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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
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112.彼は彼女の補佐に徹する。

side ラディンベル

 リディの言う通りだったね。


 ゴンザ商会さんと魚屋さんのお力添えのお陰で。

 リディがずっと探し求めていた『鮭』が漸く手に入った。


 その翌日、リディが早速料理してくれたんだけど。

 本当に美味しくて、俺も普通に感動したよね。


 リディが事あるごとに『鮭が欲しい』って言ってたのがよくわかった。


 塩焼きはもちろん、漬け焼やムニエルも美味しかったし。

 鮭フレークっていうのもご飯が進む。

 中骨が食べられることには、声が出ないくらいに驚いた。


 それに、どうやら、海鮭しか生で食べられないみたいだけどね。

 生鮭は酢飯にもぴったりだったな。


 更には、あのスモーク!!


 スモークには、いろんな方法があるんだね。

 スモーク時の温度によって、あんなに仕上がりが変わるなんて吃驚だ。

 しかも、どれも、それぞれの味わいがあって美味しかった。


 夕食の時にリディが切り出していたけれど。

 本当に鮭が輸入できるようになったら、俺もうれしいな。


 自宅でも食べたいのはもちろん。

 鮭のおにぎりも海鮭のスモークも、やっぱり売ってみたいよね。

 売れるのであれば、冷蔵庫の割引なんて何てことはないはずだ。


 そう思いながら、鮭料理や鮭商品に思いを馳せていたのだけど。

 急に話が変わったと思ったら、リディが宣言をしていた。


 うん。とりあえず、『餅つき大会』ってなんだろうね?


 みんなも不思議そうな顔をしていたけれど。

 リディの自信に溢れた顔には何も言えなかった。


 そして、翌日―――――。


 リディの宣言通り、餅つき大会が開催されることになったのだけど。

 俺だってよくわからないから、補佐に徹するまでだ。


 リディは、この餅つき大会のために。

 この前購入した大きな木材を加工していたんだよね。


 木材をくり抜いて物凄く大きな器みたいな形にして。

 くり抜いた部分の形を整えて、長い棒を取り付けて。


 リディ曰く『臼』と『杵』を作っていた。


 それを中庭に運びこんで。

 更には、卓上コンロも設置して、蒸篭で粘り米を蒸している。


「リディアさん、米が蒸しあがったようですよ」

「まあ!料理長さん、ありがとうございます!」


 料理長さんは嬉々としてリディを手伝ってくれているけれど。

 俺たちは、不思議な物体である臼と杵に興味津々だ。


 一体、これをどうするんだろうか?


 そう思っていると、リディは、臼の内側を濡らして。

 料理長さんに蒸しあがった米をすべて投入してもらっていた。


「ラディ、杵でお米を潰してもらえる?」


 え?潰しちゃうの?

 とは思えど、そう言われたら、俺はやるしかないから。


 水で濡らした杵の腹で米を何度か潰していたら。

 米の粒が壊れて米同士がくっついて、何となくひとつに纏まってきた。


「じゃあ、餅つきを始めますね!」


 そう言われて、この場に集まった皆の目が期待に輝く。

 よくわからないけど、きっと美味しいものができるだろうという期待だ。


 招待したゴンザ商会さんも。

 隅に寄って恐縮してはいるものの、目に浮かんだ興味は隠せていない。


「このお米の塊をついたものがお餅と呼ばれるものなんですが……。ラディ、杵を持ち上げて、お餅に向かって振り落として、またすぐに杵を持ち上げて欲しいの」


 どうやら、お米に杵を叩きつけろってことらしい。

 これが『つく』という作業のようだ。


「そのタイミングでわたしがお餅をひっくり返すわ。そしたらまたラディに杵を振り降ろしてもらって、わたしがひっくり返して、って交互にやっていくのよ。杵は適度に濡らしてね」


 なるほど。

 それはわかったけど、この作業、ものすごく怖いね?


 けど、やっぱり、俺はやるしかないから。

 何とか、言われた通りに杵を動かしていたんだけど。


「ラディ、もっと早く、勢い付けて振り降ろしても平気よ?」

「無理」


 そんなこと、できるわけがない。

 と言っても、体力的な問題じゃないよ?


