霊をつけていなかったら、乗り込んでいたところだぞ」


 え、それは、むしろ状況を悪化させるだけだと思う。


 ともあれ、心配させてしまったことには違いないし。

 精霊たちには本当にお世話になったから。


 御礼とお詫びに大量のスイーツを差し出しておいた。


 なんてことをしていた隙に。

 どうやら、お父様がシエル様とロラン様に御礼の品を渡していたようだ。

 多分、サイズ的に万年筆だと思われる。


 実は、ラディと同じことを考えていたから。

 驚きつつも、早々に準備してくれていたことに感謝して。


 積もる話はあれど、その日はそのまま帰宅してゆっくりさせて貰ったわ。


 そうして残りの休暇は。

 ジングで仕入れた品の整理と、荷物の片付けに追われ。

 桜の植樹に、お土産や御礼の品の配送に奔走して。


 迎えた休暇最終日―――――。


 わたしとラディは、サティアス邸にやって来ている。


 お土産話はもちろん、諸々の報告もする予定だから。

 伯父様とレオン様も来てくれていたわ。


「まあまあまあ!リディアちゃん、すっごく可愛いわ!ラディン君も素敵ね!」

「これはまた随分と変わった装いだね」

「これがジングの伝統衣装なのかい?」

「ふたりともよく似合ってるよ」


 うふふ、そうなのよ。

 今日は、せっかくだからユカタを着てきたのよ。


「ありがとう。そうなの、これが『キモノ』よ。でも、今着てるのは普段着で、『ユカタ』っていう簡略的なキモノなの」

「俺も初めて着ましたけど、すごく楽です。少し心許ないですけどね」


 そんな簡単な説明をしつつ。


「ラディが、皆の分も買ってくれたのよ」

「柄が色々あってすごく悩んだんですけど、お店の人と選んだので間違いはないと思います。気に入っていただけると嬉しいのですが」


 そう言って、お土産のユカタを渡したら。

 両親もデュアル親子も目を丸くして驚きながらも、すごく喜んでくれた。


 それで、皆が着たがったから、着付けをしたのはいいんだけど。

 謎の撮影大会が開かれたのは、ちょっとだけ辟易したわね。


「そろそろ、報告を始めてもいいかしら?」

「ああ、そうだね。ごめんごめん、嬉しくてつい、ね」


 さすがに、いつまでも写真を撮ってる場合じゃないと思って。

 強制的に本来の話に戻させてもらったわ。


「それにしても、君たちはどこにいても騒動に巻き込まれるね」

「そうよ、心配してたんだから!本当に無事でよかったわ」

「盗賊にしろ、間者にしろ、大変だったね」

「シエルを守ってくれたことには感謝してるけど。話を聞いて肝を冷やしたよ」


 そう言われて、ちょっとだけ反省する。

 でも、見て見ぬふりはできなかったのよ。


「毎回手紙をくれたからね。手紙の内容はこちらでも共有しているが、それ以外に何か気になってることはあるかい?」

「いえ、知り得たことはすべて手紙に書いていますので、今のところ、新しい情報はないのですが……」


 ああ、そうよね、そうだったわ。

 都度手紙を書いてたから、報告という報告はもう済んでいるんだったわ。


「そうか…。ならば、我々がすぐに動く必要はないかな?」

「そうだね。ジングから間者がついてくることはなかったようだし、魅了の件は王家に任せているしね」

「マリーにも伝えておいたから、レンダルも対策してくれると思うわ」


 あらま、知らぬうちにすっかり体制が整っていたようだ。

 しかも、間者のことまで確認してくれていて驚く。


「まあでも、いつでも動けるようにはしておきたいね。リディアもラディンも、また情報を掴んだり、気づいたことがあったらすぐに教えてくれ」

「わかったわ」

「はい、気を付けておきます」


 そうして、思いのほか、あっさりと重たい話は終わったのだけど。


「ところでリディアちゃん。鮭とかいう珍しいお魚は見せてもらえないの?」

「ほかにも、大陸にはない食材を見つけたのだろう?」

「それも楽しみにしてきたんだよ」


 ということだったので。

 そろそろお昼だということもあって、持ってきたものをすべて並べてみた。


 鮭の焼き物に鮭と梅のおにぎり。そして、いくらに海鮭スモーク。

 茹でた足長蟹に、五目おこわや梅おこわも用意して。

 牛蒡の素揚げやきんぴら、きのこのおすましも作っておいたのよ。


「どれもこれも美味しいわ!」

「味もいいが、食感が面白いものが多いね」

「凄いな、本当に初めての食材ばかりだよ」

「早急にシエルに会って、貿易話の進捗を確かめないといけないな。できるだけ早く輸入できるように、おど……、頼んでおかなくては」


 伯父様、脅しはだめよ?

