炎と召喚
直立不動のまま、俺はそこに立っていた。
どこだ。どこだここは。
先ほどまで俺は自室でスマホで時間をつぶしていたはず。
しかし今、俺の視界に広がっているのは、中世ヨーロッパを思わせる洋風な建物が立ち並ぶ市場のような場所だ。
混乱する頭で状況を整理する。
気を失う前、俺は何をしていた。
余裕のない脳の中の記憶を物色し、謎のDMの存在を思い出す。
「……あのURLか!」
自分の衣服からスマホを探した。幸運にもパーカーのポケットに入っていたようだ。
スマホの電源を入れると、電波は圏外、なぜか充電は∞となっていた。
そして、Twitterに通知が一件。
Twitterを開こうとすると、通知がもう一件増えた。
増えた?
どういうことだ。ここは圏外なのではないのか?
困惑しながらもTwitterのDMを開いてみる。
DMの内容はこうだ。
『ようこそ。救世主君。いきなり召喚されて困惑していることだろう。だからあえて単刀直入に言おう。君はこの世界を救い、終焉を阻止するために召喚されたのさ。訳あって今はこちらの正体を教えるわけにはいかないが、これから可能な範囲できみの救世を手助けできればと思う。』
その文章と一緒に、また謎のURLが添付されていた。
これは踏むべきなのか?
もしくは何か趣味の悪いいたずらなんだろうか。
しかし、いたずらではこの状況が説明できない。
そもそも最初のURLはなんなのか。それすらもわからない現状、まず踏んでみるしか起こせる行動はなかった。
「……」
少し思案して、俺はそのURLを思い切って開いてみた。
そのURLを踏んだスマートフォンはひとりでに謎のプログラムをインストールし始めた。
「お、え?大丈夫かこれ!?」
スマホは完全に操作不能、ただプログラムのインストールは着々と進み、やがて電源が切れた。
恐る恐るもう一度電源を入れてみたが、特に変わった様子はなかった。
いつも通り写真は見れるし、カメラもどうやら使えるようだ。
「……なんだったんだ?」
焦って損をした、とばかりに俺はため息をついた。
安心したのもつかの間、Twitterに通知の赤い丸が付く。
電波は相変わらず圏外だ。つまりはそういうことだろう。
俺はDMを開いた。そこには先ほどのようなURLはなく、ただ一文のメッセージが送られてきていただけだった。
『無事インストールできたようだね。君のスマホは今、この世界に合わせた仕様になっているはずだ。地図等うまく活用してくれ。』
Twitterを閉じてマップを開いてみると、確かにこれはこの町の地図のようだ。そして俺はその地図の検索欄に、恐る恐る自分の住んでいた町の名前を入れてみた。
そう、さっき送られてきた文に「終焉を阻止するために召喚された」という一文があるところから察するに、おそらくこれはよくライトノベルなんかに起きがちな『異世界召喚』の類の物だろう。
しかしその現実からは目をそらしたい。
俺は平凡でつまらない人生を歩んできた。しかし、それでも平和に、大切な人物と生きてきたのだ。
しかし、もしも現状いる世界が異世界だったら?もし元の世界に戻れないとしたら?
もしそうだとすれば、俺は一刻も早くこの世界で生きていくすべを身に着ける必要がある。
「くっ……」
震える指でスマホにタッチし、自分の住んでいた町を検索する。
そしてスマホがその情報を処理し、やがて
そんな地名は存在しないという事実を突きつけてきた。
これでもう現実から目を逸らすことはできなくなってしまった。
俺は異世界に召喚され、昼下がりの街に一人放置されていると。
しかし縮小してみてみるとどうやら、今いる場所は日本列島に似た形をした島だった。
つまりここは地球、というのは間違っていないらしい。
まだ正直実感はない。今俺がいる場所は、地球のどこでもないなど、そう簡単に飲み込めるはずはない。
だがボーっとしている暇はない。早いうちに資金を集める手段を覚え、せめて寝床は確保する。飲み込むのはそれからでも遅くはないはずだ。
まずは情報収集だ。先ほど例のDMで謎のアカウントにメッセージを送ってみたが、どうやらこちらからは送れないようになっているようだ。
「あ、ちょっといいですか?」
スマホが使えないなら、聞き込みをするしかない。
マップを見る限りこの街はグランツ王国の中心地、いわゆる首都らしい。
「はい、あら、珍しい服ですね、国外から来た方ですか?」
「えぇまぁ…そんなところです。」
俺の服はどうやらこの世界では珍しいらしい。その発言、そして話しかけた女性の頭から生える犬耳と尻尾が、俺が生きていた世界とは違う世界なのだと嫌というほど見せつけてくる。
「俺今この国について全然わからなくて、しかも所持金も全くないんですよね。で、身分証明とかがいらない仕事を探してるんですけど、なにかないですかね?」
「あら…大変ね。それなら、ギルドに行ってみるといいかもしれないわ。そこならすぐに働けるはずよ。」
ギルド。これもよくある展開といっていいだろう。異世界召喚に戦闘は付き物だ。おおかた予想はできていた。
「なるほど……ありがとうございました。」
「えぇ。頑張ってね。」
女性と別れ、俺はこの世界仕様になったスマホをポケットから取り出す。
「この近くにギルドあるのかな…いやそもそもギルドって調べるで合ってるのか?」
ぶつぶつと文句を言いつつ、地図の検索欄に「ギルド」と入力してみる。
すると、この近くに3件、ギルドが見つかった。レビュー等は存在しないようだが、一番近いギルドに行ってみることにした。
第二話です。
早い展開で異世界に飛んでます。
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