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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
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103.彼女と彼は進言しておく。

side リディア

 わたしたちって、トラブル体質なのかしらね。


 念願のジング王国に上陸して。

 のっけから魚屋でやらかしてしまったけれど。


 レオン様が引き合わせてくれたシエル様やロラン様はいい人だし。

 偶然にも、ジングの筆頭公爵家のご当主にご挨拶ができて。

 王都までご一緒させていただくことになった。


 そうして、二台の馬車で連れ立って王都に向かっていたら。

 ラディが、盗賊の気配を察知してしまったのよね。


 見て見ぬふりなんかできなくて。

 ラディと精霊が討伐をしに行ってくれて。

 わたしは怪我の手当てに務めたんだけど。


 襲われていた馬車に乗ってた娘が、ちょっと問題なのだ。


 気づかなかったふりをすることもできるけれど。

 それは後味も悪いから。


「話だけして、あとの対応はジング側に任せることにしよう」

「そうね。被害が出てたら大変だもの」


 ラディとそう決めたところで。

 シエル様たちが警備隊を引き連れてやってきて。


「ああ、よかった!いきなり飛んで行ってしまったからびっくりしたよ」

「おふたりとも、お怪我はありませんか?」


 駆け寄ってくれたシエル様とロラン様の様子に。

 すごく心配をかけてしまったことに今更気づいて全力で謝った。


「じゃあ、状況を説明してもらえるかな?」


 リュート様のその言葉で、その場が報告会となったわけだけど。


 討伐は完了していて。

 既に、怪我人の手当てまで終わっていることにすごく驚かれて。

 ―――救急箱の説明は、シエル様に任せた。


 警備隊員に御礼まで言われてしまって恐縮したわ。


 でも、重要なのはここからだ。


「それで、ひとつ、気になることがありまして」

「気になること?」


 それに頷いて、問題の娘について説明した。


「襲撃された馬車には年若い娘が乗っているんですけど」

「その娘の首飾りがちょっと厄介なものかもしれません」

「厄介?」

「はい。その首飾りは魔道具で、魔石の色がピンクなんです」

「ピンクの魔石……?それは珍しいな」


 そうなのだ。

 基本的に、ピンクの魔石が市場に出回ることはない。


 すごく珍しいから、ということもあるけれど。

 一番の理由は『魅了の魔石』だからだ。


 ―――これはシェリー様からの続報だ。

 と言っても、シェリー様のことは話せないので。

 魔道具を扱う商売柄、魔石の情報を集めている、ということにした。


「魅了の魔石!?」

「通常は、発見されたらすぐに回収されるそうなんですが」


 あの娘は首飾りにして身に着けているのだ。


「それは確かなのか?」

「魔石ではなくて、宝石やガラスということはないのか?」


 そうだったら、どんなに良かったことか。


「ピンクの石から魔力が放出されていましたから」

「君は、魔力の流れがわかるのか?」

「………ある程度は」


 意識すれば魔力を認識できるし、今回は精霊も警戒していたのだ。

 それに、ラディの腕輪が反応したんだから間違いないと思う。


 でも、できれば、腕輪のことは話したくないのよね。

 伯父様からもなるべく秘匿するように言われているし。

 関心を持たれても困るしね。


「可能性は高いわけだ」

「そう思います」

「よりにもよって、魅了か……。確かに厄介だね。我が国では、魅了は当然ながら、精神作用のある魔法を使うのは禁止されているんだが」

「もちろん、ジングでも禁術だ」

「であれば、あの娘を捕えなくてはならないんじゃないか?」

「それはそうなんだが、確証がないとな」


 ということで、泳がせるのか、ここで片を付けるのか。

 これからの方針を確認しつつ。


 魅了対策についても、わかる範囲で話をしておいた。


「あ、近づいてきますよ、あの娘」

「目を合わせない、触れない、意思を固く持つ、だったな?」

「はい。後は、もし魔力を感じたら何とか抵抗してください」


 わたしのその言葉に、みんなが頷いて。

 娘のほうに顔すら向けずに話を続けていたんだけど。


 娘は、こちらの空気を全く読まずに話しかけてきた。


「あの!あたしたち、王都に帰るところなんですけど、一緒に連れて行ってもらえませんか!それか、護衛を貸してもらえるだけでもいいんですけど」


 あらまあ、随分と図々しいこと。


 馬車は無事だとはいえ、護衛は重症だし、御者も怪我をしていたから。

 お気の毒だとは思うけど。


 こっちの素性も行先も解らない状態でよくそんなことが言えるわね?

