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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
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097.彼女の多忙は自業自得。

side リディア

 レンダルから戻ったわたしたちは、とにかく仕事に追われている。


 まあ、戻ってから、というよりは。

 お義兄様とお義姉様の結婚パーティーの翌日からだから。

 帰国前から、それはもう、慌ただしい日々を過ごしてる。


 というのも、パーティーの準備期間中を含めて。

 その前後にかけて、わたしが“また”やらかしたからだ。


 今回も凝りもせず、予定外の仕事を持ち帰ってきてしまった。


 とはいえ、わたしのやらかしには無駄に実績があるから。

 ラディは呆れながらも、当然のように仕事に組み込んでくれたし。

 両親や伯父様にしても。

 あー、はいはい。今度は何?と、あっさり受け入れてくれている。


 それがいいのか悪いのかは別として。

 わたしが安易に口走ってしまったことを実現化するために。

 みんなも奔走してくれるのは、本当にありがたいと思う。

 人に恵まれていることを、殊更に実感する。


 と、感謝は尽きないのだけど。

 元凶としては、情報収集に企画書の作成に打ち合わせと。

 彼ら以上にやらなくてはいけないことが多いわけで。


 ラディも巻き込んで、わたしたちは、ものすごく忙しくしているのだ。

 わたしに限っては自業自得だけどね!


