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第95話 熊の一種じゃないぞ

「「あくまー?」」


 騎士の話を横で聞いていた双子が、可愛らしくそろって小首を傾げた。


「あ」

「くま?」

「いや、熊の一種じゃないぞ。悪魔ってのは魔族の一種だ。世界に混沌をもたらす存在とされているが、どこに棲息していて、どこから現れるのかもよく分かっていない」


 総じて高い力を有しており、中には人間並みの知能を持つ個体もいるため、魔物よりもずっと危険な存在とされている。


 聖女モーナが騎士に問う。


「マリーとシアはどこにいる?」

「はっ。マリー様は北部にて、シア様は西部にてそれぞれ指揮を執られています! 東部は団長が、そしてここ南部は第一部隊長のわたくしが任されておりました!」

「そうか。ではこれより、ここ南部は私が指揮を執る」

「了解です!」


 政治的にも精神的にもこの国の中心である聖女の帰還に、疲弊していた騎士たちは少なからず戦意を取り戻したようだ。

 高い治癒の能力を持つ彼女は、戦闘の際にも強い戦力となることを彼らは理解していた。


 だが、そんな彼らの希望を打ち砕くかのように、


「っ! て、敵影っ! 悪魔が再び攻めてきたっ!」


 振り返ると、いつの間にか円形広場に異形の姿があった。

 何もない空間から、まるで降って湧いたかのように次々と出現していく。


「……転移魔法の一種か? 恐らく結界で護られた空間内には転移できないんだろうな」


 そんな風に分析しながら、リオンは現れた異形を見渡す。


 人間のような姿の個体もいれば、動物のような姿をしている者もいるし、幾つかの生き物が融合したキメラめいた姿もあった。


 共通項があるとすれば、背中に生えている漆黒の翼や、先端が槍のように尖った尻尾くらいだ。

 ただし、それがない個体も少なくない。


 悪魔はその見た目も性格も、あるいは能力も千差万別であり、そもそも同じ種族であるかも怪しいと言われているほどだ。

 もっとも、能力が多彩なのは人間も同じだが。


下級悪魔レッサーデーモンばかりだな」


 見た目では判別できないが、保有している魔力量を見ればおおよその見当がつく。

 リオンが見る限り、力のある悪魔はあまりいないようだった。


 ……と言っても、それはリオンの基準だ。

 下級悪魔でさえ、小さな町ならば単体で壊滅させられるくらいの能力は持つ。


 何より数が多い。

 ここ居住区南部だけでも百体はいるだろう。

 そして恐らくこの密度で悪魔が結界全体を取り囲んでいるのだと思われる。


「結界に近づけるな! まだ神殿区への避難が済んでいない! 少しでも長く結界を持ちこたえさせろ!」

「「「おおっ!」」」


 騎士たちが決死の表情で悪魔の群れへと立ち向かっていく。

 結界を破壊されれば、この悪魔たちが居住区へと雪崩れ込み、多くの被害が出ると予想できた。


 それを厳しい顔で見送りながら、モーナが振り返って、


「見ての通りの状況だ。ぜひ君たちの力を貸してほしい。もちろん、相応の報酬は出す」

「仕方ないのう! ま、わらわとこのリオンがいれば、悪魔ごとき軽く蹴散らしせるじゃろう!」


 リオンを差し置いて、メルテラが意気揚々と要請を受け入れた。

 勝手に答えるなよ……という目で睨むリオンだったが、それにすら気づいていない。


「子供たちは騎士に避難させよう」


 モーナのその申し出に、リオンは首を振った。


「心配ないよ、聖女のお姉ちゃん。この二人はむしろ強力な戦力だから」

「こんな子供が……?」


 疑いの目をするモーナ。

 実際に見た方が早いだろうと判断して、リオンは双子に指示を出した。


「ここは任せる。大丈夫だろう?」

「「ん!」」


 任せておけとばかりに、双子は胸を叩く。


「よし、じゃあ頼んだ。メルテラ、お前は西だ」

「了解なのじゃ!」

「っ、お、おいっ?」

「戦力は分けた方がいいでしょ!」


 慌てるモーナにそう言いおいて、リオンは双子を残してスーラとともに東へ、メルテラは西へと走り出す。


「いくよ!」

「やる!」


 狼狽えているモーナを余所に、双子はやる気満々だ。

 揃って結界から飛び出していく。


「子供!?」

「何でこんなところに!?」

「あ、危ない!」


 いきなり戦場に現れた双子に動揺する後衛の騎士たちだったが、次の瞬間、目で追うことすら困難な速度で、二人は彼らの脇を通り過ぎていた。


「「「え?」」」


 振り返ったときにはもう、双子はすでに悪魔と激突する最前線だ。


「とう!」


 アルクの小さな拳が、蛙のように丸々と太った悪魔の腹を打つ。

 その分厚い肉の壁にはなかなか刃が通らず、騎士たちが苦戦していた個体だったが、


 ずばぁぁぁんっ!


 アルクの拳が、蛙の悪魔の腹を粉砕した。


「「「は?」」」


 ただ殴っただけではこうはならない。

 拳を魔力で覆い、インパクトの瞬間に炸裂させたのである。


 一方のイリスは、両腕が蛇と化した悪魔に躍りかかる。

 二匹の蛇が牙を剥いて子供の柔肌に食らいつかんと襲いかかったが、蠅でも払うかのような容易さでそれを振り払うと、


「ほい!」


 宙返りしつつ悪魔の顔面へと蹴りを叩き込む。


 ぐしゃっ!


 首から嫌な音を鳴らしながら、悪魔は空高く舞った。

 恐らく三十メートルは打ち上がっただろう。


「「「な……」」」


 ずしゃっ!


 やがて地面へと叩きつけられた悪魔は、完全に動かなくなった。


「「つぎ!」」


 驚愕する騎士たちを後目に、双子は即座にターゲットを別の悪魔へと移す。

 それまで圧倒的な優位に立っていた悪魔たちが、戦況を完全に覆し得る圧倒的な戦力の登場に、戦慄の表情で後退った。


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