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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
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106.彼と彼女はお世話になる。

side ラディンベル

 リディが楽しそうで、俺も嬉しい。


 王都までの道中、初日はいろいろとあったけど。

 その後は、順調に進んでいて。


 シエル様たちだけじゃなくて、リュート様にもよくしてもらって。

 体操やおやつを気に入った護衛さんも、何かと声を掛けてくれて。


 かなり自由にさせてもらって。

 商会の商品たちも活躍をして。


 途中立ち寄った村でリディが欲しかったものが見つかったりして。

 ―――味見させてもらったら、物凄く酸っぱくて驚いた。

 おにぎりの具になった時も驚いたけれど、想定外に美味しかった。


 リディが笑顔でご機嫌だから。

 旅行に誘ってよかったなって思いながら。

 王都までの最後の休憩をゆるりと過ごしてたんだけどね。


 突然、大きな声で乱入してきた人がいたから驚いたよね。


 でも、リュート様は一瞬驚いただけで。

 なんの警戒もなく、その乱入者のほうに向かっていって。


「少しいいかな。彼らが、君たちに聞きたいことがあるそうなんだ」


 更には、その乱入者を連れて俺たちのほうにやってきた。

 ―――乱入者は、シズレのギルド職員だそうだ。


「魅了の魔石について教えてくれたのが、君たちだと聞いてね」


 ギルド職員はそう言う前に。


 あの首飾りはやっぱり魅了の魔道具で。

 娘は拘束されて現在聴取を受けているって教えてくれたけれど。


 俺たちのこれも、聴取だよね?

 ―――そう思ってシエル様にも同席いただいている。


「お話しできることはお話ししましたけど」

「そうかな?情報源については、話してくれてないよね?」

「情報源と言われましても……。色々な人に話を聞いただけですよ」

「色々な人ねぇ……。例えば?」

「うーん……。魔石に詳しい人とか、商人とか。俺たちだけで集めた情報じゃないので、すべてはわかりません」


 シェリー様から情報をもらってから。

 商会でも調査したから、嘘ではない。


「じゃあ、流通経路なんかは知らないかな?」

「すみません。そこまではわかりません」


 今回、偶然発見するまでは。

 シェリー様の話以外では、魅了の魔石の情報なんてなかったし。

 最近出回ったかどうかは、シェリー様の調査待ちだ。


 だから、正直に答えたのに。

 しょんぼりされて、こちらが悪いことをした気分になる。


 というか、娘から聞き出せなかったんだろうか。

 娘の聴取、うまくいってないのかな?


「大陸で起きた魅了魔法を使った事件についてはどうかな?」

「事件、ですか?」

「何か知らないだろうか」


 シェリー様が巻き込まれた事件のこと、知ってるのか。


 シェリー様の手紙によると、ジングとは関係なさそうだったけど。

 これを聞かれるってことは、今回の魔石は大陸から持ち込まれたのかな?


「ちょっといいかな。君たちが何を知りたいのかはわからないが、その事件のことをジングに伝えたのは私だよ」

「外交官殿が?」

「そうだよ、友好国の誼でね。その時に話せることは話している。内容が内容だけに、我が国では情報規制をしているんだ。だから、もし何か情報が必要なら、国を通してくれないだろうか」