 しかも、護衛を貸せだなんて、軽々しく言える話じゃないんだけど。


 リュート様を始め、こちらの面々もそう思ったのか。

 みんな、唖然としたり、呆れた顔をしていたわよね。


「え、ちょっと!無視しないでください!」

「……警備隊に状況を報告しているんだ。少し待ってくれないか」


 こちらが何も答えなかったからか、逆切れされてしまったけれど。

 リュート様が娘を黙らせてくれたわ。


「厚かましい娘ですね。どうしますか?」

「もちろん、連れて行く気も護衛を貸す気もない。やっぱり、シズレに戻るように誘導しよう。あの街のギルドには特殊魔法が使える人間がいるんだ。そいつなら、あの娘や問題の首飾りの正体を暴いて回収してくれるだろう」


 正体を暴く……。

 ってことは、鑑定魔法が使えるのかしらね?


 貿易港のあるシズレには、いろいろなものが持ち込まれるだろうから。

 そういう魔法が使える人が常駐していてもおかしくはないわね。


「私が話をつけてくる」


 え、リュート様が直々に?

 それは危険なのでは?


 と思ったのはわたしだけじゃなくて、側近や護衛が慌てて止めていたけれど。

 リュート様は『十分に気を付ける』と言って、娘のほうに行ってしまった。


「お待たせした。グイナ男爵家のご令嬢だろうか?」

「え、すっごーい!どうしてわかったんですか?!」

「あの紋章は嫌でも目に入る。男爵は馬車の中に?」

「お父様は馬車にいますけど……。うちの紋章ってそんなに有名なんですか?」


 この娘、本当に貴族令嬢なのかしら。

 さっきから色々と酷すぎるんだけど。


 っていうか、なんで、少し誇らしげにしてるんだ。

 紋章の件は、言ってみれば嫌味よ?


 馬車に目立つように紋章を掲げちゃうなんて。

 王都ならまだしも、田舎道じゃ襲ってくれって言ってるようなものだもの。


 だいたい、リュート様を見て何も思わないのかしら。

 当主の指輪に気づかなかったとしても。

 貴族だってことくらいはわからないもんかしらね?


 なんか、本当に残念過ぎる娘だわ。


「馬車から誰か出てきましたよ」

「男爵だろう。目の前の人物が誰なのかわかっていないのだろうが、それにしても随分と不遜な態度だな」

「助けてもらったっていうのに、酷い態度ですね」


 まったくだわ!


 あ、でも、急にへこへこし出したわね。

 やっと気づいたのね?


「あの娘、すごいっすね。男爵の様子を見るに、相手が誰なのか判明したんだろうに、果敢に話しかけようとしてるっすよ」

「グイナ男爵は、去年あたりに叙爵したばかりなんだそうだ。だから、貴族のことがわかってないんじゃないか?」


 だとしても、あの娘の言動はないわー。


 魅了魔法のおかげで誰にも咎められないのかしらね?

