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第9話 伝説の勇者様の像よ

 どうやら相手は悪名高い野盗団らしい。


 前世にも凶悪な野盗団は沢山あった。

 魔王によって人類が危機に瀕していても、やはり悪事を働く人間はいたのである。

 その中には勇者であるリオンにまで討伐依頼が来るほど、厄介な戦闘力を持つ団が存在していた。


(あまり手加減しない方がいいか?)


 リオンのステータスも今はまだ前世よりも低い。

 スネイル一味のときのように舐めてかかるのはやめた方がいいだろう。


(幸い俺のことは普通の子供だと思って油断してるみたいだな。こっそり魔法を使えば、先制できるかも)


 リオンは無詠唱で魔法を発動することができる。

 ただ、魔力を練るためにごく僅かな時間は必要で、前世ではその一瞬の隙をついて攻撃してくる敵がいた。

 もっともその場合、リオンなら剣で対応できるのだが。


「――サンドストーム」


 しかしそんな心配は無用だったようだ。

 何事もなく魔法が発動し、馬車を中心として凄まじい砂の嵐が巻き起こった。


「「「ぬぎゃあああああああああっ!?」」」


 砂嵐に飲み込まれて宙を舞い、野盗たちの絶叫が響き渡る。

 ちなみにリオンが砂嵐の範囲を上手くコントロールしているので、馬車の中には砂一粒すら入ってきていない。


 やがて嵐が収まったときには、全員漏れなく土の中に半身を埋もれさせて気を失っていた。


(……あれ?)


 一方、首を傾げるのはリオンだ。

 悪名高い野盗団と聞いていたので、こんなに簡単に全滅させられるとは思っていなかったのである。


(いや、気絶したフリをしているのかもしれないな)


 警戒していると、ライアンとニーアが信じられないといった顔でゆっくりとリオンの方を振り向いた。


「な、な、何なんだよ、ボウズっ、今の魔法は!?」

「え? サンドストームだけど?」

「土と風の融合魔法じゃないのよ!?」

「あれ? やっぱり殺傷力のある魔法を使った方がよかったかな? 余罪もありそうだし、無力化させて捕まえた方がいいかなって」

「「そういう問題じゃない!」」

「……?」


 なぜ怒鳴られたか分からず、リオンは首を傾げた。


「しかも無詠唱じゃなかったか……?」

「嘘でしょ。無詠唱でこんな魔法を……」


 二人がフリーズしているので、仕方なくリオンは一人で野盗たちを回収することにした。

 だが十四人もいる野盗をこの馬車に乗せていくことはできない。


「仕方ない。俺が運んで持っていくか」


 幸い町まで馬車であと一時間ほどだ。

 リオンが走ればすぐ着くだろう。


「じゃあ僕は先に行くので」

「は、はい?」


 御者に一言告げてから、縄で縛って塊にしておいた野盗たちを軽々持ち上げた。

 そして地面を蹴って馬車を遥かに超える速度で走り出す。


「「「えええええええええええっ!?」」」


 後ろから聞こえてきた驚愕の声をあっさり置き去りにし、リオンは風のように疾走した。






 それから十分ほどでバダッカに到着した。


「はい、これ。街道で野盗を捕まえたので」

「はあ!? ちょっ、どういう――って、もういない!?」


 リオンは町の入り口に野盗の塊をぽいっと投げると、さっさと中に入ってしまった。

 後のことは町の衛兵たちがどうにかしてくれるだろう。


(あんまり変わらないなー)


 百年も経てば街並みも様変わりしているものかと思ったが、そうでもなさそうだ。

 もちろん細かい変化はあるだろうが、今潜ってきたランドマークとも言える厳めしい門や、目の前の広場は百年前のままだ。


 しかし記憶を頼りに冒険者ギルドのあった場所に行くと、そこは大衆浴場になっていた。

 もしかして記憶違いだろうかと、周辺を探し回る。


 やがて発見したのは、リオンの記憶にあるものとは異なる建物だった。

 しかし看板にはちゃんと〝冒険者ギルド・バダッカ支部〟と書いてある。

 移転したのかもしれない。


「ひとまず登録をしないとな」


 リオンは受付の方へと向かう。

 と、その途中であるものに気づいた。


「これは……」


 立派な彫像があった。

 二十歳くらいの青年の像だ。

 その顔に見覚えがある。


「俺じゃないか」


 前世のリオンだった。

 ……若干、あくまで若干だが、本物より凛々しく造られている気がする。

 そのことに複雑な思いを抱いていると、


「それは伝説の勇者様の像よ」


 後ろから声を掛けられ、リオンは振り返る。

 二十歳くらいの若くて綺麗な女性がにっこりと微笑んでいた。


「今から百年ほど前のことね。強大な力を持つ魔王を倒して、この世界を救ってくださったのが勇者――リオン=リベルト様なの」

「知ってるよ」


 なにせ本人なのだ。

 もちろん相手はそんなことを知る由もない。


「何で冒険者ギルドにあるの?」

「彼の像はここだけでなく国中……いえ、世界中にあるわ。なにせリオン様は全人類の英雄だから。特に冒険者ギルドではその伝説的な強さにあやかるため、置いていないところはないくらいよ」


 それを聞いて、リオンは羞恥で悶えそうになった。


「ああ、それにしてもいつ見てもイケメンね……」


 リオンの像を見ながらうっとりしている。

 顔が変わっていることもあり、まさかすぐ横に本人がいるとは思わないだろう。


「……ところで、本日はどんなご用かしら? 私はシルエ。当ギルドの受付嬢よ」


 どうやらこの女性、ギルドの受付嬢らしい。

 道理で美人なわけである。

 受付嬢はギルドの顔とも言える存在なので、優秀であることはもちろん、見目に優れた者を並べることが多かった。


「冒険者の登録をしようと思って」

「君が? えっと……年齢は?」

「十二歳」


 前世を合わせると三十三だが。


「……十二歳。となると、まだジョブは取ってないわよね」

「ううん、【調教士】のジョブを取ってるよ。スーラ」

『はいなのー』


 リオンが呼びかけると、服の中がもぞもぞと動き、首のところからスーラがぷるりんと出てきた。

 一応魔物なので驚かれるかもしれないと思い、念のため隠しておいたのだ。


 可愛らしいスライムに、シルエは少し頬を緩めたが、


「……でも、スライムだけじゃねえ。それに【調教士】かぁ。うーん……」


 シルエは困ったように唸る。


「正直言っちゃうと、魔物使いが冒険者をやるのはあまりお勧めしないわ」

「どうして?」

「強い魔物を仲間にするには、自分自身が強くならなくちゃいけないの。でも、魔物使いって戦闘はあまり得意じゃないから……。クラスⅡの【従魔師モンスターテイマー】にまでなればまた違うんだけど」


 クラスⅠの【調教士】が手懐けることができるのは、せいぜい動物や弱い魔物までだという。

 パーティを組めればまだ可能性はあるが、戦力になるまでは完全な足手まといのため敬遠されてしまい、そもそもパーティに入ることが難しい。


「だから【調教士】って、初心者にはハードルが高すぎるジョブなのよねぇ」


 なぜそんなジョブを取得してしまったのかと、リオンに可哀想な子を見る目を向ける受付嬢だった。



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