「リディの手を打っちゃったらどうしようって、ただでさえハラハラしながらやってるのに。ましてや、顔に当たったら、と思うと勢いなんてつけられないよ。慎重になるに決まってるでしょ?」

「えー、でも、リズムよくやりたいわ」

「そう言われてたってね……」


 リズムって何だ。


 リディって、時々、本当に無茶なこと言ってくれるよね。

 でも、リディがそうしたいと言うならば、頑張らなければならない。


 そう思って続けていたら、段々コツみたいなのが掴めてきて。

 何となくだけどね、リディの言うリズムとかいうのがわかってきた。


「よいしょーっ!」

「はいっ」


 更には、外野からはよくわからない掛け声がかかり始めて。

 リディまで声を出していた。


 途中で代わってくれるって申し出もあったんだけどね。

 それは丁重にお断りしている。


 杵って結構重たいから、うまくやらないと腰を痛めそうなんだよね。


 護衛さんなら力もあるし、無理もしないと思うけれど。

 力が強すぎて、臼を壊してしまう恐れがある。


 それに、リディのほうも、お餅って、実は、物凄く熱くて。

 氷魔法で手を冷やしながらやっているんだそうだ。


「きれいにひとつに纏まってきたな」

「滑らかになってきましたね」


 その感想の通り。

 餅つきを続けていたら、ツルっとしたひとつの塊になってきた。

 元はあんなに沢山の米粒だなんて想像できないな。


「はい、完成でーす!」

「「「おおおーー!!!」」」


 リディの声に、みんなからも歓声が上がったよね。


「料理長さん、すみません。テーブルの板に、粉を薄く撒いていただけませんか?お餅を載せますので」

「はい。承知しました」


 あ、臼からお餅を取り出すんだね。


 さすがに重たいだろうと思って、取り出すのは俺が引き受けたんだけど。

 これ、本当に熱いね。リディの手、大丈夫かな?


 おまけに、テーブルの上にどーん!と乗せたのはいいけれど。

 これ、どうやって食べるんだろう?


「お餅は、つきたては柔らかいのでそのまま食べられます」


 ああ、そうなんだ。

 これをまた料理するわけじゃないんだね。


「今から千切ってお分けしますので、そちらのお醤油、甘いお醤油、大根おろし、きな粉、あんこの中からお好きなものを付けてお召し上がりくださいね」


 昨日用意していたタレや粉は、そのままつけて食べるのか。

 リディの一押しは、大根おろしだったかな?


「甘い醤油?」

「お砂糖を混ぜてあるんです」

「きな粉って?」

「簡単に言うと、甘い粉です」


 リディ、それは、簡単に言いすぎだよ。

 豆を砕いて、砂糖とかを混ぜてたよね?


「お醤油を付けたお餅は、海苔で巻いて食べてもおいしいですよ」


 そんなリディの追加の説明を受けて。

 この未知なるお餅を、集まったみんなで食べ始めた。


「ああ、旨いな。食べ応えもある」

「すごく伸びるんだね。……うん、もちもちで美味しいよ」

「しょっぱいのも甘いのも、両方合うな」

「元はお米だからか、海苔にもよく合いますね」


 お、なかなか好評だね。


 俺も、伸びることには驚いたけど、それも楽しくて。

 全種類どれも美味しくて、ぱくぱく食べてしまった。


 みんなも食べるのが止まらないみたいだ。


「慌てて食べて、喉に詰まらせないようにしてくださいねー!」


 リディの言葉にみんなが笑ったけれど。


 喉に詰まったら窒息死しかねないと言われて、顔を青くして。

 ご年配の方やお子様には注意が必要だという言葉には神妙に頷いていた。


 そうして、ひとしきり食べたところで。


「このお餅というのは、昨日のお弁当のご飯と同じ米を使っているんだよね?」

「はい。昨日のご飯は蒸しただけなんですが、潰してつくとお餅になるんです」

「成程ね。粘りがあるからひとつにまとまるのか」


 シエル様からの問いにリディが答えていたら。

 今度は、ジョージ様からも質問があがった。


「これは保存もできるのか?」

「密封して、冷蔵で二週間前後、冷凍で一ヶ月位、乾燥させれば数ヶ月は大丈夫だとは思うのですが……、今、確実なことが言えなくてすみません。乾燥して硬くなっていても、焼いたり煮たりすれば柔らかくなりますよ」

