プロローグ
1
「マスター! 新たなダンジョンを発見しました!」
「よくやった、リエーリ。攻略の手配をしろ」
「はっ! 分析班にダンジョン規模を調査させた後、報告致します!」
――ダンジョン
それはロマンだ。英雄譚のどれを見ても登場する謂わば必須要素。
英雄となれば生涯リア充といわれる。つまり
「迅速に」
攻略しなければならない。
「はっ!」
分析班のレポート
・ダンジョン発生地点
ベール湖周辺の森
・外観
外壁及び内壁は魔力固定された水
・モンスター
ランタンフィッシュ(友好)
ソルジャーフィッシュ
スワンプワーム
ヒッポカンポス(ボス)
・攻略難易度
中程度
2
それは大部隊だった。
難易度中は通常レベル五十の冒険者五人パーティーで攻略する。
しかし、ギルドから出撃した人数は五十人。見るからに強そうな装備をしている。
流石ダンジョン攻略ギルドというところか、街道を練り歩く“それ”は見る者全てを絶句させた。更に、パーティー(?)メンバーは法杖をもった者ばかりでバランスが悪い。
「あの、マスター?」
「なんだリエーリ。問題でもあるのか?」
「いえ、攻略班の構成がおかしような気がす……」
「我がギルドのスローガンはなんだ」
「ひっ!『迅速な攻略』であります!」
「そういうことだ」
訳が分からない返答をされたが気迫に押され黙り込んでしまった。
攻略案は軍事機密なので攻略執行の直前に指示が行われる。
(私すら信用してないのかな……?)
慎重。そうとも呼べると無理矢納得し、自分なりに考えることに没頭した。
「到着だ」
その声に顔を上げると、そこには美しく巨大な水の箱があった。
「うわぁ」
ダンジョンと呼ぶには勿体ない美しさ。言葉にならない音が漏れる。
外面からの内部視認は、特殊な術式でミラー化され不可能となっている。しかし、聞こえる呻き声は生命の存在を示している。
「聞こえますね」
「ドロップが楽しみだな」
やけにニヤついた顔つきを見せたがそれは一瞬で、ダンジョンに見惚れるリエーリに気づく余地は無かった。
3
「攻略、執行!」
森中に響いたその声を合図に五十の詠唱が始まる。
その時、ふと疑問に思った。
「そういえば、このダンジョンに声帯のあるモンスターなんていましたっけ?」
一瞬だった。ダンジョンが白く見えたと同時に目を開けられないほどの冷気が勢いよく身を襲う。
風が止み、目をゆっくりと開く。
ダンジョンのあった方角は一面、銀世界と化していた。
「攻略……は?」
「完了した」
「でもまだダンジョンに一歩も足を踏み入れて」
ない。そう言い終える間に、撤退の準備は始まってしまった。
ダンジョン攻略レポート
・担当
リエーリ・リード
・攻略パーティー
人数 五十名
平均レベル 約七十
ジョブ 上級魔術師のみ
・ダンジョン特性
分析班レポート参照
・攻略案
氷結魔法によるダンジョンの無力化及び破壊
・ドロップ
ランタンピース (ランタンフィッシュ) ×三百
トライデント (ソルジャーフィッシュ) ×二十
硬い鱗 (ソルジャーフィッシュ) ×八百
ネバネバした液体 (スワンプワーム) ×四百
濡れた鬣 (ヒッポカンポス) ×一
ボロボロの鎧 (???) ×五
ボロボロの剣 (???) ×二
ボロボロの杖 (???) ×一
ボロボロの弓 (???) ×一
ボロボロのハチマキ(???) ×一
・備考
ドロップモンスター不明のアイテムがいくつか発見されました。特にレアなアイテムは無かったですがマスターは大変喜んでいました。よくわかりませんが、私も嬉しいです。
攻略後、周辺に住む村人から苦情がきましたが無視します。
今回の報告は以上です。