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第91話 あそこに突っ込んでくれ

 威勢よく船を出発させる聖女一行。

 どうやらサハギンの駆除に乗り出したらしい。


「なかなか威勢のいい聖女様だな」


 リオンは感心しながらその様子を船着き場で見ていた。

 この騒ぎを聞きつけたのか、いつの間にか周囲には人だかりができている。


「何だなんだ? 何があったんだ?」

「聖女様が自らサハギンロード討伐に出られたんだってよ」

「マジか。さすがモーナ様だな」


 やがて大型船が親指くらいにまで小さくなった頃。

 船の周囲で次々と水飛沫が上がり、何かが乗り込んでくる。

 どうやらサハギンの群れとの交戦が始まったらしい。


 話に聞いていた通りかなりの数だが、船にいるのは聖女様が集めた手練れ。

 サハギンの大群相手に優勢に戦いを進めているようだった。


 だがそのとき巨大な影が現れ、突っ込んできた。

 その直撃を受けて、大型船が転覆しそうなほど大きく揺れる。


「あれは何だっ!?」

「し、シーサーペントだっ!」

「何で海の魔物が湖にいるんだよっ!?」

「せ、聖女様は大丈夫なのかっ!?」


 周囲で不安の声が上がる中、リオンは鍛え抜かれた視力で大型船の様子をはっきりと見ていた。


「もしかして、あのちょっと大きなサハギンがサハギンロードかな?」


 水蛇の上に乗って現れ、激突の瞬間に甲板へと飛び乗ったのだ。

 人間たちが大きく揺れる船の中でほとんど身動きが取れない状態なのに、サハギンロードは平然としている。


「うーん、このままだと聖女様、やられちゃいそうだな」

「どうするのじゃ?」

「あの船、水の上でも走れる?」

「モチのロンじゃ! わらわは水魔法も使えるからの!」


 任せておけとばかりに胸を叩いて、メルテラは得意の土魔法で湖の上に小型の船を作り出した。

 リオンはすぐにそれに飛び乗る。


「……沈まないだろうな?」

「心配は要らぬ!」


 泥で作られた船が沈む物語を読んだことがあり、ちょっと不安だった。

 まぁ最悪、沈んでも泳げるので問題ないが。


「「~~っ」」


 だが双子は尻込みしていた。

 湖に慣れたのはあくまで浅い場所だけで、さすがにこの小さな船で沖に出るのは怖いのだろう。


「二人はお留守番だ。すぐ戻ってくるからそこで待ってろ」

「「ん」」

「せーの……」

「お、おい、何をする気じゃ?」

「ちんたら走ってたら間に合いそうにないから。しっかり捕まってろよ」


 なぜか湖の中に手を突っ込んだリオンに、不安そうになるメルテラ。


「――エクスプロージョン」


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!


 瞬間、背後で凄まじい水飛沫を炸裂させながら、小型船が猛スピードで走り出した。


『わーいなのー』

「ぬおおおおおっ!? お主っ、無茶苦茶するのうっ!?」

「この方が速いだろ?」

「速すぎるわっ!」


 気づけば船は湖岸から大きく離れていた。

 見る見るうちに大型船が近づいてくる。


 バシャンッ!


 そのとき船の上から誰かが投げ出され、湖に落ちてしまうのが見えた。

 当然ながら湖の中はサハギンばかり。

 どんな熟練の戦士だろうと、水の中でサハギンの群れを相手にしては成す術がないだろう。


「あそこに突っ込んでくれ」

「りょ、了解じゃ!」


 メルテラが水魔法で船の方向を操作。

 サハギンのいる湖の上を疾走し、先ほどの落下地点へ。


「「「ギャギャギャッ!」」」

「くっ、来るなっ! わ、私は美味しくなどないぞ……っ!」


 湖に落ちていたのは女性だった。

 大量のサハギンに群がられ、今まさに喰い殺されそうな状態だ。


「よっと」


 しかしその寸前に滑り込んできたリオンが、彼女の腕を掴み、そのまま強引に湖から引き上げた。


「大丈夫、お姉ちゃん?」

「げほげほっ……た、助かったのか……?」


 水を飲んでしまったのか、船の上で咳き込む女性。


「って、この人……」


 髪が濡れていてすぐには気づかなかったが、よくよく見てみると、どうやら聖女様のようだった。


「お、お前たちが助けてくれたのか……?」

「えっと……うん、そうだよ」

「……ありがとう。しかし、まだほんの子供ではないか……それに、この船は……」

「こ、細かいことは後にして、今は魔物をどうにかしないと」


 聖女モーナが助かったことに安堵する暇もなく、大型船の戦士たちはサハギンロードを中心とするサハギンの群れに苦戦していた。


 しかもそれだけでも厄介だというのに、あの水蛇だ。

 まるで大型船に恨みでも持っているのかと思うくらい、執拗に船ばかりを攻撃していた。

 お陰でもはや真っ直ぐ浮かんでいることもできなくなっており、このままでは遠からず沈没船になってしまうだろう。


 退避しようにも湖の上だ。

 逃げることもできない。


「見通しが甘かった……まさか湖にこれほどの魔物がいるとは……」


 リオンの横で、モーナが絶望的な表情を浮かべている。

 だがリオンとメルテラは至って平然として、


「あの水蛇はわらわに任せておくがよい」

「そう? じゃあ、頼んだ。僕はサハギンを()()()()()()()

「お、おい、お前たち、何を言っているんだ……?」


 モーナが訝しむ中、リオンは船から湖へと飛んだ。


「っ!? 何をっ……」


 水中に落ちるかと思われた次の瞬間、リオンは湖面を蹴って再びジャンプしていた。


「み、水の上を走っている!?」

「相変わらず出鱈目なやつじゃのう……」


 モーナが驚愕し、メルテラは呆れたように呟いた。


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