「ただいまー」

「ラディ、おかえりなさい。どうだった?」


 今日、ラディは、ミンスター卿のところに行っていたはずだ。

 そんな彼を労いつつ、珈琲を出しながら進捗を聞いてみたら。


「うん。海老の輸出事業は本格的に進み始めたよ。早ければ来月、遅くとも三ヶ月以内には輸出できるようになるんじゃないかな」

「そう。よかったわ」

「実家やパーティーで評判がよかったっていうのが決め手になったみたい。他国でも受け入れられたっていう実績があると、取り組みやすいよね」


 確かに、生の声って大事よね。


 そんなつもりでパーティーに出したわけじゃなかったけれど。

 海老を持っていったのは正解だったわ。


 グラント家やパウエル家はもちろん。

 パーティーの招待客を始め。

 何と言っても、アル殿下やルド様だって気に入っていたのだ。


 レンダルなら売れるはず。


「ただね、冷凍輸出になるから、設備や輸送方法をもう少し詰めないといけないんだ。業務用冷凍庫や輸送用の馬車がどのくらいで用意できるかで、輸出時期が決まると思う」


 なるほどね。


「まずは、レンダルとドラングルに輸出予定だよ。レンダルの取引先の選定は実家が動いてくれてる。ドラングルは、商会の支店に情報を集めてもらってるから、それ次第かな」


 ドラングルも海に面しているし、海老が獲れないわけでもないんだけど。

 どうも、グリーンフィールほどは漁獲量がないようなのよね。


 だから、輸出先候補にはあがっているけれど。

 場合によっては、養殖技術や設備だけの取引になるかもしれないらしい。


「リディのほうはどう?」


 わたしが今、担当しているのは食べ物関連だ。


「生ハムは、やっと、製造量と製造担当が決まったわ。レンダルでも評価は半々だったから、最初は限定生産にする予定よ」

「そうだね、万人受けするもんじゃないし、大量生産はやめておいたほうがいいよね。でも、よかった、商品化に動いてくれて」


 そうね。

 伯父様も気に入っていたから、製造することは決定していたけれど。

 否定的な人もいて、商品化にあたっては結構意見が割れていたのだ。

 一時は、販売は見合わせにしようかという案も出たくらいだしね。


「製造担当は?」

「湿度と温度管理がちょっと面倒だから、商会で担当することになったわ」

「あー、職人探しも大変だし、設備に結構なお金がかかりそうだしね。そのほうが早く進むんじゃないかな?」


 その通り。


 商会の人脈や技術力、資金力は、かなりのものになってきたから。

 すべて商会でやってしまったほうが話が早いのよね。


 肉加工をやってくれているフレイル伯爵は生ハムに消極的だし。

 今回は、これが一番いい流れだと思う。


 それに、実は、グラント家でも生ハムを作りたいみたいだったから。

 商会で担当するなら相談しやすいとラディもうれしそうだ。


「レシピと環境設定内容は伝えてあるから、あとは任せる予定よ」

「そっか。じゃあ、生ハムは一段落したってことだね。お疲れ様」


 やっとだけどね。

 生ハムは意外と時間がかかってしまったわ。


「レシピ本のほうはどう?」


 レシピ本は、言ってみれば副産物みたいなもので。

 結婚パーティーで出したお料理が好評だったのはよかったものの。

 レシピの問い合わせが多すぎて。

 対処に困った末に思い付いたものだったんだけど。


 どうやら、写真付きで調理手順を掲載する、というのが画期的らしく。

 みんなからの期待値も高い商品なのよね。


 レシピの売買をしているギルドも乗り気で。

 商業ギルド長のマルコさんも積極的に会議に参加してくれている。


「掲載するお料理が決まったところよ。これからレシピを調整して、それが終わったら、撮影しながらお料理三昧になりそう」

「レンダル版とグリーンフィール版は料理を変えるんだよね?」

「そうね。隣の国なのに使う材料も好みも全然違うんだもの。レンダルで情報を集めておいてよかったわ」


 レンダルでは、問い合わせが多かった料理のほかにも。

 グラント家のみなさんからも聞き取りをして。

 レンダルで受けそうなお料理を事前に調査しておいたのよね。


 グリーンフィールのほうは、両親や商会のメンバーをはじめ。

 デュアル家にもご協力いただいて、掲載する料理を決定した。


 ちなみに、ドラングル版も作る予定ではあるけれど。

 二版だけでも結構大変なので。

 それらが落ち着いたら、作り始めることになっている。


「あ、そうだわ。ドレッシングやスープは、そのものを売ることになったわ」


 レシピ本を作るにあたって。

 思いの外、各種ドレッシングとスープの要望が多かったんだけど。

 それを載せてしまうとページ数がかなり多くなってしまうのよね。


 それに、下準備に時間がかかるものもあるし。

 材料も、一般的ではないものを使ったりもするから。


 だったら、いっそのこと、レトルトにしたり。

 ボトルや缶に詰めて販売してしまおうということになったのだ。

 応用が利きやすいものだから、いい案だと思うのよね。


「それはいいね。ドレッシングなんか、一回に使うのは少しだし、いちいち作るのも大変だから、出来たものを売ってもらえれば喜ぶ人も多いと思うよ」


 そうだったら、うれしい。

 ついでに、商品が増えることで食品店舗が盛り上がるともっとうれしい。


「リディのほうも順調そうでよかった。海老の輸出事業は、あと何回か打ち合わせに出れば、俺はお役御免になるから。そうしたら、レシピ本作り、手伝うよ」

「ありがとう。レシピ調整はそんなに時間がかからないと思うの。だから、調理手順の撮影を手伝ってもらえたらうれしいわ」


 提案したのは自分だけど。

 いちいち手順を撮影するって、結構大変なのよね。


 しかも、掲載メニュー数も多いから。

 それを、すべて自分でやるとなると、かなり時間がかかる。


 商会に頼んでもよかったんだけどね。


 スープやドレッシングの調理工場を作ったり。

 ボトルの開発もあるから、安易にお願いすることもできない。


 一気にいろんなことを提案したせいで人手不足なのだ。


「レシピ本は、想像以上に手間がかかるんだね。魔動自転車を丸投げしておいて、本当によかった」


 そうだった!


