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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
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102.彼と彼女は救出する。

side ラディンベル

 リディは、やっぱり、どこに行ってもリディだったよね。


 漸く旅行前の仕事が片付いて。

 俺も、ジング語で何とか一般会話程度は話せるようになった。


 そうして、晴れて新婚旅行に行ける運びになったわけだけど。


 心配性の義両親が船着場までやって来たのは想定内だとして。

 ダズル様とシェンロン様が見送りに来てくれるとは思わなかった。


 ましてや、いつも一緒にいる精霊をお供につけてくれるなんて。

 思ってもみなかったよね。


 レオン様が来てくれたことだって想定外だったし。

 同じ船に乗る外交官を紹介してくれたことにも、本当に驚いた。


 そんな有難いお見送りを受けて。


 外交官のシエル様とロラン様にも色々と教えてもらいながら。

 三日間の船旅を楽しく過ごして。

 遂に、念願のジング王国に上陸したんだけどね。


 リディが早々にやらかしてくれた。


 いきなり魚屋に行くのもどうかと思うんだけど。

 そこで、まさか、鮪の中落ちのプレゼンをするとはね。


 実は、俺がこのプレゼンを見るのは二回目だ。


 グリーンフィールに移住したばかりの頃。

 リディは、マリンダの港で全く同じことをしたからね。


 だから、懐かしくもあったけど。


 何も、旅先でやることじゃないよね。

 まあ、何処に行ってもリディはリディってことかな?


 シエル様たちにはすっかり呆れられてしまったけど。


 俺たちを見捨てることもなく。

 予定通り王都まで馬車に乗せて行ってくれるなんて。

 本当にいい人たちだと思う。


 でも、ちょっと、今のこの状況は。

 できれば事前にご説明願いたかったよね………。


 と、思ったのも―――――。


 シエル様たちの馬車の準備が整うのを休憩処で待っていたら。

 そこにお客さんが来たんだよね。


 その人を見て、シエル様はちょっとびっくりした顔をしながらも。

 笑顔で握手をしていたんだけど。


 その様子を見たリディが固まったから、どうしたのかと思ったら。

 俺にしか聞こえない声で『クラムウェル公爵閣下』と呟いたんだ。

 それで、俺も固まったよね。


 は?

 確か、クラムウェル公爵家ってジングの筆頭公爵家じゃなかった?

 何で、そんな大物がここにいるの?!