 どう答えようかと思ってたから、シエル様が間に入ってくれて助かった。

 外交問題になる可能性を告げられたら、ギルド職員も黙るしかないよね。


 そういう話になれば、リュート様も黙っているわけにもいかず。

 それからはリュート様とシエル様が話を引き取ってくれたんだけど。


 今度は、もうひとりいたギルド職員に話しかけられた。


「君たち、変わった腕輪をしてるね」

「は……?腕輪、ですか?」


 俺もリディも、膝の上に手を置いているから。

 その男から腕輪は見えないはずなんだけどね。


 いつの間に見られていたのかな。

 とりあえず、腕輪に目を付けられたのはちょっと面倒だ。

 多分、魔道具だって気づかれてるよね。


「さっき、チラッと見えたんだよね」

「そうですか」

「……………」

「……………」

「珍しい腕輪だから、気になってね」

「そうですか」

「……………」

「……………」


 一応返事はするけど、俺たちの手は膝の上のままだ。


「はぁ……。えーっと、見せてほしいのだけど?」

「腕から外してお見せする、ということですよね?お断りします」

「即答だね」

「取り上げられたり、壊されたくありませんから」

「酷いな。そんなことしないよ」


 リディが、珍しく表情を隠しもせずに答えていて。

 ため息までついたから、ちょっと驚いたよね。


「この腕輪、所有者から離れた場所で魔法を……、例えば、鑑 定 魔 法、とかをかけられると粉々に砕けてしまうんですよね」

「っ………!」


 この時、リディが『鑑定魔法』という言葉を殊更にゆっくりと。

 目の前の男をじーっと見て答えたのを見て。


 リディの機嫌が悪い理由を、俺はやっと理解した。

 俺たち、この男に鑑定魔法をかけられていたのか。


 俺とリディは腕輪をしているし、シエル様たちには精霊を付けたから。

 鑑定はブロックされてるけどね。

 こっそり鑑定してくるのはどうかと思う。


 ちなみに、リディが言ったことは本当だ。


 腕輪は随時改良をしていて。

 今では、所有者登録と外した時の対策が付加されている。


「それはすごいね」

「はい。なので、不用意に外したくないんです」

「何故そんな細工をしてるのかな?」

「悪用されるのを防ぐためですよ?」


 性能を知られて対策されるのは避けたいしね。

 盗難に遭って、転売されたり、複製されて商売されても困るしね。


「ジーン、そこまでだ。諦めろ」

「って言ってもですねぇ………」


 リュート様がこのタイミングで割って入ってきた。

 でも、この男、諦めが悪いね。


「万が一、本当に壊してしまった場合、お前に弁償できる代物じゃないぞ」


 リュート様には、道中、散々見られているからね。

 さすがに気づいているか。


 でも、仰る通り、弁償はいろんな意味で難しいと思う。


 リディの腕輪は、高級な純銀製の凝ったデザインのチェーンだし。

 ―――リディによると、銀ではなくてプラチナという金属らしい。


 俺のは、蔓を幾重にも巻いているんだけどね。

 ダズル様がくれた超貴重な蔓だから、簡単には入手できないんだ。


 使ってる精霊石だって最高級品だし。

 これに幾らかかってるかなんて、俺だって考えたくない。


「じゃあ、最後にひとつだけ。その腕輪は何の魔道具なんだい?」

「我が身を守るための魔道具ですよ」

「守るため?攻撃要素はないのか?」

「ひとつ、じゃなかったんですか?」

「君、顔は可愛いのに、性格は可愛くないんだね」


 なんだと!?

 リディは性格だって、すごく可愛いけど!?


「それは失礼しましたわ。とりあえず、攻撃はできません」


 この魔道具では、だけどね。


 俺たち、攻撃なら自力でもできるしね。

 精霊もいるしね。

 むしろ、俺たちって戦力過剰だからね。


「すみません、感情的になっちゃいました」


 あの後、どうにかギルド職員には諦めて帰ってもらって。

 俺たちもそろそろ王都に向けて出発することになったんだけどね。


 リディが、しゅんとしながら、みんなに謝っていた。


 でも、みんな、リディのことを擁護してくれたから。

 リディもホッとしたみたいだったけどね。


 ここで、シエル様が予想外のことを言い出したんだ。


「リュート殿。今回は公爵家に私達の部屋を用意してくれているということだったけれど、申し訳ないが、それはまたの機会にしてもらえないだろうか」

「ん?どうしてかな?」

「さっきの彼は簡単に諦めそうにないし、変に話が広がっていたら、ラディンベル君とリディア君は付き纏われる可能性が高いと思ってね」


 あー、それはあるかも。

 認識阻害をかけて行動したほうがいいかな?


「だから、彼らと同じ宿に泊まろうと思うんだ。外交官の私なら牽制になるだろうし、彼らのことは友人にも頼まれていてね」

「ジーンのことは否定できないのがつらいな。だが、そういうことならば、彼らも我が家に泊まればいい。さすがに公爵家には手を出してこないはずだ」


 え、ちょっと待って。

 なんか、とんでもない話になってないかな?


