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第75話 ルール違反です

「「「な……?」」」


 複数人で一枠を争うという性質上、力を合わせて強い相手から倒す、というのはセオリーだろう。

 ステージ上の出場者たちの大半はアントニオが最も強敵と見て、一斉に襲いかかろうとしていたところだった。


 だがそんな彼らよりも先に、獣人の幼児が超人めいた速度で接近し、しかもアントニオの大柄な身体を吹き飛ばしてしまったのだ。

 信じがたい光景を目の当たりにし、目標を失った混乱から、彼らは時が止まったかのようにしばらくその場に硬直した。


「えい」

「がっ!?」

「「「っ! この子供……っ!」」」


 ようやく我に返ったのは、次の一人がアルクの攻撃を受けてからのことだ。


 ただの幼児ではないと判断し、彼らは警戒しながら素早くアルクを包囲。

 しかし、


「とあ」

「ぶごっ!?」

「てい」

「ぎゃっ!」

「ん」

「ぼはっ!?」


 アルクの動きにまったく付いていくことができず、一人また一人と攻撃を浴びて倒れていく。


「……よわい?」


 一方のアルクは小首を傾げた。

 相手は自分よりもずっと大人。しかも腕に覚えがある者たちばかりが集まる大会だと聞いていたので、もっと強いと思っていたのだ。


(あれ、おかしいな……?)


 それはステージ脇で見ていたリオンも同じだった。


(うーん、まだ予選の最初だからか? さすがにこの調子で勝ち上がっていくなんてことは……ないはず)


 気がつけばステージ上で立っているのはアルクだけになっていた。

 これで第一ブロックの予選トーナメント出場決定だ。


「マジかよ……あんな子供が勝ちやがったぜ」

「幼児にやられるとか、情けねぇ奴らだな」

「けどお前、あの動きについていけるか?」

「と、当然だろ」


 会場がざわつく中、アルクが戻ってくる。


「おわった」

「う、うん。頑張ったな」

「よわかった」


 あまりに早く決着がついてしまい不完全燃焼らしく、浮かない顔をしている。


「心配しなくてもそのうち強い相手と戦えるはずだ」

「ん!」

「…………たぶん」






 第一ブロックが四人に絞られると、続いて第二ブロックの予選へと移行した。

 アルクはしばらく待機である。


「がんばる」


 そしてすぐに第三ブロックの予選、すなわちイリスの出番が回ってきた。

 先ほどの一件があったからか、イリスがステージに上ると、会場がざわめき始めた。


「おい、あいつ確かさっきの獣人の餓鬼じゃねぇか?」

「いやよく見ろ。女の子だ」

「じゃあ、さっきの奴の兄妹か?」


 そんな中、鋭い眼光でイリスを睨みつけながら、ステージへと上がってくる男がいた。

 アルクに吹き飛ばされたアントニオの弟、オートニオだ。


「兄貴は油断して負けちまったが、俺はそう簡単にはいかねぇぜ」

「ん」

「てめぇをぶっ倒して、兄貴の仇を討ってやる」


 イリスに対して闘争心を剥き出しにするオートニオ。

 彼の武器は兄とは違い、刀身が二メートルはあろうかという大剣だ。


「それでは試合開始!」

「おらぁぁぁぁぁっ!」


 合図と同時、先ほどとは逆にオートニオの方から雄叫びとともにイリスへと躍りかかった。


 繰り出される豪快な斬撃。

 だがイリスはそれを完璧に見切り、身を屈めて回避して見せると、すぐさま反撃の拳をオートニオに見舞う。


「ぶっ!?」


 まともに顔面に喰らって、オートニオの顔が天を仰ぐ。

 一瞬白目を剥き、鼻からは血を噴き出していたが、気迫が勝ったのか、ダメージを受けながらもイリスの腕を片手で掴んでいた。


「へっ、捕まえたらこっちのもんだ――」


 次の瞬間、イリスは足をオートニオの太い腕に巻きつけていた。

 そのまま力を込めると、腕は逆方向に曲がっていき、


 ボキッ!


「~~~~~~~~~~~~っ!?」


 声にならない悲鳴。

 激痛に顔を歪めてよろめくオートニオ。

 イリスは容赦せず追撃する。


 ボコバコベコバコ。


「ひぃっ、もう、やめてくれっ! 俺の負けだ!」


 イリスに殴られ蹴られ、オートニオが敗北を宣言した。

 負けを認めるとその場で敗退が決まり、それ以上、攻撃してはならないルールだった。


「ん」


 イリスはそれをしっかり守り、すぐに他の対戦相手へと向かおうとしたのだが、


「――調子乗るんじゃねぇぞ、クソ餓鬼が」


 背中を向けた瞬間を狙い、敗退したはずのオートニオが大剣を振り上げた。

 観衆たちが息を呑む中、野太い刃がイリスへと振り下ろされる。


 ブンッ!


「……な?」


 オートニオの不意打ちは空を切った。

 イリスは背後を見ることもなく寸前で身を投げ出し、回避したのだ。


(獣人の勘の鋭さを侮ったらいけない)


 あれだけ強い殺気を出していれば、見ていなくても分かるというもの。

 万が一のときは割って入るつもりのリオンだったが、今のはまったくその必要を感じてはいなかった。


「オートニオ選手! ルール違反です! すぐにステージから降りてください!」

「う、うるせぇ! ここまでやられて大人しく引き下がってられるかよ!」


 スタッフが注意するも、オートニオは応じるどころか大剣を再び構え直す。

 しかしその後頭部に、どこからともなく飛んできた石が激突した。


「あ……?」


 そのまま気を失ってステージ上に倒れ込むオートニオ。

 スタッフたちが慌てて彼をステージから引きずり下ろした。


「傭兵なら引き際ぐらいちゃんと見極められないと」


 石を投げた張本人であるリオンは、気絶したオートニオが運ばれていくのを見送りながら呟くのだった。


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