炎と氷結の少女
「お疲れさまでした!ノチェリーウルフの角三本納品で、クエスト達成です!」
ギルドに戻った俺はカウンターの受付嬢に角を渡し、報酬の15000スペーラを受け取った。
「そういえばリトさん、家はあるんですか?なければ宿屋、探さないとですよね?」
「あぁ…宿屋って近くにありますか?この報酬だけで泊まれる…」
「15000スペーラもあればたいていの宿屋は2泊はできるはずですよ。」
そんなにこのクエストの報酬の価値というのは高いのか。
少し驚いたが、受付嬢に近くにある宿屋を教えてもらった。
「いろいろありがとうございます!明日もクエスト受けに来ますね!」
「はい!お待ちしております!おやすみなさい!」
そう言って俺はギルドを後にし、すっかり暗くなった街を歩いて教えてもらった宿屋に向かった。
俺が薄暗い路地を歩いていると、さらに暗い路地から怒声が響いてきた。はっきりとは聞こえなかったが、俺は見に行ってみることにした。
声の在処には大柄の男が2人、フードを被った少女が1人いた。
俺は近くにあった障害物に隠れ、様子をうかがうことにした。
「だからさぁ、今俺の肩にぶつかったろ?だから金よこせっつってんだよ、なぁ!?」
「無理ね。そもそもぶつかってきたのはそっちでしょ?」
「あぁ!?兄貴に逆らおうってのか?やっちまうぞオラァァン!!」
そう言って男のうちの一人が少女に殴りかかろうとした。
「待て」
考えるより先に俺は男を止める言葉を言い放っていた。
男は鋭い目つきで俺を睨みつけてきた。
「なんだァ?邪魔すんなよ、てめぇもぶっ殺してやんぞ!!」
男の怒りの矛先は完全に俺に向いている。
一方、もう一人の男は静かに俺を見ている。
「やれるもんならやってみろよ。」
俺は激昂する男をさらに挑発する。頭に血が上った人間というのは弱い生き物だ。
男は予想通り、『一直線に』俺に殴りかかってきた。
これではノチェリーウルフと同じだ。
俺は男の拳を回避しつつ鞘に納めたままの剣で腹部を殴りつけ、すかさず足払いで男を転倒させた。俺はもう一人の男を見やり、
「まだやるか?こいつは何の役にも立たないぞ!」
男は倒れた仲間を見てため息をつき、
「あぁ、そいつは役に立たねぇさ、だが俺はそいつとはちげぇぜ?」
そう言って男は指をバキバキと鳴らし、俺と対峙する。
男が地面を蹴って俺との間合いを一気に詰め、右足で回し蹴りを繰り出してくる。
とっさに左手で受け身を取りながら右に飛ぶ。
かなり強い威力の蹴りだ。右に飛んでいなかったら危険だったかもしれない。男はふん、と息を吐き、再び俺に襲い掛かってきた。
男の拳を剣でいなして威力を殺すが、そこにさらに蹴りも加わると対処できなくなってくる。俺は正面から男の拳を受け止め、後ろに飛んで男の拳の届く範囲を抜け出した。
「これで……どうだッ!!」
額を剣で突き、男をのけぞらせる。
「ぐッ……」
男が体制を立て直し、俺に再び襲い掛かってこようとした刹那、青白い光とともに―――
「コンゲラート・アロー」
その声が聞こえた直後、男の横から光り輝く「氷の矢」が複数本飛んできた。
「がぁッ!!」
男に突き刺さった後、その矢は光の粒子になって空間に溶け消えてしまった。
何が起きたんだろうか。さっきの少女がしゃべって、その直後にあの屈強な男を倒すほどの何かが。
「き…君は……」
「さっきはありがとう。でも、実は私一人でもなんとかできたんだよね……ごめんなさい……。」
男に襲われる少女を守ろうと出ていった俺より、あの少女のほうが強かったとは。なんだかバカバカしくなってしまった。
「そっか。でも夜道は気をつけろよ?じゃあな……」
それだけ言い残して恥ずかしくて逃げるように俺はその場を後にし、宿屋に向かったのであった。
チートではないです()
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