 俺たち、旅行で来てるだけのただの平民だから。

 ここまでだって破格の対応してもらってるのに、これからも、なんて。

 あってはならないと思う。


「あの、ご厚意を無下にするようで申し訳ないんですけど」


 恐れ多い、とか、そこまで迷惑をかけられない、とか。

 俺たちは、思い付く限りの言葉を使って丁重に辞退したんだけど。


「我が家では、何か問題があるのだろうか」

「いえ!滅相もないです。本当に光栄なお話です」

「ただ、その……。実は、お料理をしたいのです」

「料理?」


 そうなのだ。


「今回の旅の目的のひとつが、大陸にない食材を探すことなんです。それで、探している食材が見つかったら、それを使ってお料理をしたいと思っていて」


 リディは異世界料理を再現したいし、俺もそれを楽しみにしている。


 だから、もし、食材が見つかったら。

 旅行中でも自分たちで料理をするつもりだったんだよね。

 せっかくの食材を前に、帰国まで待ってられないからね。


「ゴンザ商会さんに厨房をお借りする予定だったんですけど」

「今のお話だと、俺たちがゴンザさんのところに頻繁に出入りすると、ご迷惑をおかけするかもしれないってことですよね……?でしたら」


 多分同じ気持ちだろうと思ってリディに顔を向けたら。

 頷いてくれたから。


「宿を取らずに野営しようと思います」

「「は?」」


 王都で野営っていうのは無理があるかもしれないけどね。

 食材さえ手に入れば、郊外に出たっていいしね。

 結界を張れば、さっきの男に煩わされることもないだろうしね。


 そう思って、野営宣言をしたんだけど。

 リュート様やシエル様は微妙な顔をしたままだ。


「では、別邸をお使いいただいたらどうでしょうか?」

「ああ、そうか。それがいいな。使っていない別邸があるんだ。そこなら、厨房も自由に使ってもらって構わないよ」


 リュート様の侍従さん、何、提案してるんですか。

 そして、リュート様も、何、賛成してるんですか。


 おまけにシエル様まで、何、名案だね!みたいな顔してるんですか。


 結局、俺たちの抵抗むなしく、公爵家にお世話になることが決定し。

 シエル様たちも別邸で過ごすことになってしまった。


 どうしてこうなった。


 そうして、俺とリディは半ば呆然としたまま馬車に揺られ。

 本当に公爵家にお邪魔して。


 別邸にご案内いただいて。

 ―――護衛さんが先に馬を走らせて、指示を出してくれていたようだ。


 義両親と侯爵に手紙を書いて。

 ―――公爵家にお世話になることとギルド職員とのやりとりの報告だ。


 早速厨房を使わせて貰って、手土産のどら焼きを作って。

 着替えてから本邸に伺って。


 リュート様の奥方様は息子さんを連れて帰省しているとのことだから。

 弟君のジョージ様にご挨拶をして。

 ―――騎士団に所属しているものの、怪我をして自宅療養中だそうだ。


 ジョージ様からいろんな質問を受けて。

 ―――救急箱や朝の体操のことをバラされて、根掘り葉掘り聞かれた。


 夕食までご馳走になって。


 ―――美味しかったけど、味が濃かったように思う。

 リディが、ジングでは出汁を使ってないんじゃないかって言ってて納得した。

 馬車の御者さんも、だから、リディの料理の方が美味しいって言ったんだね。


 そして、別邸に戻ってきたわけだけど。


 夜も深くなって、それこそ寝ていてもおかしくないこの時間。

 俺は久しぶりに、影みたいなことをしている。


 できれば、杞憂に終わってほしいな、と思いつつ。

 気配を消して様子を窺っていたんだけどね。


 残念ながら、俺の予想が当たってしまったようだ。


「公爵家のメイドさんが、こんなところで何をしてるんですか?」


 俺たちが今いるのって、天井裏なんだよね。

 ほんと、何してたんだろうね?


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