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第76話 相変わらず罪な男だね

 結局その後のトーナメントでもアルクとイリスは順調に勝ち上がり、本選への出場権を獲得してしまった。


「「やった」」


 素直に喜んでいる双子だが、リオンとしては気が気ではなかった。


(まさかこのまま優勝したりはしないよな? ……いや、さすがにそこまで簡単じゃないはず。ランスロットも出るらしいし)


 今の世界では最上級とされるSランク冒険者だ。

 先日のオーク狩りでは双子の後塵を拝したものの、一対一の戦いとなると向こうに分があるだろう――と、リオンは思っている。


「それに他にも強い参加者がいるはずだ」


 ランスロット以外にも、予選を免除された参加者がおり、合計で二十四名が本選に出場し、優勝を争うことになっていた。






 そして武術大会の日がやってくる。

 この日のために王都最大の広場に築かれた特設のステージがその会場で、大勢の人たちが詰めかけていた。


 本選はトーナメント方式。

 二十四名のうち、八名は一回戦が免除されたシードとなっているようだ。


「二人は勝ち上がったら三回戦でぶつかってしまうな」

「「ん」」


 普段は仲良しの二人だが、互いに睨み合って「まけない」と言い合っている。


(これで決勝が幼児同士の対決、なんていう微妙な展開は避けられるわけだ)


 運営はそれを意識し、早めに二人がぶつかるようにトーナメントを組んだのかもしれない、というのは考え過ぎだろうか。


「その前に二人ともシード選手に勝たないとダメだけどな」


 特にイリスは一回戦を勝ち上がると、二回戦でランスロットと当たることになっていた。


「王太子殿下だ!」

「王女殿下もいらっしゃるぞ!」


 会場中が突如として大声援に包まれた。

 見ると、王太子のシリウスとその妹セリアが、会場内に設けられた特別な観覧席へと姿を見せたところだった。


 本来なら国王が観覧するのだが、病気で療養中のため、その代理だろう。


「静粛に! 王太子殿下のお言葉である!」


 会場が静かになると、シリウスが簡単に挨拶を述べ、そして大会の開催を宣言した。


「それではこれより武術大会本選を開催する」







 大会本選は第一試合から白熱した戦いが繰り広げられ、最初から大いに盛り上がった。

 一回戦はいずれも予選突破者と本選からの出場者の対戦となるが、実力が拮抗していたためだ。


「一回戦第三試合を始めたいと思います!」


 そしていよいよイリスが出場する番がやってくる。


「がんばる」


 むん、と気合を入れてステージへと上がっていくイリス。

 だがステージに上がった瞬間、急にその気合が萎んでいくように見えた。


 リオンたちの方を、泣くのを我慢したような顔で見てくる。

 予選のときを遥かに超える大勢の観客の視線に晒されたせいで、怖くなってしまったのかもしれない。元より極度の人見知りなのだ。


 そんなこともあろうかと、リオンはこっそりイリスの髪の毛の中にスーラの分裂体を仕込んでおいた。


『だいじょうぶなのー』

「すらちゃん?」

『ここにいるのー』

「ん」


 少し顔色がマシになったように思える。


 一方、五歳の幼児の登場によって会場は騒めいていた。


「あれも出場者? 冗談だろう?」

「おいおい、あんなのでも出れるなんて、この大会の格も知れたもんだな」

「けど、本選に出るってことは予選を突破したってことじゃないか?」


 これまでの試合を楽しそうに見ていたセリア王女も、心配そうな顔でイリスを見つめている。


「まぁ、あの子も出場しますの? 大丈夫かしら」

「心配要らないよ。言っただろう? 盗賊を圧倒していたって」


 そんなイリスの対戦相手は、聖竜騎士団に所属している若手の騎士だった。


「君は武器を使わないのかい?」

「……いらない」

「そうか……。ははは、それにしてもやりにくいな。実はね、僕にも君くらいの歳の娘がいるんだ」

「?」


 イリスは青年の葛藤がよく分からないようで、かくんと首を傾けた。


「……だけど、聖竜騎士団としての矜持がある。勝たせてもらうよ」

「ん。まけない」






「おい、あれ見ろよ。Sランク冒険者のランスロットだぜ」

「マジか。じゃあ周りにいる女たちはパーティメンバー……くそ、美人ばっかり侍らせやがって」

「ああ、ランスロット様よ。いつ見てもかっこいいわ……」


(ふふ、試合中にもかかわらず、皆が僕に熱い視線を注いできているようだ。相変わらず罪な男だね)


 周囲の嫉妬や羨望の声を耳聡く拾いながら、ランスロットは出場者専用の観覧席から試合を見ていた。

 Sランク冒険者である彼は今大会の優勝候補の一角であり、注目度が高い。


「そしてこの僕が美しく優勝を決めれば、きっと彼女たちも僕に惚れ直すことだろう」

「聞こえてるんだけど?」

「惚れ直すも何も、惚れてないし」

「相変わらず気持ち悪いわね」


 パーティメンバーたちから辛辣な言葉を浴びせられるが、ランスロットは爽やかに髪の毛をかき上げた。


「ふっ、そう言っていられるのも今のうちだよ、マイハニーズ」

「一回戦第三試合を始めたいと思います!」


 どうやら一回戦の第二試合の決着がついたようだ。

 自分の世界に入り込んでいたランスロットは、ステージの方へと意識を戻した。


「第三試合か。勝った方が二回戦で僕と戦うわけだね」

「あら、あの子って確か……」

「リオン君にくっ付いてた獣人の女の子じゃない?」

「本当だわ」


 ステージに上がってきた出場者に、会場中が騒めいた。

 五歳くらいの幼女だったのだ。


 ランスロットも目を丸くする。


「まさか、彼女が出場者? この大会には年齢制限はなかったのかい?」

「でも本選に出てるってことは、予選を通過したってことじゃないの?」

「本当に? だとしたら凄いわね」

「対戦相手、さすがにやりにくそうね」


 相手は聖竜騎士団に属するという若手の騎士だった。

 聖竜騎士団は、王都を拠点としている王国最強の騎士団で、国内に数ある騎士団の中でも、ごく一部のエリートしか所属することができない。間違いなく相応の実力者だろう。


「もしあの子が勝ったら、次はランスロットと戦うのね」

「最近こいつ調子乗ってるし、ぜひ打ち負かして鼻をへし折ってもらいたいわ」

「それぜひ見てみたいわね。イリスちゃん、頑張って!」

「ははは、きっと僕でも苦戦しそうだ。可愛いレディーとなると、怪我をさせずに倒さないといけないからね」


 半分くらい本気の三人に対して、ランスロットは冗談として笑い飛ばす。

 しかし試合が始まるや、彼の笑みは完全に消え去ることになるのだった。



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