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第89話 我らが湖に平穏を取り戻さん

「普通に宿から出れるのか。てっきりあの宿に憑りついてるのかと思ってた」

「違いますよ。単に宿に泊まってただけです」


 宿をチェックアウトしたリオンたちの後を、ゴーストがふわふわと付いてくる。


「お、おい、わらわには見えぬが、まさかまだゴーストがおるのか……?」

「ああ。この辺に浮いてる」

「ひっ」


 やはりリオン以外には見えていないらしい。

 さらにゴーストの声も聞こえないため、傍から見ると独り言をしているかのようだった。


「「……?」」


 リオンが〝この辺〟と言ったあたりを、双子は手を伸ばして触ろうとした。


「ひゃっ!? 変なところ触らないでくださいっ!」


 どうやらちょうどお尻を触られたらしく、ゴーストが悲鳴を上げた。


「「~~っ!」」


 見えなくても何かを感じ取ったのか、双子は身体の毛を逆立たせる。

 試しにリオンもゴーストの腹の辺りに触れてみると、どこかひんやりとして、同時に背筋がぞわっとした。


「――ホーリークロス」

「んぎゃっ!? 隙あらば除霊しようとしてくるのやめてくれませんかっ!?」

「体内(?)で放てばより効果的かと思って」


 警戒して距離を取るゴーストへ、リオンは「もうしないから」と両手を上げつつ訊いた。


「それで、生前のことは思い出せないのか?」

「……はい、まったく覚えてないです」


 この世で強い恨みや後悔を持ち、肉体が死んで魂だけが留まってしまうことでゴーストが発生すると言われている。

 つまり彼女がゴーストになった原因を知り、それを取り除くことができれば、浄化魔法による強制的な除霊をしなくても自分から昇天してくれる可能性は高い。


「名前も?」

「覚えてないですね」

「じゃあ、いつからゴーストになったんだ?」

「そうですね……」


 ゴーストには昼夜の感覚があまりないらしく、はっきりとは分からないようだ。

 だが、だいたい一か月くらい前ではないかと彼女は言った。


「気づいたら船に乗っていたんです。それでこの街に……」

「船? ということは、元々は王都にいた可能性があるな」


 この国の王都は湖の中心に浮かぶ島にある。

 行き来するためには船を使うしかなかった。


「王都に行けば何か分かるかもしれない」

「つ、連れて行ってくださるんですか……?」

「どのみち王都に行くつもりだったし」

「ありがとうございますっ!」


 ゴーストは嬉しそうだ。

 その一方で、メルテラが顔を引き攣らせていた。


「お主、まさかゴーストを連れて行くつもりか……?」

「ああ」

「ななな、何を考えておるのじゃ!」

「どうせ見えないし一緒だろ?」

「そういう問題ではないっ!」

「まぁ乗り掛かった舟だと思って諦めろ」


 ゴーストはメルテラにぺこりと頭を下げた。


「エルフさん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします、だって」

「ひぃっ?」

「いや、いるのはそっちじゃないぞ」


 それから湖を渡るため船着き場へとやってきたリオンたちだったが、


「って、そうだ。定期船、運航休止中なんだった」


 宿を探すときに聞いた話を思い出した。

 だからどの宿も客で埋まっており、仕方なくゴーストの噂がある宿に泊まったのだった。


「何で運休中なんだ?」


 その原因を知るべく、リオンは近くにいた船乗りっぽい中年男性に声をかけた。


「おじちゃん、僕たち王都に行きたいんだけど……船って出てないの」

「ああ、残念ながら今は運休中だ」

「何があったの?」

「実はな、最近になって湖でサハギンが大量発生していてよ。奴らに船が何隻も沈められちまったんだ。危険だからって、定期船はもちろん、漁船も出れねぇ状況なんだ」

「へえ~」


 サハギンは狂暴な魔物だが、それほど強いわけではない。

 それなりに大きな船であれば、たとえ襲ってきたとしても蹴散らしながら進んでいくことが可能だ。


 だがそれは少数であればの話。

 何十、何百というサハギンに群がられては、さすがに一溜りもない。


「これだけの異常発生だ。サハギンロードが現れたんじゃねぇかって言われてる」


 サハギンロードはサハギンの最上位種である。

 単体としての強さはさほどではないが、群れの繁殖力を高め、大量発生の原因になるとして恐れられていた。


「聖女様もお困りみたいだぜ」

「聖女様?」

「知らないのか? この聖王国には国の象徴とも言える三人の聖女様方――〝三聖女〟様がいらっしゃるんだ。その昔、恐ろしい悪魔から国を守護されたという三人の聖女様たちがその始まりで、それ以来、代替わりを続けながら今でもこの国を護っておられる」


 そう言えばこの国にはそういった伝統があったなと、とリオンは前世の記憶を思い出す。


「現在の三聖女様のおひとり、モーナ様が巡礼の旅から戻られて、後は船で王都に渡るだけ……ってところで足止めされちまってるらしい。本来ならもうとっくに王都の教会に帰還されてるはずなんだがな。っと、噂をすれば」


 中年男が視線を向けた先を追うと、一人の女性の姿があった。


「これよりサハギン討伐隊、出撃する! 三聖女が一人、我モーナの名において神々に誓う! 必ずや元凶を排除し、我らが湖に平穏を取り戻さん!」


 そう勇ましく宣言した彼女は、武装した集団を引き連れて一隻の大型の船へと乗り込んでいく。


 どうやら現状を打破するため、聖女自らサハギンの駆除に乗り出したらしかった。


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