 目の前ではシエル様と公爵閣下がにこやかに会話をしているけれど。

 俺たちはそれどころじゃない。


「まさか、ここで君に会うとはね。驚いたよ」

「所用でシズレに来ていたんだ。シエル殿がもう到着していると聞いてね。せっかくだから、一緒に王都に戻ろうと迎えに来たんだが……」


 そんな会話を他所に。

 俺たちは、ジング式の高位貴族に対する礼を取り続けている。

 ―――国によって礼の取り方も違うから、結構、面倒だよね。


「この人たちは………?」

「え?!どうしたの?!」

「クラムウェル公爵閣下の御前ですので……」


 頭を下げている俺たちに、シエル様もびっくりしたようだけど。

 平民の俺たちが無礼を働くことは許されない。


「とりあえず、頭をあげてくれないか」


 そう言われて漸く顔を上げた俺たちを、公爵閣下はしげしげと見て。


「どこかで会っているだろうか?」


 と聞かれたけど、もちろん初対面だ。


 っていうかね、筆頭公爵家の当主がこんなに若いなんて思わなかった。

 多分、シエル様と同じ位か、少し年下なんじゃないかと思うんだけど。


「この度、お初にお目に掛かります。グリーンフィール王国より参りましたラディンベルと申します」

「妻のリディアでございます」

「確かに初めて聞く名だな。では、なぜ、私が公爵家の者だと?」


 どうやら、閣下も外交官らしいんだけど。

 会ったこともなければ、シエル様が事前に紹介しているわけでもないと聞いて。

 ちょっと混乱しているようだった。


「閣下の右手の中指の指輪に、鷹の紋章がございましたので」

「っ……!これは驚いた」


 ですよね。

 だって、これは、リディの嘗ての王子妃教育の賜物だから。


 ジング王国って、貴族家の当主は右手の中指に指輪をするらしいんだよね。

 で、その指輪に家紋が彫られてるわけだけど。


 恐ろしいことに、リディは、周辺諸国すべての貴族の紋章を覚えてるんだ。


「グリーンフィールでは、そんなことまで教育をするのか?」

「いや、さすがに他国のことをそこまで詳しくは学ばない。というか、君たちは平民だよね?」


 俺たちが平民であることに閣下は更に驚いたようだけど。

 この国に来るにあたって色々と勉強したということで納得してもらった。


 そんなこんなで、想定外の出会いであったにも関わらず。

 閣下は、俺たちにも丁寧にご挨拶してくださって。

 ―――リュート様というお名前だそうだ。


 俺たちがリアン商会の会長の娘夫婦であることが明かされて。

 ―――ジングに支店はないけど、取引はしている。


 王都までシエル様たちに同行することが伝えられると。

 ならば、一緒に行こうと、早速出発することになった。


 公爵家の護衛の馬に先導されて。

 公爵家の馬車とシエル様たちの馬車が続いて。

 シエル様たちの護衛の馬が殿を務めるようだ。


 ―――当然、シエル様とロラン様にも国から護衛兼侍従がついてきている。

 御者は、ジングの人を雇っているみたいだけどね。


 俺たちは、当初の予定通り。

 シエル様たちの馬車に同乗させてもらった。


「びっくりしました……」

「それはこっちの台詞だよ。良く知ってたね」


 そこは、曖昧に笑ってやりすごして。


 リュート様はやっぱりまだ二十代で。

 先代公爵が体調を崩されたために若くして爵位を継いだんだけど。

 自分は外交官を続けていて、領地経営は代官に任せているらしい。


 なんていう公爵家情報を教えてもらいながら。

 馬車は順調に進んでいたんだけどね。


 シズレの街を過ぎて、山道に入ったところで。

 俺の気配探索が仕事をしてしまった。


 あー、これ、最悪かもしれない。


「すみません、ちょっと止まれませんか?」

「どうしたんだい?何かあったかな?」

「前方に不自然な気配があるんです。数人ずつ固まっているんですけど、動かないんですよね。この一行の少し前に、他の馬車も走ってるんで……」

「え、それ、盗賊ってことですか!?」


 だと思うんだよね。


 ということで、公爵家の馬車にも止まってもらって。

 どう対応するかを決めることになったんだけど。


 馬車の外に出た瞬間に、不自然な気配が動いた。

 遠くに剣がぶつかる音もする。


「あ、やばいかも。リディ、飛ばしてくれる?」


 ちょっと、相談している場合じゃなくなったから。

 リディの風魔法で現場まで飛ばしてもらうことにした。


「無理しないでね。気を付けて」


 ここで見て見ぬふりなんてできないのは、リディも一緒だ。

 だから、心配してくれながらも俺を飛ばしてくれて。


 精霊も三体付けてくれたから。

 ―――もちろん、一体はリディの護衛に残しておく。


 俺と精霊たちは、盗賊に空から奇襲をかけた。


 着地に合わせて盗賊の顔を蹴り飛ばして。

 その反動で別の盗賊をまた蹴り飛ばして。


 メリケンサックで急所を狙って。

 その間に、精霊たちが、風魔法や雷魔法で盗賊を無力化してくれて。


 そうこうしていたら、シエル様が護衛を援護に回してくれたようで。

 シズレの警備隊を呼びに行っていることを教えてもらいながら。

 俺たちは、共闘して盗賊を討伐したんだよね。


 そうして、盗賊全員を無力化して、捕縛していたら。


 襲われていた馬車に乗っていただろう若い娘が出てきてしまった。

 まだ完全に安全だってわかったわけじゃないんだから。

 ふらふらしないで欲しいんだけどね。


「あの!」


 面倒だから無視してたんだけど。

 構わずに近づいてきて、俺の腕を取ろうとしたから慌てて避けたよね。


「……不用意に異性に触れるのはやめたほうがいいですよ」

「あ、ごめんなさい。意外とお堅いんですねー」


 馬車の紋章を見るに、この娘って貴族だよね?

