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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
122/149

118.彼と彼女は帰路に就く。

side ラディンベル

 リディには、本当に驚かされるよね。


 予定していた北部への旅が厳しくなってしまって。

 近場で愉しめる場所を探すことになったんだけど。


 まさか、山に登ることになるなんて思ってもいなかった。


 そりゃ、リディは令嬢だった割には体を動かすことが好きだし。

 最近は、鍛錬めいたことまで始めたけれど。


 だからって、登山に興味を示すなんて想定外だ。


 山なんて娯楽があるわけでもないのにね。

 疲れるだけじゃないかと思うんだけど。


 わくわくしているリディに水を差すことはしたくないし。

 そもそも、やる気になったリディを止めるのって大変だしね(経験談)


 事前調査では、魔獣の心配もなさそうで。

 急勾配が少なくて岸壁にぶち当たらない山を精霊が見繕ってくれたから。


 もしリディが疲れちゃっても。

 最悪、俺が抱えて登ればいいか、なんて思いながら。


 いざ、登ってみたら。


 リディは、きちんと自分の体力を理解していて無理はしなかったし。

 休憩や水分補給が的確で、むしろ俺たちのほうが教えられたりして。


 おまけに、悔しいことに、登山は結構楽しいものなんだと知った。


 歩いているだけなのに、なかなか爽快なんだよね。

 自然に癒されるっていう感覚も初めてだったかもしれない。


 リディの解説や気づきも面白くて。

 大陸にはない木の実や山菜、きのこが意外と多くて驚いた。


 岩場で健気に咲く花にエールを送るリディには和んだし。

 筍の成長した姿だという竹の藪にはテンションが上がってしまったよね。


 山の恵みの調理法や利用法には感心したし。

 伐採と土砂災害の話はすごく勉強になって。

 ―――この辺りは、マットさんが公爵と村長に提案したいと言っていた。


 そうして意外にも楽しみながら辿り着いた山頂は、まさに絶景で。

 一瞬言葉を失ってしまった程だった。


 内心、登山を馬鹿にしていた俺を殴りたい。


 時間的にも日帰りは無理だったから。

 リディの強い希望もあって、山頂で一泊したんだけど。


 一日頑張ったからか、空気が澄んでいるからか。

 野外での夕食は最高だったし、満天の星空も素晴らしくて。


 何よりも、山頂から見る夕日や朝日は格別だったよね。


 本当にいい経験をさせてもらったと思う。

 リディ、登山を教えてくれてありがとね。


 心からそう思ってるし。

 登山の余韻に耽っていたかったのは山々なんだけど。


 実は、帰国予定日が迫ってきているんだよね。


 ってことで、俺たちは、改めてゴンザさんに御礼に伺ったり。

 少しだけお直しをお願いしていたキモノや。

 注文していた魚を取りに行ったりしながらも。


 こっそりと、クラムウェル公爵家への御礼の準備をしていて。


 迎えた王都滞在最終夜―――――。


「今日は、焼き鳥と焼き肉をご用意しました!!」


 公爵邸の中庭をお借りして。

 焼き台をセッティングして、テーブルに七輪を並べて。


 俺たちは御礼の宴を開催させてもらうことにしたんだ。


 もちろん、護衛さんや使用人さんたち用のスペースも用意して。

 順番に休憩してもらえるようにしておいた。


「こんな準備をしてくれていたのかい?気を遣わせて申し訳なかったな」

「むしろ、こっちが礼をしたいくらいなんだが」


 リュート様とジョージ様にそう言われたけれど。

 俺たち、結局二週間近くお世話になっちゃったからね。

 これくらいさせてほしい。


 そう思いながら、シエル様に音頭をとってもらって。

 乾杯してからは、無礼講で皆で肉を食べまくったよね。


「実は、焼き鳥というものを食べてみたかったんだ」


 そんなリュート様の言葉には驚いたけれど。


 聞けば、焼き肉屋は、個室もあるから接待にも使われていて。

 ―――念のため、個室には毒検知の魔道具が設置されている。


 リュート様も、来訪時にシエル様と行ったことがあるそうだ。


 でも、焼き鳥屋は、庶民的過ぎて貴族には行きづらいらしい。

 まあ、確かに、串からそのまま食べるっていうのも上品じゃないしね。


「私も、出来立てを食べるのは初めてだよ」

「僕もです。お店に入ってみたくても、ちょっと勇気がいるんですよね」


 そう話してくれたシエル様たちに至っては。

 どうしても食べてみたくて。

 平民の文官に頼んでテイクアウトしてもらって食べたと聞いて驚いた。


 えええ……。

 俺たち、煙もくもくの中、陛下や殿下に串のまま出したことがあるんだけど。


 そんなにハードル高いのかな?

