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第87話 一緒に探してください

 この宿に女のゴーストが現れるようになったのは、半月ほど前のことだという。


 特に客に危害を加えるわけではないものの、ゴーストを怖がったり、忌み嫌ったりする人は多い。

 噂が広がるにつれ、段々と客足が途絶えていった。


 もちろん宿も何も対策を講じなかったわけではない。

 何度もゴーストを除霊させようと試みたそうだ。

 幸い教会を中心としたこの国には、神官系統のジョブを有する者が多い。


「でも、誰一人として除霊することができなかったんです……」


 クラスⅠの【神官プリースト】どころか、祓魔を専門としたクラスⅡの派生ジョブ【祓魔師エクソシスト】ですら匙を投げてしまったという。


「随分と厄介なゴーストなんだな」


 若女将から部屋の鍵を貰ったリオンは、暢気にそう呟きながら廊下を進んでいく。

 どの部屋も空いているらしく、ひっそりと静まり返っている。


「この部屋か」


 扉を開けて中に入る。

 ベッドと簡単な机、それに棚があるだけのシンプルな部屋だ。


「ほほう、部屋自体はなかなか悪くないの」

「……いや、お前は隣の部屋だろ?」

「た、ただ覗いてみただけじゃろうが!」


 メルテラまで一緒に入ってきたので、強引に押し出してやった。


「さて、どこかで夕食を食べてくるか」

「「ん!」」


 普段は宿で食事を提供しているという。

 だが今は客が全然いないこともあって、食材を仕入れておらず、外で食べてくるしかないようだった。


「ぎゃああああっ!?」


 そのとき隣の部屋から大きな悲鳴が聞こえてきた。

 何事かと廊下に出てみると、メルテラが涙目で突っ込んでくる。


 そのまま突進してこようとしたので、リオンは慌てて回避。

 結果、メルテラは廊下でヘッドスライディングした。


「何で避けるのじゃ!?」

「それより、どうしたんだ?」

「で、で、出たのじゃぁぁぁぁっ!」

「出た? もしかしてゴーストが?」


 ぶんぶんぶんと首を縦に何度も振るメルテラ。

 その顔は青ざめていた。


 ホムンクルスなのにそうした感情表現もできるんだなと感心しながら、リオンはメルテラの部屋へ。


 メルテラは付いてこようとしなかったが、双子も一緒に行くと知ると慌てて後を追いかけてきた。

 一人になるのが怖いのだろう。


「……あれがゴーストか」


 部屋の中にいたのは、まだ若い女性のゴーストだった。


 長い髪の美人で、表情は穏やかだ。

 身体が薄っすらと透けていなければゴーストだと思わないかもしれない。


「ほれっ、ごごご、ゴーストじゃろっ!?」

「そうだけど、そんなに怖くないじゃん」

「お主、よくそんなに平然としておられるのうっ!?」


 ゾンビやスケルトンの方がよっぽど悍ましい。

 前世でアンデッドの大群に襲われたことのあるリオンからしてみれば、目の前のゴーストを恐ろしいとは思わなかった。


「あら、こんにちは」


 ゴーストはリオンたちに気づくと、にっこり微笑んで挨拶してくる。

 悪いゴーストではなさそうだ。


「ふふ、子供たちで遊んでいるんですかね? でも、人の部屋に勝手に入っちゃダメですよー?」

「えっと、お姉ちゃん、自分がゴーストっていう自覚はある?」

「私がゴースト? ふふっ、面白いことをいう子ですねー」


 どうやらそもそも自分がゴーストであることに気づいていないらしい。


「まぁいいや。面倒だからすぐに浄化してあげるね」


 わざわざ説明する必要もないだろう。

 そう判断して、リオンは早速、除霊に取りかかる。


「ホーリーレイ」


 治癒士系統の最上位ジョブ【聖者セイント】を有するリオンは、浄化魔法も使うことができた。

 聖なる光がゴーストを襲う。


「ちょっ、やめてくださいっ。眩しいじゃないですかっ。お姉さん、怒りますよー?」


 ゴーストは光を不快には思ったようだが、除霊される気配はまったくなかった。


「……効いてない、か」


 どうやら【祓魔師】が匙を投げるだけのものはあるらしい。


「効いてないじゃないですよっ。人の部屋にいきなり来て、変な光を当ててくるなんて……失礼ですよ?」

「えっとね、お姉ちゃん。今のはアンデッドを浄化させるためのものなんだ」

「アンデッドを? 何を言ってるんです? 私は見ての通り、生きた人間ですよ?」

「でも身体が透けてるし、足がなくて宙に浮かんでるよ?」

「ふふふ、そんなわけないで――――えええええっ!?」


 自分の下半身を見て、ゴーストは突然、大きな声を上げた。


「わ、私の足がありませんっ!? どどど、どこに行ったのですかっ!?」

「今はじめて気づいたんだ……」

「お願いします! 一緒に探してください!」

「探して見つかるようなものじゃないでしょ……」


 おろおろと慌てふためきながら、ふわふわと部屋の中を右往左往するゴースト。


「だ、だから昼間に声をかけても気づいてくれなかったんですねっ!? てっきり無視されているだけだと思ってました……っ!」


 ゴーストは基本的に夜にしか見ることができないのだ。


「それじゃあ、今みたいに変な光を何度もぶつけられたのは……」

「誰かが浄化を試みたんだね」


 違和感はあったようだ。

 けれどリオンがはっきりと指摘するまで自覚ができなかったのは、何らかの理由により認知の外へと追いやっていたのかもしれない。


 そもそもここまで自我を保っているゴースト自体が珍しい。


「ま、何にしても、すぐに除霊するけど。――ホーリークロス」


 先ほどよりさらに強力な浄化魔法を使うリオン。

 眩しいほどの聖なる光がゴーストに直撃するが、


「熱いっ!? 何するんですかっ! 痛いじゃないですかっ!」

「……うーん、これでもほとんど効果なしか」


 思っていた以上にしぶといゴーストらしかった。


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