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第94話 君たちのことは頼りにしている

 聖女モーナの船に乗り、リオンたちは王都へと向かっていた。


 昨日の大型船は修復中らしく、それより一回り以上は小さな船だ。

 当然、護衛も少ないが、すでにサハギンロードを討伐しているため、問題ないとの判断だろう。


 ニ十分も走れば、遠くにうっすらと見えているだけだった島がはっきりと確認できるようになってきた。


 聖王国の王都を丸ごと抱えているだけあって、かなり大きな島だ。

 周囲の大半は断崖絶壁になっており、天然の要塞としても機能していた。


「しま!」

「おっきい!」


 船首に立った双子は人生で初めて見る「島」に興奮している。


 やがて船は、絶壁と絶壁の間に作られた港へと入っていく。


「おかしい……。港に誰もいない」


 聖女モーナが訝しそうに眉根を寄せて呟いた。


 サハギンの大量発生によって港の行き来ができないようになっていたとはいえ、人っ子一人見当たらないのはさすがに奇妙だった。


「……やはり、王都で何かが起こっているようだ」

「やはり? どういうことなの、聖女のお姉ちゃん?」

「いや、変だとは思っていたんだ。湖にサハギンが大量発生したことは当然、王都側も認識しているはず。ならば、すぐにでも王都に常駐する騎士団が掃討に乗り出すはずだ」


 にもかかわらず、巡礼の旅から帰還したばかりの聖女モーナが、自ら討伐隊を結成しなければならなかった。


「何か事情があって騎士団が動けなかったってこと?」

「……その可能性は高い。皆、これより王都へと向かうが、十分に警戒するように」


 モーナはそう呼びかけてから、リオンを見て言った。


「君たちのことは頼りにしている」


 うへ、とリオンは顔を顰めた。

 もしかしたらこの事態を想定し、わざわざリオンを船に乗せたのかもしれない。


 王都は島の中心にあり、港からは一本道だ。

 整備された坂や階段を上っていくと、やがてそれらしきものが見えてきた。


 綺麗な円形の都市で、風光明媚な湖に負けない美しい街並みだ。

 武骨な城壁の代わりに、三重の結界で保護されている。


「結界が……消えている?」


 しかし今、その結界の一つが完全に消失していた。

 街の最外部を囲っていた重要な結界だ。


 急いで街へ。

 そこにあったのは無人の都市だった。


 街の中心へと真っ直ぐ延びる大きな通り。

 いつもなら多くの人で賑わっているだろうそこに、人っ子一人見当たらない。


 街はそれほど荒らされている様子はない。

 所々に物が散乱していることを覗けば綺麗なもので、まるで突然、人々が消失してしまったかのような錯覚を抱くほど。


「何じゃこれは? まさか本当に住民が消えてしまったのかの?」

「いや、そうではない。恐らく避難したようだ」


 メルテラの言葉に、モーナが首を振る。


「避難?」

「ああ。外側にある第三結界が破壊される前に、奥にある第二結界の内側へと逃げたのだろう」


 モーナによれば、三重の結界によって生み出されるドーナツ型の三つの区画は、それぞれ内側から神殿区、居住区、商業区になっているという。


 王都の住民はその大半が居住区に住んでおり、日中になると商業区へとやってきて働いている。

 そして有事の際には、その居住区へと避難するよう普段から訓練をしているそうだ。


「有事、ね……」


 彼女の話を聞きながら、リオンはぼそりと呟く。

 三重の結界といい、そうした普段から危機に備えていることといい、恐らくこの都市は普段から何らかの敵対的存在を想定していたのだろう。


「ということは、住人は無事ということかの?」

「そう願いたい。だが、すでに第三結界が壊されたとなると、事態はなかなか深刻な状況のようだ」


 モーナが睨む視線の先には、二番目の結界と思しきものが見えた。

 普通の人間が見れば、無色透明でそこに何もないように思えるが、リオンやメルテラの目であれば結界を確認することができる。


「ほう、なかなか立派なものじゃな。しかし……」

「消失しかかってるな」


 結界は耐久限界に達しつつあるようだった。

 恐らくすでにかなりの攻撃を受けたのだろう。


 やがて二番目の結界のところまで辿り着く。

 その手前は居住区を丸ごと囲う広場になっているらしく、それが結界とともに二つの区画を奇麗に分断しているようだった。


 広場のあちこちが損傷しており、ここで激しい戦闘が行われたことが伺えた。


「あ、あれは……モーナ様っ!?」

「モーナ様だ!」

「お戻りになられたのか!」


 結界の向こう側。

 そこで警戒に当たっていた者たちが、こちらに気づいて声を上げ始めた。


 彼らこそが王都を守護する騎士団だ。

 すぐに駆け寄ってくる。


「モーナ様! ご無事だったのですね!」

「見ての通りだ。それで一体、何があった?」

「は、はい! 実は、悪魔の群れが……」


 騎士が語ったのは、以下のようなことだった。


 数日前、突如として現れた悪魔の大群に王都は襲撃を受けた。

 騎士団は悪魔と交戦。

 その間に、住民たちは第二の結界の内側の居住区へと避難した。


 敵は強大で、騎士団の奮闘も虚しく、第一の結界を破壊されてしまう。

 戦線は第二の結界まで後退した。


 一方、周辺都市へ救援を求める船を出したものも、湖に大量発生したサハギンによって沈没させられてしまう。

 そうこうしている内に、悪魔は第二の結界を破壊しようと攻撃を開始。

 応援がない中、騎士団が総力を挙げて抵抗することで、今のところどうにか凌いではいるが、もはや結界は限界で、恐らく次の攻撃には耐え切れないだろう。


「……予想以上に危機的な状況のようだ」


 話を聞き終えたモーナは顔を顰めた。


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