 本当に厄介な魔法だわ。


 なんて思いつつ、みんなの実況中継を聞いていたら。

 疲れた顔をしたリュート様が戻ってきた。


「忠告しておいてくれて助かったよ。一瞬、あの娘と目が合ったときにクラっときた。確かに何らかの魔法を使っているようだ。首飾りの石も確認したよ」


 これ、多分。

 意識してたから、魔力に抵抗しようとしてクラっとしたんだと思うけど。

 じゃなかったら、ぼーっとするくらいなんじゃないかと思う。


 とにかく、リュート様が魅了にやられなくてよかった。


 男爵側も、さすがに公爵家に逆らうことはできず。

 おとなしくシズレに戻るようだ。

 チラッと見えた娘の顔は、とっても不服そうだったけどね。


 そうして、警備隊が男爵家の馬車を引き連れて行くのを見送って。

 娘の件は、シズレのギルドに一任することになって。


 わたしたちは先に進むことになったんだけど。

 シエル様の馬車に乗り込んだら、早々にラディが話しかけられていた。


「討伐では随分と活躍したそうだね」

「奇襲が功を奏したんだと思います」

「だとしても、うちの護衛が駆け付けた時には、既にほぼ終わっていたと聞いたよ。しかも、君は剣を抜かず、盗賊の外傷も少なかったというじゃないか」


 あー、そっか。

 精霊がやっつけた分は、外傷がなかったかもしれない。


「リディア君の風魔法にも驚いたけどね。ラディンベル君は気配察知も素晴らしかったが、魔法攻撃が得意なのかい?それとも……」


 うーん。

 これは、何を探られているのかしら。


 シエル様たちはグリーンフィールの人だから。

 精霊のことなら話しても大丈夫かしらね?

 これから事ある毎に探られるのも面倒だしね。


 ラディもそう思ったのか、同意してくれたから。

 精霊たちに出てきてくれるようにお願いしたら。


『いいのー?』

『いじわるしないー?』


 と、不安そうにしながらも。

 わたしたちの後ろからひょこっと顔を覗かせてくれた。


 それを見たシエル様とロラン様が黙ってしまったから。

 問題があったのかと焦ってしまったんだけど。


「もしかして、精霊も入国審査が必要でした?」

「は?」

「いや、そうじゃなくてね?」


 どうやら、シエル様たちは精霊を見たのが初めてで。

 びっくりして声が出なかっただけらしい。


 グリーンフィールは精霊の国って言われてるけど。

 実は精霊を見たことがない人が多いっていうのは本当なのね。


 ということで、口止めはしつつも。


 牽制の意味も込めて。

 ―――力を貸すのは構わないけど、利用されたくはないのだ。


 四体のうち、二体はわたしが小さい頃から一緒にいる精霊だけど。

 もう二体は、ダズルとシェロの精霊だということを説明したら。


 ふたりとも目を丸くして、また固まってしまった。

 そして、一拍おいて。


「はああ!?」

「まさか、出航の日にご両親の近くにいたのは……」

「ダズルとシェロです」

「精霊王様と竜王様に見送ってもらってたってことですか!?」


 は?

 わたしは、今、衝撃の事実を聞いた気がする。


「シェロって竜王だったのね……」

「シェンロン様って面倒見も良いし、慕われてそうだよね」


 それは……、そうかも。


「君たちは、一体何者なんですか……」


 一介の商売人ですよ?


 というか、そんなことよりも。

 シエル様たちには精霊のことを隠さなくてもいいのであれば。


「あの……、申し訳ないんですけど、この子たちにおやつをあげてもいいですか?討伐で頑張ってくれたので」

「え?あ、ああ、もちろんだよ」


 これには、精霊も瞬時に反応して。


『おやつー!』

『おやつくれるのー?』

『やったあ!』


 ダズルの精霊は声には出さなかったけれど、わくわくしていたわ。

 こんなに可愛いのに強いなんて、精霊って反則よね。


 そうして精霊たちのリクエストにお応えして。

 マジックルームからプリンを出してあげたら。


 精霊たちは目をキラキラさせて。

 自分の体に対して大きすぎるスプーンを器用に使って食べ始めたから。


 シエル様たちもその姿に和んだのか、にこにこと精霊たちを見ていた。


「精霊は甘いものが好きなのかい?」

『すきー!』

『おいしいー』

『我が王は独り占めしようとするので見張りを付けています』

『シェンロンとはいつも取り合いになるぞ!』


 え、ダズルとシェロってば、何してるのよ……。


 これはちょっと、精霊王と竜王の威厳に関わるので。

 シエル様たちに、口外しないようにお願いしていたら。


 馬車が止まって、扉がノックされたからびっくりしたわ。


 精霊たちにはまた隠れてもらったけれど。

 一体、どうしたのかしらね?


 ラディが反応していないから、また盗賊ってことはないだろうし。

 今度は何があったのかしら。


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