表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
10/149

10.彼は未知の世界を知る。

side ラディンベル

 俺は今ものすごく混乱している。

 混乱というよりは、想定外のことが起こりすぎていて理解が追い付いていない、という方が正しいのかもしれない。


 さっきまで精霊王の存在に狼狽えていたというのに。

 転移陣を使っても一週間弱はかかると聞いていた距離を一気に転移したと思ったら、着いた先はリディ個人の持ち家だというのだ。一体、何の冗談なのか。


 リディって俺と同い年だよね?まだ十五歳だよね?

 しかも、陛下に賜ったって何?陛下って国王のことだよね?知ってる。


 バカ王子が暴走しなければ、リディはレンダルの王妃になっていたかもしれない人で。皆がその能力を認めていたし、それだけでもすごいのに。


 リディがすでに政務を請け負っていたことは知っていたけれど、あの賞賛された外交の立役者で、成功の裏には彼女のすごい知識があったなんて。


 そんな十二歳いる?

 ほんと、何なのこの人。規格外が過ぎる。


 見せてくれた水道とやらも本当に便利な設備で。

 リディが提案したのは、水問題を一気に解決してくれるようなすごい技術だから、邸くらい賜っても確かに納得できるけども。


 でも、まさか、水道が序の口だなんて思わなかった。


「他にも見慣れないものがあると思うから、一通り説明しておくね」


 そう言って案内してくれたリディの家は。

 もう、何もかもが俺の常識を超えていた。

 今までの生活は何だったんだって思うくらい、便利なものしかなかった。

 俺が馬鹿みたいに唖然としてしまったのもしょうがないと思う。


 まず案内してくれたのは厨房。

 食事の後片付けついでに水道を見せてくれたから、その流れで他の設備についても説明してくれたんだけど。


 コンロという竈みたいなものには目を見張った。

 だって薪を燃やさなくても火が上がるんだよ。しかも火力調整ができるときた。

 更には薪窯よりもはるかに扱いが簡単なオーブンというものまであって、思わず実家の料理長に謝りたくなったよね。


 極め付けは、冷蔵庫という食材を冷やすことができる箱。

 ミルクや卵、肉などの足が速い食材は、地下の冷暗所に保存するのが普通だ。

 でも、この箱は保存に適した低い温度が設定されていて、食材を今までよりも長く保存することができるという。凍らせることもできると聞いて絶句した。

 ああ、料理長……。


 それらを見て茫然としていたのに、今度は湯殿に移動して。

 湯殿にも水道が引かれていて、水とお湯が出せるようになっていた。

 うん、そうだよね。そりゃそうだ。一番水が必要な場所だ。


 好きな時に好きな温度で湯あみができるだなんて夢みたいな話だと思う。

 しかも、お湯が溜められるだけじゃなくて、シャワーとかいう、動かせる水道まで付いていた。水やお湯が細かく広がって撒かれるようになっているらしい。

 シャワーを使えば簡単に体を洗い流せるし、湯殿の掃除も楽にできるそうだ。


 何なのそれ。ほんと、今までの湯あみの苦労はなんだったんだ。

 実家の使用人たちよ。君たちの苦労は忘れない。


 おまけに、石鹸の種類が豊富で顔用と身体用と髪用があるとか。

 髪を乾かせる道具もあったし、とにかく至れり尽くせりだった。

 タオルの手触りもよかったな……。


 この辺りでも俺の許容量はとっくに超えていたんだけど、驚くべきものはまだまだあったのだから、この家はもしかしたら異次元にあるのかもしれない。


 湯殿とは別に、洗面室というところがあって、ここにも独立した水道が引かれていた。手や顔を洗うためだけの水道なんて贅沢だとは思うけど、確かに便利だ。


 厠に至っては、用を足すために外にいかなくていいうえに、自動で洗浄までしてくれるなんて。それ、本当に厠なの?しかも、すごく清潔な空間で、ここが厠だなんて言われないと気づかないと思う。


 各部屋には燃えていないどころか触れても熱くない灯りがあったし、ゴミを吸い取る掃除機という道具や機能的な掃除用具も揃っていた。

 洗濯は洗いから脱水までが自動だという。これから乾燥機能もつけるつもりだ、という言葉は聞かなかったことにした。意味がわからないから。


 その洗濯機を最後に、とりあえずは説明終了、となったのだけれど。

 他の細かいものは追々説明する、と言われた。え、まだ何かあるの?

 もう本当に異次元すぎて、どうしたらいいのかわからないよ。


 何でもこれまで見せてもらったものはほとんどが魔道具なんだとか。

 レンダルには生活魔道具があまりなかったから、発想自体にも驚く。


 でも、石鹸やタオルもそうだけど、すごいのは魔道具だけじゃなかった。

 メモにでも使って、と渡された紙は、いつも使う羊皮紙や粗雑な紙ではなくて、ものすごく薄くてなめらかで真っ白な紙だったし、ペンだっていちいちインクに浸さなくてもいいペンがあるなんて知らなかった。俺なんて、羽ペンを卒業してやっとガラスペンに慣れてきたところなのに。


「グリーンフィールではこれが普通なのか……?」

「治水や上下水を提案したのは三年前だから、水環境はそろそろ全国的に良くなっていると思うんだけど。水道を使っている設備は普及しているかもしれないわ。でも、その他のものはまだこの家だけじゃないかしら。このお邸を賜ってから少しずつ作っていったから、まだ出来立てなの」

「作ったって、リディが?」

「アイデアは出したけど、さすがに形にしたのは技術者よ」


 そうなのか。アイデアだけでもすごいけど。

 というか、これ、なんでレンダルでは作らなかったんだろう?