 リディも笑顔が引き攣ってるね。


「あの……、伯父様に、貴族向けのお店を相談しておきますね」

「本当かい!?それは嬉しいね。私からもルイスさんに頼んでおこうかな」


 あーあ、また仕事増やしちゃった。

 まあ、でも、需要があるならいいのかな。


 って思ってたら。

 今度は、ジョージ様から溢れんばかりの笑顔で話しかけられた。


「この焼き肉っていうのは最高だな。たれも旨いし、肉の違いも面白い。実は、前に兄上から話を聞いたときは、小さく切った肉を焼いて食べることの何がいいのかよくわからなかったんだが、これなら自慢されてもしょうがない」

「はは。あの時は、目の前で焼いて熱いうちに食べれることも、部位での違いも、何もかもが衝撃的でね。帰ってからジョージに語ってしまったんだよ」


 ジングでも部位販売はしてないみたいだしね。

 今日の準備中も、料理長さんに驚かれたんだ。


 でも、気に入ってくれたなら嬉しいな。


 見渡せば、護衛さんや使用人さんたちも笑顔で食べてくれていて。

 御礼の宴を開いてよかったと改めて思う。


 結局、用意した肉がなくなるまで、皆で楽しんだんだよね。


 そして翌日―――――。


 遂に、俺たちが公爵家を発つ日となった。

 もちろん、シエル様たちも一緒だ。


 リュート様は、さすがに仕事が立て込んでいて王都を離れられないんだけど。

 シズレまでは、ジョージ様とラルゴさんが護衛についてくれると言う。


「長い間お世話になった上に、最後の最後まですみません」

「君たちには色々と迷惑をかけたからな。これくらいはさせてくれ」

「世話になったのはこちらのほうだよ。君たちと出会えたことには本当に感謝しているんだ。詫びにも礼にもならないが、よかったら、これを持ち帰ってくれないか。荷物になって申し訳ないのだけどね」


 護衛をしてもらうだけでも申し訳ないと思っていたのに。

 まさか、お土産まで戴くなんて、想像もしていなかった。


 しかも。


「桜の苗木だよ。大陸でも育つといいんだが」

「………っ!」


 キモノの話をしたときに桜のことも話したけれど。

 それを覚えてくれてるなんてね。


 リディは感激しすぎて泣いちゃったし。

 俺も、すぐには言葉がでなくて。


 ふたりで深々とお辞儀をするのが、精一杯だった。


「泣かせるつもりはなかったんだが……」

「……っ、すみ、ません。うれしく、て」

「そうか。ならば、用意してよかったよ。花が咲いたら手紙をくれるかい?」

「はいっ、必ず……!」


 最後に、リュート様がリディの頭を撫でて、俺の肩をぽんぽんと叩いて。

 長期間お世話になった公爵家とお別れをした。


 そうして向かったシズレまでの旅は。


 行きに寄った梅干のお店で、ジョージ様が定期注文をしていたり。

 朝の体操に加えて、俺が夜やっている筋トレにも食いつかれたり。

 リディが出したおやつが好評で皆から売ってほしいと言われたり。


 もう一度野営をしてみたいシエル様と。

 野宿セットを使ってみたいジョージ様のために、本当に野営をしたり。


 みんな貴族なのに、これでいいのかな?っていう旅だったけれど。

 リディがずっと笑顔で楽しそうだから、俺としては問題ないな。うん。


 ただ、馬車の中でシエル様から聞いた話には驚いたよね。


「一応、君たちにも話しておくよ。結局ね、宰相からは謝罪を受けたんだ。羊のなめし革の話をしたら、漸く自分の浅はかさに気づいたみたいでね。宰相職も辞して領地で隠居するそうだよ」


