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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
105/149

101.彼女と彼は上陸を果たす。

side リディア

 わたしは、大変ご機嫌である。


 録音音楽の事業も、漸く実現化が近づいてきて。

 レシピ本の撮影も、ラディのおかげで予定よりも早く終わって。


 生ハムだって、工房ができあがって製造が始まったし。

 海老の輸出は、先日遂に取引が開始されて評判も上々。

 魔動自転車も、シェリー様から喜びのお手紙をいただいたところだ。


 お義兄様たちの結婚パーティー前後から忙しくしてきたけれど。

 これで、少しはゆっくりできるかしらね、なんて思っていたら。


 ラディが、新婚旅行を計画してくれていた。


 婚約指輪のときもそうだったけれど。

 ラディって、ほんの些細な話も覚えてくれていて。

 それをきっちりと果たしてくれるのよね。


 わたしが恥ずかしがったり照れてしまうようなことだって。

 ラディは平然と言葉に出して、行動にも移してくれるから。


 逆切れしちゃったり、自滅して落ち込みはするけれど。

 でも、本当にうれしいのよ?

 …………恥ずかしいだけで。


 今回だって、新婚、というには時が経ちすぎているけど。

 ラディと二人で旅行できるってことが、すごくうれしい。


 ということで、わたしはご機嫌なのである。

 前倒しの仕事だって、旅行が待ってると思えば全然頑張れるわ。


 そうして、みんなに冷やかされながらも、やるべき仕事を終わらせて。

 ラディがジング語を覚えている間に、わたしは文化や歴史を勉強して。


 やっぱり、ジングは日本っぽい国で。

 黒髪の人が多くて、顔立ちや文化も日本とかアジアっぽくて。

 でも、ここ近年は、かなり大陸の影響を受けていて。

 特に、食事や服装は大陸とあまり変わらなくなってきている。


 なんて情報を集めていたら、あっという間に月日が過ぎ去った。


 そして、旅立ち当日―――。

 わたしとラディは、両親とダズルとシェロに見送られている。


「ふたりとも、仕事のことは気にせずに楽しんでおいで」

「リディアちゃん、羽目を外さないようにね。変なものも食べないように。あと、知らない人について行かないで。それと」


 わたしは子供か。


「大丈夫よ。気を付けるわ。手紙も書く」

「ラディン君、よろしくね」


 わたしへの信頼が全くない。


「何かあったら連絡しろ。すぐに行ってやる」

「こ奴らを連れていくがいい」


 シェロとダズルは過保護が増してるんじゃないかしら。

 というか、こ奴らって?


