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第98話 私だって戦いたいんです

 巨大悪魔が突然、苦しみ始めた。

 何が起こっているのかと騎士たちが戸惑う中、悪魔の身体に目に見えて分かる異変が発生する。


「お、おい……大きくなっていないか……?」

「身体が……膨らんでいる……?」


 元から大きいはずの悪魔の身体が、膨張してさらに大きくなっているのだ。

 しかし苦悶する姿から、自ら引き起こしている現象だとは思えない。


「どこまで膨らむんだ……?」

「ば、爆発するんじゃ……」


 出産間際の妊婦以上の膨らみように、騎士たちは息を呑む。

 次の瞬間、怖れていたことが現実となった。


 バァァァァァァァァァァァァァァンッ!


 凄まじい炸裂音とともに、悪魔の身体が爆発したのだ。

 辺り一帯に巨大な肉片が飛び散り、地獄絵図と化す。


 降り注ぐ血と肉の雨がようやく収まったとき、恐る恐る目を開けた騎士たちは信じがたいものを目撃することとなった。


『あぶなかったのー』


 先ほどまで悪魔がいた場所に、巨大スライムがいたのである。


「さっきのスライム!?」

「い、生きていたのかっ?」


 身体を凍らされたスーラだが、実はそれは表面だけだった。

 そのためクイーンスライムの特性を生かし、凍った部分を切り離したのである。


 そして本体を可能な限り小型化。

 悪魔の突進によって粉砕されたのはただの空洞で、スーラはそれに紛れながら離脱していたのだった。


 さらに悪魔が破片を完全に破壊している隙に、超小型化したスーラはこっそり敵の体内へと侵入。

 後はそこで再び身体を大きくさせ、悪魔を内側から破壊してやったのである。


『きれいにしないとなのー』


 辺りに散らばった悪魔の肉片を見て、スーラはお掃除魂を発揮する。

 リオンが実家にいた頃から部屋を奇麗にするのが日課だった彼にとって、汚れた状態を見るとどうしても綺麗にしたくなってしまうのだ。

 自分が原因で汚してしまったとなればなおさらだ。


 ついでにせっかく大きくなったので、狼狽えている下級悪魔たちも触手で捕まえ、次々と身体に取り込んでいく。

 何体か逃げた個体もいたが、気づけばあれだけいた悪魔が壊滅していた。


「なんてスライムだ……」

「ほ、本当に味方なんだよな……?」








 一方その頃、スーラと別れたリオンはというと、結界の北部へと向かっていた。


「……で、何でお前が付いてきてるんだ?」

「え? いやいや、いいじゃないですか! 私だって戦いたいんです!」


 なぜかリオンの背後にゴーストがくっ付いてきていた。

 速度を上げてみても、憑りつかれてしまったのかまったく引き離すことができない。


「戦う? どうやって?」

「ふっふっふ! 見ててください! アイスレイン!」


 ゴーストが下級悪魔に向けて魔法を放った。

 氷の雨が降り注ぎ、悪魔の全身が凍り付く。


「魔法を使えるのか……」

「やってみたら使えました! 攻撃魔法はあまり得意ではないですけど!」

「じゃあ得意なのは?」

「何でしょう? でも何となく、回復魔法を使えるような気がします」

「ゴーストが回復魔法? 何の冗談だ」


 攻撃魔法を使うゴーストなら見たことがあるが、回復魔法に関しては記憶にない。

 そもそもすでに死んでいるはずのアンデッドだ。

 他者の命を救う魔法を使うというのは、なかなか想像ができない。


「冗談じゃないです! きっと使えます! たぶん!」

「たぶんか」


 そうこうしている内に、激戦区が見えてきた。

 悪魔の大群が総攻撃を仕かけている。


 人間側は必死に応戦しているが、いつ瓦解してもおかしくないほどの劣勢だ。

 結界もすでに限界に近い。


「くっ……このままじゃ……っ!」

「マリー様! もうここは持ちません! 早くお逃げ下さい!」

「そんなわけにはいかないわ! あたしは聖女として、この国を護る責任があるのよ!」

「だからこそです! ここで聖女様を失って、誰がこの国を導いていくというのですか!」

「でもっ……」


 と、そんなことを言い合っているのは、この場を指揮している三聖女の一人、マリーだ。

 回復魔法を連発したのか、魔力の枯渇ですでに立っているのもやっとといった印象。

 なのに今も途切れることなく怪我人が運ばれてきている。


「回復魔法なら任せてくださーい!」


 ゴーストはその怪我人たちのところへ意気揚々と飛んでいった。


「っ? あなた今、何か言った?」

「いえ、わたくしは何も……」


「癒しの光よ! エリアヒールです!」


「い、今も聞こえたわ……っ! あなたも聞こえなかった!?」

「マリー様、もしかして疲労のあまり、幻聴を……」

「なっ……見て! 騎士たちの傷が……癒えていく……っ?」


 聖女マリーは困惑した。

 彼女も含めて、すでに回復魔法の使い手たちは限界のはずだった。


「ああ、聖女様、ありがとうございます……」

「これならまた戦えます!」


 騎士たちはてっきりマリーが治してくれたのだと思い、礼を言ってくる。


「どういうことなの……?」

「ふっふっふ! わたしです、わたし!」

「またっ!?」


 もちろん彼女たちには、回復魔法を使うゴーストの姿は見えていない。

 しかしマリーにだけは、辛うじて声が聞こえているようだ。


「本当に使えるのか……」


 唯一リオンだけが、そのゴーストが回復魔法で怪我人たちを治癒しているのを見て、目を丸くしていた。


「ともかく、あっちは任せておけばよさそうだな」


 自分は悪魔を倒すことに集中しようと、リオンは視線を戻す。


 広範囲型の攻撃魔法を使えば一番楽なのだが、生憎とこの乱戦状態では騎士たちも巻き込んでしまうだろう。


「なら、逆にこの状況を利用するか」


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