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第96話 お主にはわらわが必要なのじゃ

 円形広場を西へ向かって走りながら、メルテラは頬の緩みを抑えられなかった。


「見ておれ、リオンよ! お主の期待通り、大活躍してやるのじゃ! そうしたら――」



『よくやった、メルテラ。お陰で西側の被害はゼロだ』

『ふん、わらわにかかれば、この程度、朝飯前なのじゃ!』

『さすがだな。やっぱお前は最高の仲間だ。まったく、俺は何であのとき仲間にしなかったんだろうな』



「そうじゃろうそうじゃろう! やはりお主にはわらわが必要なのじゃ! ぐふふふふっ!」


 リオンから手放しで称賛されている自分を想像し、不気味な笑い声を漏らすメルテラ。

 しかしそんな妄想をしつつも、襲い掛かってくる悪魔を得意の土魔法で瞬殺していた。


 やがて彼女は多数の悪魔が蠢いている一帯へと辿り着く。

 そこで騎士たちの指揮を執っていたのは、子供にも見える小柄な女性だった。


「怪我人はわたくしのところまで下がってきてください! 癒しの光よ! エリアヒール!」


 悪魔の群れを前に苦戦する騎士たちが、それでもしっかりと陣形を維持することができているのは、彼女が使う回復魔法のお陰のようだった。

 しかしすでに何度も連発しているせいか、可愛らしい顔からは汗が滴り、その疲労を隠しきれていない。


 彼女の名はシア。

 モーナと同じく、三聖女の一人だ。


(このままではそう長くは持ちませんっ……。しかも、東部と南部には聖女が不在……わたくしのところでこの状況では、もはや第二結界を維持し続けられるのも時間の問題っ……)


 指揮と治療の両方を必死にこなしながら、彼女は事態の深刻さに顔を顰める。


 そんなところへ現れたのが、メルテラだ。


「くっくっく! 苦戦しておるようじゃのう! わらわが加勢に来たからには、百人力、いや、千人力じゃぞ!」


 聖女シアとメルテラ、二人の目が合う。


 そして同時に思った――


(何ですか、このやたらと横柄な子供エルフは……?)

(む? もしかしてこやつが聖女とやらか? 随分とちっこいのう)


 ――小さいな、と。


 ……どっこいどっこいなのだが。


「き、危険です! 早く結界の中に!」

「その心配は要らぬ! 悪魔ごときわらわの敵ではないわ!」


 意気揚々と告げるメルテラ。

 貶されたことが分かったのか、数体の悪魔が彼女に狙いを定めて襲い掛かった。


 誰もがこの後に訪れる哀れなエルフの運命を予想したが、次の瞬間、彼女を護るように突如として複数の人影が立ちはだかった。


「ゴーレム……っ?」

「あのエルフが作り出したのかっ?」

「この一瞬であの数を!?」


 それはメルテラが簡易作成した土と石でできたゴーレムたちで、大きさは成人男性程度。

 数は十体を越えている。


「ただのゴーレムではないぞ」


 ゴーレムたちは、迫りくる悪魔に怖れることなく立ち向かっていった。

 攻撃を喰らっても怯むことなく突き進んだかと思うと、悪魔にタックル気味に抱き着いた。


 バンッ!

 バンッ!

 バンッ!


 あちこちで炸裂音が轟いた。

 悪魔に抱き着いたゴーレムが、そのまま次々と自爆していったのだ。


「「「なっ……」」」


 ボロボロと崩れていくゴーレムの下で、悪魔は完全に絶命している。


「くくく、これぞ、わらわの編み出した自爆型ゴーレム(改)じゃ! ちゃんと内側に向かって爆発するようにコントロールしておるから、周囲への被害は心配要らぬ!」


 ……ちなみに元々は自爆と同時に周囲に石の破片を撒き散らすという危険な代物だったが、つい先日これを自信満々にリオンに見せたところ、「なんて危ないものを作ってるんだ」と怒られてしまったので、頑張ってアップデートしたのだった。

 結果的にそれによって殺傷力も増した。


「ご、ゴーレムを、自爆させる……?」

「そんなことが可能なのか……?」

「エルフは魔法が得意だとは聞いていたが……」


 驚愕する騎士たち。

 その反応に気をよくしたのか、メルテラはますます増長した。


「こんなことができるのは、わらわがエルフの中でも群を抜く大・大・大天才だからじゃ! はっはっはっは!」

「……それを自分で言いますか」


 少々鼻につく感じの救世主に、聖女シアは少なからずイラっとさせられつつも、


「ともかく、悪魔が狼狽えている今が好機です!」

「「「おおおっ!」」」


 彼女の声に鼓舞され、騎士たちが雄叫びを上げる。


「これくらいの悪魔、わらわだけで十分なのじゃが……。まぁ、せめてわらわの邪魔をせぬようにするのじゃぞ」


 次々と生み出されるゴーレムが、死を恐れぬ自爆兵として悪魔に襲いかかる。

 さすがの悪魔たちもこれには恐怖を覚えたらしく、接近される前に破壊してしまおうと、必死に魔法で応戦した。


 だがその背後は、騎士たちの猛攻に晒されていた。

 戦況は完全に逆転しており、彼らの士気も高い。


 このままいけば、この一帯は人間側の勝利。

 そう思われた、まさにそのときだった。


 バリバリバリバリバリッ!!


「「「っ!?」」」


 凄まじい雷撃の雨がメルテラのゴーレムたちに降り注ぐ。

 閃光が収まったかと思うと、ゴーレムは一体残らず破壊されていた。


 愕然とする騎士たちの視線が、一体の悪魔へと向けられる。


 見た目こそシンプルな人型の悪魔だ。

 しかし今までいた下級悪魔たちとは、明らかにそのうちに保有している魔力が桁違いである。


「ほほう。少しは骨のあるやつが出てきたようじゃのう」


 メルテラはニヤリと口端を吊り上げた。


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