 お堅いとかそういう話じゃないと思うんだけど。


「それで、何か?」

「え、あの、助けてもらった御礼を言おうと思って」

「そうでしたか。それはご丁寧にどうも」


 しょうがないから、適当に返事をしていたら。


 リディが飛んできたのが見えたから。

 着地点まで走って行って抱き止めた。


「びっくりした。勢い付け過ぎだよ。無茶しないで」

「精霊から終わったって聞いて」

「だからって飛んでこなくても」

「怪我は?」

「俺はしてないよ」

「俺は、ってことは、怪我人がいるのね?手当てしてくるわ!」


 リディは、俺の話を聞いているようで聞いていなくて。

 怪我人がいるとわかった途端に走って行ってしまったから。


 それを見送っていたら。


「不用意に異性に触れるのは、よくないんじゃないですかー?」


 咎めるような揶揄うような声が聞こえて、げんなりしたよね。

 さっきの娘、まだいたのか。


 本当に面倒そうな娘だし。

 できれば、この娘の近くにはいたくないんだよね。


「俺たち、夫婦なんで」

「は?え?夫婦?………結婚してるんですか?」

「してますよ」


 それがどうした。もう四年目だ。


「まだ安全が確保できたわけじゃないので、馬車に戻っていただけませんか」


 話に付き合う気はないし、勝手に動いてもらっても困るから。

 娘には馬車の中に入ってもらって。


 周辺を窺ってみたけれど。


 残党らしき怪しい気配はなかったし。

 援護に来てくれた護衛さんが盗賊の捕縛を続けてくれていたから。


 彼らに断って、リディのところに行くことにした。


「怪我の具合はどう?」

「応急処置はしたわ。でも、きちんと医師に見てもらったほうがいいと思う」


 リディなら、回復魔法も使えそうなんだけどね。

 使えないと聞いたときは驚いた。


 どうやら、体に直接関わる魔法が苦手なようで。

 身体強化とかもあまりできないようなんだよね。


 ということで、リディは救急箱を常備しているんだけど。


 この救急箱。

 そもそもは、俺が、不注意で指を切ってしまったときに。


『あーもう!救急箱を作っておけばよかったわ!』


 リディがそう言ったのが始まりなんだ。


 気になって詳しく話を聞いた俺が侯爵や義父上に相談して。

 医師団と薬師組合を巻き込んで作り上げたんだよね。


 モノがモノだけに、管轄は医師団だし。

 薬局を含む医療機関でしか販売されていなくて。


 しかも、医師団の講習を受けて。

 試験に受からないと購入もできないんだけどね。


 これ、本当に便利で助かっている。

 今回も大活躍したようだね。


「うっ……。あの……。助けていただいた上に、手当てまでしていただいて、本当に、すみません。ありがとうございます」


 呻き声が聞こえたと思ったら、御礼を言われた。

 一応、話せるくらいには回復したのかな?


 今回、一番深手を負ったのは。

 御者を庇って怪我をした、襲われた馬車の護衛さんなんだけど。


 正直に言わせてもらうと。

 貴族の紋章背負った馬車に護衛ひとりっていうのが無謀だったわけで。

 この護衛さん、すごくがんばったと思うよ。


 だから、彼を労って。

 もうすぐ警備隊が来ることを伝えて。


 他の怪我人の手当ても終わっていることを確認した俺は。

 リディに、ずっと気になっていたことを話すことにした。


 他の人には聞かれなくなかったから。

 隅に寄って。

 声を潜めて。


「リディ。あの娘、ちょっとやばいね」

「やっぱり?精霊も警戒しているのよ」

「さっき話しかけられたときに、腕輪も反応したんだよね」

「となると、本当にやばいわね。それに、あの首飾り……」


 ああ、そうか。

 なんか引っかかってると思ってたんだけど、首飾りだ。


 話に聞いてただけだった代物なんだけどね。

 まさかこんなところで実物を見ることになるとはね……。


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