 魔動自転車。これは、少し前に遡るんだけど。


 お義兄様とお義姉様の結婚パーティーのあと。

 数日空けてレンダルの祝日があったから。

 その日に、領地で次期領主の結婚のお披露目をしたのよね。


 せっかくだから、わたしは、前世の『お祭り』を提案して。

 領都の広場に屋台を並べて、領民が楽しめる空間を作ったんだけど。


 そのお祭りに、辺境に飛ばされていた脳筋がやって来たのだ。

 レンダル時代、卒業パーティーでわたしに剣を向け。

 第一王子と愚行を重ねた、あの、脳筋だ。


 まあ、お義姉様の弟なわけだし。

 根は素直だから、自分の愚行もしっかり反省していたようで。


 結婚式や結婚パーティーに呼ぶことはできなかったけれど。

 実は、グラント領って、南の辺境に近いこともあって。

 領都でのお祭りだけには招待していたらしい。


 けれど、まさか、同じ愚行を重ねた魔術師団長の(元)長男と。

 小動物娘まで連れてくるとは思わなかった。


 脳筋曰く、彼らも反省している、ということだったんだけど。


 反省していたのは脳筋だけで。

 あとのふたりは口だけだったのよ。


 彼らの目的は、魔術師団長の息子につけられた魔封じを外すことで。

 魔法が得意なわたしならできると考えたようだ。


 お祭りにわたしやラディも参加することを聞きつけて。

 晴れて?恋人関係になった小動物娘と一緒に来たようだけど。


 あの魔封じは、付けた人にしか外すことはできないのだ。

 だから、当然ながら断ったら。


 なんと、逆上されてしまったのよね。


 せっかくのお祭りで暴れられるなんて、冗談じゃない。

 と思って、ラディと収束に努めたんだけど。


 その時手伝ってくれたのが、まさかのシェリー様とラルフクト様。


 シェリー様はお義姉様と連絡を取っていて。

 お披露目とお祭りのことを知って、駆けつけてくれていたらしい。


 ヴァレンシア辺境伯領はドラングルの北の辺境だから。

 レンダルの南の辺境に近いグラント領なら、数日で行き来できるのだ。


 ということで、喜びの再会の前に面倒事に巻き込んでしまったけれど。

 彼らは、何のことはない、という体で手伝ってくれて。


 魔術師団長の息子と小動物娘を衛兵に預けてから。

 一緒に屋台をまわって、積もる話をしていたら。


 シェリー様から。


『自転車が完成したって聞いたんだけど、電動にはできないかしら?うちの領、坂が多くて漕ぐのも一苦労なの』


 そんな相談を受けたのだ。


 まあ、この世界に電気はないから、魔動になるんだけど。

 自転車に魔法を組み込むだけなら、なんとかなるんじゃないかしら?


 そう思いつつも、一応その時は、検討する、という返事でおさめたものの。

 帰国後に商会に相談したら。


 それは素晴らしい案だ!

 と言って、早速、進めてくれることになったのよね。


「魔動自転車ね……。渋られるかと思ったけど、乗り気で作ってくれることになって助かったわ。これで、シェリー様たちに恩返しできる」

「そうだね。あの時は、本当に助かった。まさか、あいつが小動物娘と付き合ってて、魔法を教えてたなんて思わなかったからね」


 そうなのよね。

 やつらに苦戦したのは、小動物娘が魔法を使ったからなのだ。


 とはいえ、魔獣と闘ってるシェリー様たちには脅威にもならなかったけどね。

 おかげで、周囲に被害を出すこともなく、やつらを捕まえることができた。


「第一号は、シェリー様にプレゼントしましょう」

「うん。確か、もうすぐできるってことだから、出来たらすぐに送ろう」


 そんな話を勝手に進めながら。

 レシピ本についても、これからやることをまとめておいたんだけど。


 そこまでできたとなれば。


「あとは、録音音楽だね」


 そう。そうなのだ。

 結婚パーティーの準備中に思わず口走ってしまった録音音楽。


 これが、実は、難航を極めているのよね………。


第五章もお読みいただき、ありがとうございます。

今後も不定期となってしまうと思いますが、よろしければ、またお付き合いくださいませ。


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