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第8話 これこそが伝説の世界樹の枝

「っ……ふざけんなッ!」


 スネイルが怒号を上げて斬り掛かってくる。

 もし倍化反射のスキルが発動してしまうと、ばっさり身体を斬られて致命傷を負うはずなのだが……。


(学習能力がないのか……?)


 これまでの流れから考えて、攻撃したら危険だってことくらい分かるはずだろう。


 リオンは枝を振った。

 ズパッ。


「……は?」


 相手を斬り裂くどころか、刀身がくるくると宙を舞ったことに、スネイルは頓狂な声を漏らす。

 伝説の勇者の剣(笑)は、根元から綺麗に両断されていた。


「ば、馬鹿、な……」

「勝負ありですね」

「ち、違うっ……こんなこと、あ、あ、あり得ねぇっ! お前、一体どんな手を使いやがった!?」

「どんな手って、ただ斬っただけですけど」

「そんな落ちていた枝でこの剣を斬れるはずねぇだろ!」


 どうやら剣筋(枝筋?)すらも見えなかったらしい。


「斬れますよ? ほら、この通り」


 リオンは枝を石畳の地面に振り下ろした。


 ズパンッ!


 およそ五、六メートルに渡って、石でできているはずの地面に綺麗な亀裂が走った。

 唖然とする兄たち。


 さらに空に向かって枝を振るう。


 ズパンッ!


 上空にあった雲が真っ二つに割れた。

 呆然とする兄たち。


 そこで不意に悪戯心が芽生えてきた。

 ちょっと彼らをからかってみたくなってしまったのだ。


「実はこの枝、ただの枝じゃないんです。これこそが伝説の世界樹の枝で、その強度はあのオリハルコン相当。見ての通り、勇者の剣を遥かに凌駕した最高の武器なんですよ」


 すらすらと口から出任せが飛び出してくる。


「だけど欲しいならあげましょう。売れば金貨100枚は下らないと思いますねー」


 そしてリオンは枝を放り捨てた。


「お、俺のものだっ!」

「いや、俺のだって!」


 目の色を変え、我先にと争って〝ただの枝〟に群がる少年たち。

 その中には兄の姿もあった。


「待ちやがれっ! そいつはオレのだ!」


 そうして周りを押し退け、枝を手にした。


「はははっ! 伝説の枝だぁっ! どうだっ!」

(あーあ、そんなに力強く振ったら……)


 ペキッ。


「……へ?」


 折れてしまったようだ。


「なっ……お、おいっ! これのどこが伝説の――――っ? いねぇ!?」


 リオンは彼らに気づかれないよう包囲網を抜け出し、すでに路地へと入っていた。








 馬車に揺られて街道を進んでいく。


 目的地はバダッカという都市だ。

 馬車で丸一日程度の距離である。


 街道には魔物や盗賊が出たりするので、護衛として冒険者が乗っていた。

 男女の二人組だ。

 年齢は二十歳前後といったところだろうか。


 どうやら二人ともバダッカの冒険者ギルドを拠点としているらしいので、話を聞いてみることにした。


「なんだ、ボウズ。もしかして冒険者になる気なのか?」

「うん。だから話を聞かせてほしいんだ」


 二人は快諾してくれた。


「俺はDランク冒険者のライアン。ジョブは【戦士ファイター】だ」

「あたしはニーア。同じくDランク冒険者よ。ジョブは【魔術士】ね」


【戦士】はクラスⅠのジョブだ。

 リオンの取得している【剣士】は剣が専門だが、【戦士】はもう少し幅広い戦い方ができる。


「Dランク?」

「あら、ランクのことも知らないの?」


 冒険者は実力や実績からランク付けされている。

 S、A、B、C、D、E、Fの七段階あって、最高がS、最低がFらしい。


 無論、リオンもそれくらいのことは知っていた。


(けど……最高がS? SSとか、SSSは?)


 前世で会った冒険者たちは、低くてもせいぜいBランクまでだった。

 なので、リオンはてっきりBランクが最低だと思っていたのだが……。


 もしかしたら百年の間に見直されたのかもしれない。

 確かにSSSは分かりにくい。


「FやEは駆け出し。Dランクでようやく一人前。Cランクになると熟練と言われているわ」

「俺たちの年齢でDランクなら出世頭なんだぜ」


 つまりDランクは百年前のAランクに相当する感じだろうかと、リオンは推測した。


「なるほどなるほど」

「でもあなたの年齢じゃ、ちょっとすぐに冒険者になるのは難しいかもしれないわね。あと三年……ううん、五年は必要かな」


 ニーアは呟く。

 リオンの見た目から、まだ十歳くらいだと思ったようだ。


 もっとも、十二歳だとしても次期早々だと考えただろう。

 冒険者はハードな仕事だ。

 最低でも十四、五歳くらいでなければ務まらないのである。


 やがて目的地のバダッカまであと一、二時間ほどとなった頃。


「おい、止まれ!」

「へへっ、大人しくしやがれよ」


 リオンたちが乗る馬車は荒くれ者の集団に取り囲まれてしまった。


「や、野盗だっ」


 御者が悲鳴を上げて馬車を停める。


 こちらを包囲しながら近づいてくるのは十数人の男たち。

 統一感のない粗末な武器や防具で身を固めており、いかにも野盗といった感じだ。


「くっ……数が多いな。やれるか、ニーア?」

「相手の実力次第だけど……」


 護衛の冒険者であるライアンとニーアが小声で話し合っている。


「ははっ、やめておいた方が賢明だぜ、冒険者さんたちよ? オレたちは〝マッドマウス〟。界隈じゃそれなりに名の知れた野盗団だ」

「なっ……マッドマウスだとっ?」

「なんでこんなところに……っ? もっと西の方を拠点にしていたはず……」


 ライアンたちが息を呑む。


「有名なの?」

「……ああ。戦闘力の高い野盗団として怖れられてる連中だ。西方の冒険者ギルドが拠点を見つけて、高位の冒険者も含めた戦力で乗り込んだらしいが、返り討ちに遭って大きな被害を受けたらしい」


 そうリオンに教えてくれながら、ライアンは顔を歪めて思案している。

 抵抗するべきか、大人しく金目のものを渡して被害を最小限に抑えるのか、考えているのだろう。


「金を寄こせば命までは取らねぇぜ」

「ただし女は貰っていくけどなぁ! ぎゃはははっ!」

「くそっ……」


 馬車に乗っている女性は護衛のニーアだけだった。

 女性冒険者はこういうとき大変だなぁと、リオンは思った。


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