炎と命
緑の風が吹く古代林、高い人工物が多く立ち並ぶ現代の日本社会に生を受けた俺には馴染みのない、圧倒的な自然。鳥は囀り、水の流れる音が疲弊した心を解きほぐしていく。
「到着しました。では、わたくしはここで待機しておりますので、クエスト達成できましたらお帰りください。」
「わかりました。ありがとうございます。行ってきます……」
ノチェリーウルフの討伐、見た目は角が生えた狼らしいし、見ればすぐにわかるだろう。
まだ日没まで時間はある。地図を見つつ探索もしてみよう。
地球の本来あるべき姿、大自然という一つの命の営み。
すべてが美しい。穢れのない、無垢な世界。
自らが破壊し、汚してきた世界に癒されるのはなぜだろう?
そんなことを考えながら古代林を探索して数十分――
何か鋭い視線――殺気を感じた。
剣を抜いてその視線のほうに目を向ける。そこに姿を現したのは――
「――ノチェリーウルフ……!」
鋭利な牙と角、赤く光る眼。間違いない。
見えるだけで3匹、思ったより小さいが、三匹と同時に戦うのは骨が折れる。
作戦を思案する暇もなく、3匹のうち1匹が俺に襲い掛かってきた。
「ッ!!」
俺は噛みついてきたノチェリーウルフの牙を剣でいなし、左足で腹部を蹴りつける。横転したノチェリーウルフの眼球を剣先で突き刺し、首元を踏みつけて息の根を止めた。
「―――すまない……」
正直心が痛む。自分が生きるためとはいえ、罪もない生物をこの手で殺めたのだ。
しかし、そんな感傷に浸っている暇もなく残りの2匹も俺に襲い掛かってくる。
1匹は左足で蹴り下ろして動きを止めたが、もう一匹が俺の右腕に噛みついた。
「いッ……くそっ!」
鋭利な激痛に視界が赤く染まる感覚を覚えた。
とっさに俺は左手に握った剣でノチェリーウルフの脳天をぶん殴り、ひるんだ所でかまれた腕を外した。
「ふぅ…いってぇ……」
かまれた腕から赤い血が滴り落ちる。
久しぶりに見る自分の血に心臓の鼓動が早まる。俺は血が苦手なのだ。
さっき殴った方の個体はどうやら意識が朦朧としているようだ。
もう一匹の蹴り下ろした個体は元気に俺に襲い掛かる。
しかし攻撃は一直線、角を使って突進してくるか、直接噛みに来るか。
一体だけなら大して対処は難しくないはずだ。
突進してくるノチェリーウルフをギリギリでかわしつつ斬撃を置いてくるように首元に剣を振る。
どうやら掠めただけだったらしく、小さな切り傷しか作れなかった。
しかしそれでもノチェリーウルフの攻撃は一直線。今度は大きく口を開けて噛みつきに突進してきた。
「見ろ…見ろ……」
今度は外さない。一撃で、次で終わらせる。迫りくる牙に意識を集中し、一突き。
大きく開いた口に剣を突き刺した。
剣はうなじを貫き、赤黒い鮮血をまき散らしてノチェリーウルフの息の根を止めた。
即死のようだった。その個体は血を吹き出すだけでそれ以上動くことはなかった。
「さて…すまないがお前も殺らせてもらうぞ」
俺は剣を引き抜き、剣を振って血を落とし、まだ意識がはっきりしない最後のノチェリーウルフに歩み寄る。
ノチェリーウルフは俺の存在に気が付き、本能で威嚇している。
しかし攻撃してくる気配はなく、ただ自己保身のため、敵として認定した俺を威嚇しているだけだった。
「ごめんな。」
俺は振り上げた剣をノチェリーウルフ首に振り下ろした。
「……やっぱ切り落とすのは無理だったか……」
骨の硬さが腕に伝わってきた。
おそらく首の骨は絶ったはずだ。もう生きてはいないだろう。
「…………」
俺はこの三匹の命を絶ったのだ。
心苦しいが、生きるためだ。そう割り切って人類は生きてきた。
だからこそ、奪ってしまった命に感謝し、生きていくのだ。
数分間感傷に浸り、俺は日没が迫っていることに気が付いた。
「やっべ、早く戻らないと……」
急いでノチェリーウルフの亡骸から角をはぎ取り、馬車が待機している場所まで走った。
「おや、リト様。お疲れさまでした。討伐はできましたか?」
「えぇ、ちょっと苦戦しちゃいましたけどね……」
俺は角三本と右腕の傷を見せた。すると男はふふ、と笑い、
「最初ですから、成功しただけで僕はすごいことだと思いますよ?」
と俺に言った。
「さぁ、もうじき日没です。乗ってください。」
俺は馬車に乗り込み、古代林を後にした。
戦闘書くの難しかったです笑
次回も明日投稿です!よろしくお願いします!!
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