『何なりとお申し付けください』

『よろしくな!』


 おお!彼らは、ダズルとシェロにいつもついている精霊たちだ。

 ダズルの精霊は礼儀正しくて、シェロの精霊はやんちゃそうね。


「いいの?」

「何があるかわからんからな。連れていってくれ」

『いっしょにいくのー?』

『わーい!よろしくねー』


 わたしたちについてる精霊もうれしそうね。

 ならば、お言葉に甘えようかしら。


 そう思って、ラディと一緒に御礼を言って。

 お母様からまた子供の遠足の注意点みたいなことを聞いていたら。


「あ、いたいた。ラディンベル君!リディア!」


 という声が聞こえてきたから誰かと思ったわ。


「レオン様!」

「久しぶりだね。何か心配してもらっちゃってたようで、ごめんね。でも、本当に大丈夫だし、君たちに全く責任はないから」


 そうなのよね。

 離縁したって聞いて心配してたんだけど、お元気そうでよかった。


 わたしの誘拐のせいかもって思ってたのも杞憂だったみたい。

 気を遣ってくれてるだけかもしれないけどね。


 にしても、わざわざ来てくれるなんて、と吃驚していたら。


 両親にも挨拶をしてくれたレオン様が再度わたしたちのほうを見て。

 ―――ダズルとシェロは、他人の顔をしていた。


「この人、ライデルク侯爵家の嫡男のシエルさんっていうんだけど、外交官なんだ。同じ船に乗るって聞いたから紹介したくて」


 そう言って、レオン様の後ろにいた男性を引っ張ってきた。

 レオン様より少し年上、多分三十前後の真面目そうな人だ。


 どうやら、そのシエルさんの弟とレオン様が同級生で。

 王都のお邸も近所で、付き合いが長いらしい。


 それを聞いた両親が、親馬鹿よろしく、わたしたちのことをお願いしていて。

 ちょっと恥ずかしかったけれど。


 船上だけとはいえ、知ってる人がいるっていうのは心強いから。

 わたしたちも、ちゃっかり、よろしくお願いすることにした。


 そうこうしていたら、出航の時間になって。

 船に乗り込んで船が海を走りだしてからも。

 両親たちやレオン様が見えなくなるまで手を振り続けたわ。


「ジングへは初めてかい?」

「はい。興味はあったんですけど、行くのは初めてです」


 ライデルク侯爵子息様は、次期当主なわけだから。

 わたしもラディも、実は、ちょっと緊張してたんだけど。


「私のことは、シエルで構わないよ。それと、彼は、私の部下のロランだ。今回の外交は、交渉というよりは情報交換でね。私たち二人だけなんだ」


 と、笑顔で言ってくれて、印象よりもずっと気さくな人で。


 ロラン様――伯爵家の次男らしい。ラディと一緒ね――も。

 愛想がよくて、気遣いに溢れた人で、とっても話しやすかったわ。


 実は、グリーンフィールとジングは結構近くて。

 船旅は三日間の予定なのよね。


 その間、シエル様とロラン様がジングのことをいろいろと教えてくれたから。

 紹介してくれたレオン様に感謝は尽きなかったんだけど。


「そういえば、以前は相当揺れたみたいですよ」

「数年前に船が大幅に改良されて、羅針盤っていう便利な道具も導入されたんだよ。それから船旅が劇的に快適になったんだ」


 という話になった時は、目が泳いだわよね。

 それ、わたしの仕業なので。


 ―――移住の際に羅針盤を献上したら、その後、他にも色々と聞かれたから。

 覚えてる限りだけど、造船についても説明したのよ。


 まあ、そんなこともありつつ。


 残念ながら、船の食事がいまいちだったので。

 お弁当屋さんの子たちが差し入れてくれたお弁当を食べていたら。

 シエル様たちに見つかっておすそ分けしたりして。


 なんだかんだと思っていた以上に楽しく過ごすことができて。

 ジングまでの三日間はあっと言う間だった。


 到着した港はジング最大の貿易港で。

 街も、ジングと大陸の文化が混ざった活気のある街だそうだ。


「ここはシズレという街でね。各国から様々なものが持ち込まれているから、歩くだけでも楽しいよ」

「この後はどんな予定なんですか?」

「まずは、シズレにしばらく滞在するのかな?それとも王都へ?」


 そう聞かれて、自分たちの詰めの甘さを思い出したわ。


「とりあえずは王都に行く予定なんですけど……」

「馬車か馬を借りる予定が、定期予約でいっぱいで予約できなかったんです。なので、当日予約の交渉をして、無理だったら乗り合いの馬車を探す予定です」


 乗ってきたのは結構大きい船で、宿泊用の個室もあったんだけど。

 馬車や馬までは積めないのよね。


 だから現地調達になるんだけど、わたしたちは出遅れているのだ。


「そうなのかい?ならば、私たちの馬車に乗るといい」

「席も空いてますし、よろしければ、ぜひどうぞ」


 聞けば、シエル様たちは馬車や馬も確保済みで。

 行先も王都だということなのだけど。


 外交官様、ましてやお貴族様と同乗なんて申し訳ないから。