 おお、メイドを使ってグリーンフィールの弱みを握ろうとした宰相さんか。

 若干、記憶の彼方に飛んでいたけれど、解決したならばよかった。


 まあ、実際は、謝罪以外にもいろいろとあるんだろうけど。

 俺たちがそこまで知る必要はないから。


 これだけ教えて貰えただけでも有難いことだよね。


「メイドも深く反省していてね、結局未遂に終わったから修道院行きとなったんだが、実は、妹のほうが問題のようだ。どうにも現実を認めないらしくて、ご実家が大変みたいだね」


 ダレンさんも、思い込みの激しい娘に好かれて大変だよね。

 こうやって聞くと、あのメイドも被害者みたいに思えてくるよ。


「ああ、そうでした。メイドから、おふたりへのお詫びと御礼を言付かっています。止めて貰って本当に感謝している、とのことでしたよ」


 あの人はちゃんと現実を受け入れられたんだね。

 だからって、やったことは許されないけれど。


 でも、修道院できちんと反省するということならば。

 止められて本当によかったと思う。


 ちなみに、ジング国内の醤油の不正取引については引き続き調査中だという。

 今回はグリーンフィールにもとばっちりが来たから。

 きっちりと調査して不正を正してほしいもんだよね。


「魔術師団と騎士団の件は、何もできなくて悪かったね。さすがに間者程度だとどうにもできなくてね。しつこくて面倒な連中だったけど、ちょっと脅しておいたから、もう手出しはされないはずだよ」


 え、シエル様、何言ったの……。

 その笑顔が物凄く怖いんだけど。


 畏れ多いとは思ってはいても、有難いことに俺たちの後ろ盾は意外と多くて。

 皆、錚々たる人たちだから、それを出されると相手は黙るしかないんだけど。


 それ、言っちゃったのかな?


 とは思えど、決定的なことを言われるのが怖くて。

 俺もリディも追及することはやめておいた。


「最後にね、魅了の件なんだけど、これがまた厄介なことになってね……」


 いや、そもそもが厄介な案件だったと思うんだけど。

 更なる問題が発生したんだろうか。


「あの娘自体はね、魅了の適性はあるらしいが、魔力が少ない娘でね。このところ使ってた魔法もほとんどが魔道具の残滓によるもので、脱走させたのは、魔力のない平民の看守だったそうだ」


 うわぁ……。その看守、何とも気の毒すぎる。


「入手先についてずっと黙っていたのも、安物をしていると知られたくなかった、という見栄でしたよ。まあ、あの娘は、最終的に魔法研究所に送られるということですし、そこで煮るなり焼くなりしてもらえばいいと思うのですが」


 どこまでも面倒な娘だね。


 でも、そうか。研究所送りになるのか。

 所員の皆さん、がんばって。


「問題は首飾りのほうでね。大陸で流行っている『願いが叶う首飾り』として、ガラス玉の首飾りと同じくらいの金額で売られていたんだ」

「それはまた……」


 願掛けとかおまじないみたいなものとして売られていたのか。

 少なくとも、マリンダやランドルで見たことはないけども。


「大陸に買い付けに?」

「それが、大陸の人間が店に売り込みに来たらしいよ。一時期は持ち込んだ商品を売るためにその雑貨店で働いていたみたいだけどね、しばらく前に暇を取って、今は仕入れに飛び回っているとか」


 黒幕とは言わないまでも、確実に何か知ってる人だよね。

 今いないのが残念だな。


 更に聞けば。

 買ったのはあの娘だけではなかったようで。


 現在、必死に捜索してはいるものの。

 数年前からのこととあって、難航しているらしい。


 ただ、気になるのが。

 他の安物の首飾りと一緒に無造作に売られていたらしくて。

 販売対象者を限定していたわけじゃないみたいなんだよね。


「もしかして、ジングは実験台だった……?」

「その可能性が高いね」


 ってことは。


 ジングでの検証結果を元にして。

 大陸で何かしようとしている人がいるわけだよね。


 それは、本当に厄介だね……。


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