「そうなのか。ならば、乾燥させれば遠征にも持って行けそうだな」


 なるほど。

 腹持ちもいいし、確かに、保存食にできれば便利だよね。


「毎日食べるには重たいですし、飽きちゃうと思うんですけどね」

「餅をつくのも大変だよね」

「そうなんです。なので、新年とかお祝い事とか、何かの行事の一環なら、お餅つきも受け入れてもらえるかなって思うんですけど」


 異世界ではそういう時に食べてるのかな?

 だったら、同じようなことができるようになるといいな。


「成程ね。それはいいね」

「たまになら楽しいですし!」

「そうだね。やっぱり、粘り米も定期的に入手できるようにしておきたいね」

「ですね!!」

「ふたりとも、そこで私を見るのはやめてくれないか」


 昨夜も見たようなやりとりに、思わず笑ってしまった。


 とはいえ、いつまでも談笑している場合ではないよね。

 そろそろ、リュート様たちは出仕する時間だからね。


 そう思ってたら、リディが企画書を取り出した。


 そうだった。

 昨日、鮭貿易の話をした後、作っておいたんだったね。

 実は、こっそり殿下や侯爵にも送ってある。


「リディア君。やっぱり、うちの部署に転職しないか?」

「謹んでお断り申し上げます」


 リディがあっさり、というよりは、食い気味に断っているのを横目に。

 俺からは、殿下からの手紙をお渡ししたら。


 シエル様は一瞬遠い目をした。


 そうして、出仕するお三方をお見送りしてから。

 俺たちは、引き続き餅つきをしたんだけど。


 お餅のストックはもちろんのこと。

 リディが大福を作ってくれた時は、使用人さんも含めて大喜びで。


 本当に楽しい餅つき大会になったよね。

 何で『大会』なのかは、未だによくわからないけどね。


 そして、夜―――――。


 お餅で結構お腹を満たしてしまった俺たちは。

 ジョージ様のお誘いを受けて、軽い夕食がてらお酒を戴いていた。


 今日のつまみは、海鮭スモークのサンドにカナッペ。

 野菜スティックにポテトサラダ、そして焼きチーズだ。

 ジョージ様用に、グラタンも用意されている。


「グリーンフィールの食事は、何を食べても本当に旨いな!」


 俺たちを誘ってくれたとはいえ。

 ジョージ様は怪我人だし、騎士だからか、お酒は飲んでいなくて。


 お酒は俺たちに勧めてばかりなんだけど、その分食べていて。

 ―――あんなにお餅を食べたのに、どこに入っているのか疑問だ。


 口に運ぶ度に美味しいと言ってくれている。


 実際は、グリーンフィールの食事ではなくて異世界料理だけどね。

 喜んで食べてくれるからリディも嬉しそうだ。


 それに、ジョージ様は、公爵子息なのにかなり気さくな人だから。

 会話も弾んで、俺たちのお酒も進むんだよね。


 そうこうしていたら、シエル様とロラン様が帰ってきて。

 ―――ジョージ様も別邸にいると聞いたのか、リュート様もご一緒だ。


 テーブルの上の食事やお酒を見て、恨めしそうな顔をしたものの。

 リディが追加の料理を作ってくれたら、一気に笑顔になった。


 何を作ってくれたのかと思ったら、鮭のパスタで。

 すごく美味しそうだったから、今度俺にも作って貰おうと思う。


 そうして、みんなでリディの料理を囲んで。

 午後の餅つき大会の様子や王宮でのことをお互いに話していたら。

 シエル様が嬉しい報告をしてくれた。


「リディア君の企画書のお陰で、貿易の件も順調に話が進んでいるよ」


 この言葉を待ってた!

 これで、リディ念願の鮭ライフに一歩近づいたね。


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