 辞退するつもりが、結局押し切られて甘えることになってしまった。


 そうして、馬車の準備ができるまでの時間。

 わたしたちが知り合いに挨拶に行ってくると言ったら。


「ジングに知り合いがいるんだね」

「ゴンザ商会ってご存じですか?随分前からお世話になっているんです」


 ゴンザさんは、レンダル時代から何かとお世話になっている商会だ。

 今回旅をするにあたって、何度も手紙のやりとりをさせてもらったから。

 どうしても挨拶しておきたいのよね。


「ああ、ゴンザ商会か。我が国とも縁が深い商会だよね」

「はい。うちの商会の商品も置いてもらってて」

「僕たちも時々伺ってますよ」


 ということで、ゴンザ商会の店舗まで案内してもらえることになった。

 お世話になりっぱなしで申し訳ないわね……。


「お嬢様!ご立派になられましたねぇ。お元気そうで何よりです」

「ゴンザさんもお元気そうで。またお会いできてうれしいですわ」


 シズレの店舗にいるのは会長さんの弟さんで。

 たまに、レンダルにも来ていたのよね。


 シエル様たちも一緒にいたことには驚かれたけれど。

 顔見知りのようで、笑顔で挨拶し合っていて。


「どこかご案内いたしましょうか?」


 と言ってもらったんだけど。

 馬車の件もあるから、どうしようかと思っていたら。


 まだ準備に時間がかかるということだったので。

 せっかくなので、買い物をさせてもらうことにした。


「お目当てのものはありますか?」

「お魚屋さんと八百屋さんに行きたいんです」

「ははっ。相変わらず、食に目がないですな」


 シエル様たちはびっくりしていたけどね。

 旅に備えは必要だからね!


 そうして、まずは、お魚屋さんに連れていってもらったら。

 冷蔵庫を使ってくれてるらしくて、殊更に感謝されて。

 裏で鮪の解体をしていると聞いて、見学させてもらうことにしたんだけど。


 そこで信じられないものを目にした。


「ちょっとお待ちくださいませ!それ、どうするおつもりですの?」

「どうするって………、骨は食えないから捨てるしかないだろうよ」

「なんですって!?」


 なんと、中骨を投げ捨てようとしていたのよ。


 その骨には、中落ちがたっぷりと付いているというのに。

 なんて勿体ないことをするのだ。


 これは由々しき事態なので。


 邪魔にならないところにテーブルを出して。

 スプーンを取り出して、骨から中落ちをこそげ落として。


 半分を生姜醤油で軽く煮て、ストックしておいた白米を丼に移して。

 中落ち丼と生姜煮丼を作ってやったわ。


「骨についた部分だけで、こんなに立派なお食事になりますわ!」


 丼を目の前に突き出したら。

 わたしの行動に呆気にとられていた魚屋の大将も漸く我に返ってくれて。


「嬢ちゃん、すごいな」

「ここだけの話、食堂を開いてもいいと思うんですよ。元々捨てる予定の物で作るわけですから、」


 そう言って、親指と人差し指で金貨大の丸を作って見せたら。

 大将も丸の意味を即座に理解して同様に丸を作って見せて。


「がっぽがっぽ儲かるってことか!」


 ふたりで悪い顔をして笑い合っていたら。


「リディ?」


 ラディから窘めるように名前を呼ばれてハッとした。


「わたくしとしたことが。おほほほほ。大将、中とろと赤身をいただけます?」

「お、おお!好きなだけ持ってきな!」


 併せて、他のお魚もいただいて。

 網についてきただけで捨てる予定だったというわかめとひじきも。

 食べれることを説明して、きっちりとお金を支払って手に入れて。


「リディア君は、一体、何をしているんだ……」


 というシエル様の声は、当然、聞こえなかったふりをした。


 そして、その後の八百屋さんでは。

 立派なレンコンに感動しつつも、影に隠れていた山葵を発見して。


「その山葵、買えるだけ買いたいんですけど!」


 前のめりで山葵を買う娘に、女将さんはちょっと引いていたけど。

 他にもたんまりと野菜を買ったら喜んでくれたからよしとしよう。


 ―――実は、大陸では、ホースラディッシュは見つけたものの。

 山葵は見つけられなかったのだ。


 そうして、わたしの買い物欲は満たされて。

 ゴンザさんに御礼を言って。


 近くに休憩処があったから。

 そこの個室で馬車の準備を待つことになり。


「まさか、シズレに来て、魚屋と八百屋に行くとはね」

「しかも、魚屋では料理してましたよね」


 なんて、呆れられながらも、今後の話をしていたら。

 個室のドアがノックがされたから。


 馬車の準備ができたのかと思って。

 わたしたちも帰り支度を始めたんだけど。 


「失礼する」


 そう言って入ってきた人物を見て驚いた。


 は?

 何で、ここにこんな大物が現れるわけ?


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