「公爵邸には魔道具も設置していたわよ?」


 なんだって?!

 ちょっとジト目で見てしまったのは許してほしい。


 さっき説明してもらったから、水道がレンダルになかった理由は理解した。

 理解しがたい内容ではあったけれど。


 でも、魔道具ならいけたんじゃないか?

 こんな便利なものがあるなら売ってほしかった!


 そう言ったら、どうやら量産が難しくて断念していたらしい。

 この家の魔道具には精霊石を使っているらしいのだけど、レンダルの公爵邸では竜の鱗を使っていたそうだ。竜の鱗は貴重品だし、精霊石にしても、レンダルでは精霊石が採れないからグリーンフィールからの輸入頼み。高価なうえに、輸入量も制限されていて数が確保できないとのこと。

 なるほど。それならしょうがない。


「この前、閣下から我が家に竜の鱗を頂戴したんだけど、魔道具にも使っているなんて公爵家には沢山あるんだな。うらやましい」

「鱗の回収は我が家のお仕事だから結構融通が利くのよ」


 なんと。ここで鱗回収の謎が解消。

 それで、お菓子の保冷剤にしてもたいしたことない扱いだったのか。

 だからって使い方がおかしいことには変わりないけど。


「一応ね、グリーンフィールでは魔道具を売ることも考えているんだけど」

「うん。売るべきだと思う」

「そう言ってもらえるとちょっと自信がでるわ。でも、精霊石で作ったのは初めてで、まだ試運転中だから、売るにはまだ早いと思うの。不具合を確認しなくちゃだし、改良できそうなところがあればしておきたいし」


 おお。なるほど。

 ちゃんと考えてるんだな。さすがだ。


「リディはグリーンフィールで商売をするつもりだったの?」

「慣れない仕事よりも商売が一番始めやすいかな、とは思ってるんだけど、まだ具体的には考えていないのよ。よかったら相談に乗ってくれるとうれしい」

「それはもう、俺でよければ」

「ほんと?ありがとう!お母様にも相談はする予定だけど、ラディが力を貸してくれるならすごくうれしいわ」


 俺がどこまで役に立てるかはわからないけれど。

 でも、頼ってもらえるのはうれしいもんだな。


「リディの母君は商売に詳しいんだな」

「アーリア商会って知らないかしら。あれ、お母様の商会なの」

「え?!そうなの?うち、よく利用してたよ」

「あら。ありがとう。お母様も喜ぶわ」


 アーリア商会って言えば、珍しい商品が多くて王都でも人気の商会だ。

 あれ、リディの母君の商会だったのか。


 ガラスペンや安全性が考慮された髭剃りが出てきたときは感動したものだ。

 文具や雑貨から服飾、お菓子に至るまで幅広く品を取り揃えていたから、父上も母上もかなり贔屓にしていたと思う。


「アーリア商会の商品も画期的だよね」

「そう言ってもらえるとうれしいわ」

「ん?もしかして、アーリア商会の商品もリディが?」

「商会のほうもアイデアを出していたくらいよ」


 うわー。そうなのか。

 リディの頭の中って一体どうなっているんだろう。


「レンダルでは素材の入手が難しくて断念したものもあるから、それをグリーンフィールで形にしたら、いい感じに商売できるかしら」

「それがどんなものかはわからないけど、この家にある魔道具だけだって結構な商売になると思うよ?」


 うん。絶対に成功すると思う。

 こんな便利な道具、欲しい人は多いはずだ。


「だといいんだけど。でも、さっき言ったようにまだ完成してないし、量産体制を整えるのも大変だと思うの。それに、魔道具はどうしても高価になっちゃうから買える人は限られるでしょう?しかも、購入頻度が低い商品だわ。長期的に安定した収入を考えるなら、別の商品も用意しなくちゃいけないと思うのよ」

「なるほど。確かに」


 ちょっとリディ、頭良すぎるな。

 これ、母君に相談しなくても問題なく商売できるんじゃないか?


 アイデアだけだってすごいのに、売るために必要なことや長い目で見れるところは商売人さながらだと思う。令嬢教育じゃそんなこと学ばなかったと思うんだけど、個人的に勉強したのかな?


「学園でもいつも主席だったからリディの頭の良さは知っていたけど、想像以上だな。アイデアにしても商売についてもすごい知識だ。母君から学んでたのか?それとも、家庭教師がいたとか?」

「え?!あー……、そういうわけ、じゃないん、だけ、ど……」


 ん?なぜこのタイミングで挙動不審になるんだ。

 俺、なんか変なこと言っちゃったかな?

 え、どうしよう。困らせるつもりはなかったんだけど。


 そんなことを考えていたら、リディがとんでもないことを話し始めた。

 は……?俺、やっと、魔道具の衝撃から立ち直ったところなんだけど。

 そんな爆弾発言、やめてほしい。いや、本当に。


 俺、そろそろ魂抜けるよ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