 って思いながらジトッと見たら、目を逸らされた。


 にしても、ジングでもそうだったけれど。

 美味しそうに食べて貰えるのは、やっぱり素直に嬉しいわよね。


 以前から米酒を気に入っているお父様はいくらを。

 ワイン好きなデュアル親子は海鮭スモークをお気に召したようだし。


 意外なことに、お母様は梅が気に入ったみたいだった。

 酸っぱさ軽減に鰹節を混ぜたのがよかったのかしら?


 なんて思いつつ、わたしも少しずつ摘まんではいたけれど。

 実は、頃合いを見てストップをかけなくてはならない。


「あとでお餅つきもするんだから、食べ過ぎないでね」

「こんな美味しいものを持ってきておいて、それはないんじゃないか?」


 そうは言っても、餅つきをしてみたいと言ったのは伯父様だ。

 お父様やお母様だって楽しみにしていたわよね?


 ミンスター夫妻やギルド長コンビだって招待してるのよ?

 商会のスタッフも後から来てくれるはず。


 ということで。

 残りのご飯はお重に詰めて持ち帰ることで納得してもらって。

 お餅つきの時間まで、お土産話をすることにした。


 登山についてはかなり驚かれたけれど。

 山頂で撮った絶景写真にはみんな口々に感嘆の声を上げていて。


 宴の写真には、完全な無礼講だったのがバレたのか呆れられたけれど。

 貴族向けの焼き鳥店の話は忘れずにしておいたわ。


 そうして尽きないお土産話に盛り上がっていたら。

 時間が経つのなんてあっという間で。


「みなさん、お集まりになりましたよ」


 執事のセバスがそう言って呼びに来てくれたから。

 会場である中庭に向かったら。


 みんなが興味深げに、蒸籠や臼と杵を見ていてほくそ笑む。

 ふふふ、その怪しげな物体からお餅が生み出されるのよ?


 そう思って、もったいつけて餅つきの説明をしようとしたら。


「わあ!お嬢様、どうしたんですか、そのお洋服!」

「もしや、ジングの民族衣装ですか?」


 想像以上にユカタに食いつかれてしまった。


「そうよ。せっかくだから着てきたの」

「すごくかわいいですー!これ、応用したら面白い服ができそうですね!」


 さすが、商会のスタッフ。

 目の付け所は素敵だけど、そのお話はまた今度ね。


「今日は、お忙しいところありがとうございます。わたしたちが長期休暇をとれたのは、偏に皆様のおかげです。その感謝を込めまして、精一杯お餅をつきますね。主にラディが!」

「え?俺?……あ、がんばります」


 そんな締まりのないあいさつで始まったお餅つきだけど。

 これが実は、物凄く盛り上がった。


 商会の若いスタッフをはじめ、結構皆、杵を使いたがったのよね。

 ―――お父様と伯父様も張り切っていたけれど、さすがに止めた。


 それで、みんなで順番にお餅をついたり。

 お餅をひっくり返すほうは、あまりにも熱くて断念する子が続出したりして。


 なんだかんだ、きゃっきゃと盛り上がったのだ。


 出来上がったお餅も、伸びることに面白がって貰えたり。

 もちもちの食感や腹持ちのよさが好評で。

 最初についたお餅はすぐになくなってしまって。


 用意した粘り米がなくなるまで、何度もお餅つきをしたのよ。

 本当に楽しかったわ。


 ただ。


「他国の文化を知るのも楽しいものだね」


 って言われたときは、微妙な顔をしてしまったかもしれない。


 いや、だって、さすがにね?

 異世界文化だとは言えないわよね……。


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