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第90話 我らには神々の加護がある

 聖女一行を乗せた大型船が船着き場を出発する。

 そこには船乗りたち以外に、五十人を超える戦闘員たちが乗っていた。


「我らが湖を取り戻すべく、サハギンどもの首魁、サハギンロードを討つ!」


 そう声を轟かせて皆を鼓舞しているのは、三聖女の一人、モーナである。


 年齢は二十代後半か。

 すらりとした長身で、男勝りなきりっとした目鼻立ちをしている。

 聖女というより、女騎士といった方がしっくりくるかもしれない。


 聖女モーナは、三聖女の中でも最も気の強い聖女だった。


 巡礼を終えて戻って来てみれば、湖にサハギンが大量発生。

 王都に戻ることができなくなってしまったという状況を前に、座して見ているような性格ではない。


 冒険者ギルドに働きかけ、実力のある冒険者たちを集めたり、対サハギン用の戦術を考案したりと、この数日間、自ら率先して動き続けてきた。


 そして今日、満を持してサハギンの一斉駆除に乗り出したのである。

 しかもそこに自らが参戦している。

 彼女の精力的な性格が分かるというものだ。


 船が港を離れて、すでに数百メートル。

 だがまだサハギンは現れない。


 狂暴なサハギンたちも、さすがに街に近づけば人間たちにやられることを知っている。

 そのためある程度の沖までいかなければ、遭遇する可能性は低いのだ。


 やがて港から一キロほど来たときだった。


「湖面に影が見えます! その数、一、二、三……二十以上!」

「来ました! サハギンの群れです!」


 ついにサハギンの接近を確認。

 船内に緊張感が走る。


「恐れるな! 我らには神々の加護がある!」

「「「おおおおっ!」」」


 モーナの叱咤に、戦闘員たちが声を張り上げる。

 各々武器を構え、サハギンの襲撃に備えた。


 ザバンッ!


 湖面で大きな水飛沫が上がったかと思うと、一体のサハギンが甲板へと飛び上がってきた。

 それを皮切りに、次々とサハギンが船に乗り込んでくる。


 あっという間に甲板は乱戦となった。

 精鋭ばかりを集めたこともあって、サハギンを相手に後れを取るような者はいない。


 だが数が多い。

 大量発生したサハギンたちは、味方がどれだけ倒れても臆することはない。

 間断なく甲板へと現れ、数の力で徐々に勢力を増していく。


「――エリアリジェネ」


 そのとき甲板全体を包み込むように、彼らの足元で魔力の光が輝いた。

 光りを浴びると、戦士たちの傷が癒えていく。


 広範囲に及ぶ持続型の回復魔法だ。

 もちろん味方のみに効果があるそれは、この討伐隊の実質的なリーダーであるモーネが使ったものだった。


 彼女のジョブはクラスⅡの【回復術師リカバラー】。

 ゆえに回復魔法は、最も得意としている魔法だ。


 かつて三聖女は、同じ治癒士系統のクラスⅢジョブである【聖者セイント】を取得した女性に限られていたが、現在はその限りではない。

 そもそも【聖者】であった最後の聖女となると、百年前にまで遡る必要があった。


 ともかく聖女のサポートを受けて、戦士たちは再び勢いを取り戻した。


 そのときだ。

 沖合から通常のサハギンの二倍以上の大きさはあるだろうサハギンが、こちらに向かって迫ってくるのが発見される。


「っ! サハギンロードが現れました!」

「やはりいたか。よし、必ず奴を仕留める!」

「「「おおおっ!」」」


 サハギンロードを迎え撃たんとする聖女一行。

 だがすぐに異変に気づくこととなった。


「……待て? あのサハギンロード、どうやって泳いでいる?」


 よく見ると水中にあるのは下半身だけで、上半身は常に湖の上に浮かんでいるのだ。

 幾ら泳ぎが得意なサハギンと言えど、あんな状態で泳げるはずがない。


「まるで、水の中に立っているかのような……」

「っ! サハギンロードの足元に何かいますっ! 巨大な影が……」


 直後、サハギンロードの身体が宙へと浮き上がった。

 同時に凄まじい水飛沫とともに、湖の中に隠れていたそれが姿を現す。


「なっ……」

「シーサーペントっ?」

「何でこんなところにっ!?」


 それは巨大な水蛇だった。

 シーサーペントという名からも分かる通り、本来ならば海に棲息するはずの魔物だ。

 それがどういうわけか、頭にサハギンロードを乗せて水中から躍り出てきたのである。


「シャァァァァッ!」

「か、回避っ、回避ぃぃぃぃっ!」


 シーサーペントは鋭い威嚇音を鳴らしながら、大型船目がけて突っ込んできた。


 ドオオオオオオンッ!


 全長五十メートルを超す巨体に激突され、さすがの大型船も激震した。

 何人かの戦士たちが甲板から投げ出されそうになり、辛うじて手すりを掴んでどうにか湖への落下を免れた。

 未だサハギンがうようよしている中、もし船から落ちたらまず助からないだろう。


「ギャギャギャギャッ!」

「さ、サハギンロードが……っ!」


 水蛇から飛び降りたらしく、サハギンロードの姿が甲板の上にあった。


 大きく揺れる甲板。

 人間たちは立つこともできない状態だというのに、サハギンロードは平然と立ち、それどころか難なく歩いていた。


 その向かう方角にいたのは、聖女モーナである。


「くっ……これでも喰らうがいい! アイスエッジ!」


 モーナは唯一使える攻撃魔法を放ったが、サハギンロードは軽く手で払うだけでそれを防いでしまう。


「なっ……」

「ギャギャギャッ!」

「……せ、聖女様っ!」


 近くにいた者たちが慌てて助けに入ろうとするも、しかし間に合わなかった。


「ギャッ!」

「~~~~っ!」


 頭を掴まれ、モーナはそのまま船の外へと放り投げられた。

 バシャンッ!


 もちろん船の外はサハギンたちの楽園だ。


「「「ギャギャギャッ!」」」

「くっ、来るなっ! わ、私は美味しくなどないぞ……っ!」


 湖へと落下した彼女の元へ、サハギンが群がってくる。

 誰もが最悪の事態を想像した、そのときだった。


 ギュンッ!


 湖面を猛スピードで走ってきた小型船が滑り込んできて、


「大丈夫、お姉ちゃん?」


 銀髪の少年がモーナの身体を湖から引き上げた。


ヒーロー文庫さんから書籍版が発売されています。ぜひよろしくお願いします。

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