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第71話 行かないとダメかな

 なぜか王太子直々に、王宮への招待状が届いた。

 しかしリオンはこの国の王太子と知り合いではない。

 それどころか名前すら知らなかったほどだ。


 勇者だった前世では王族と何度か会うこともあったが、今世では今のところそんな機会は一度もない。


「行かないとダメかな……?」


 正直なところ、まったく気が進まなかった。


「ダメに決まってるでしょ!?」


 リオンの呟きを聞いて、シルエが血相を変えた。


「そんなことされたら仲介した冒険者ギルドが王族から不興を買ってしまうわ!」

「手紙を渡そうとしたけど、すでに王都から離れていて、渡せなかったってことにしたらどうかな?」

「どれだけ嫌なの……。王宮に招待してもらえるなんて、とても名誉なことなのよ?」


 正直、リオンは名誉になどまったく興味がなかった。

 加えて、できるだけ権力者とは関わり合いたくない。

 それが王族ともなればなおさらだ。


「気が乗らないけど、仕方ないか」


 シルエに何度も説得され、リオンは嫌々ながらも王宮に出向くことにしたのだった。


「一体、何の用だろう?」


 まさか自分が勇者だと気づかれたなんてことはないはずだが。

 不安を覚えつつ王宮へ。


「待て。ここから先、市民の入場は禁じられているぞ」


 門を潜ろうとすると、衛兵に呼び止められた。

 招待状を見せる。


「こ、これは、確かに王太子殿下の……し、失礼した。しばしお待ちを」


 衛兵が慌てて中に入っていき、入れ替わりに官吏と思われる男性が出てきた。


「リオン様、お待ちしておりました。ご案内させていただきます」

「えっと、この子たちも一緒でいいかな?」

「はい、構いません」


 アルクとイリスを連れて、王宮内へと足を踏み入れる。

 質実剛健なセドリアの宮殿と違い、贅を尽くした豪華絢爛な建物だ。


 広々とした廊下を通って、やがて辿り着いたのは普通の家が何軒も収まりそうなほど広い部屋だった。


「よく来てくれたね」


 部屋で待っていた人物に、リオンは見覚えがあった。

 王都に来る道中で助けた青年だ。


「あのときは名乗れなくて申し訳ない。私がシリウス=ステアート。この国の王太子をしている」

「えっ」


 どこかの貴族だろうとは思っていたが、まさか王太子だったとは。

 戸惑うリオンに、シリウスは言う。


「ぜひ直々にあのときの礼をしたいと思ってね。わざわざ来てもらってすまない」

「い、いえ」

「畏まらないでくれ。君は私の命の恩人なんだから」


 そのときシリウスのすぐ横にいた少女が初めて口を開いた。


「とてもお若い方だとは聞いていましたけれど、まさかわたくしよりも年下だとは思いませんでしたわ」

「ああ、紹介するよ。彼女は私の妹のセリア=ステアートだ」

「ふふ、よろしくお願いしますわ、小さな勇者様」


 優雅に会釈する少女の年齢は、十五、六ほどだろうか。


「きれい……」


 イリスがぼそりと呟いた。


 確かにセリアは美しかった。

 美形ぞろいのエルフ族にも劣らない端正な顔立ち。

 しかし自然に生きる素朴なエルフたちと違い、彼女には人を惹きつける華やかな気品がある。


 兄のシリウスが自慢げに言った。


「そうだろう。お陰でこの国の諸侯ばかりか、他国の王侯貴族からも求婚が絶えないんだ」

「まぁ、お兄様ったら」


 王太子のシリウスも美形で、二人が微笑み合う様はなかなか絵になるものだった。

 田舎から出てきたリオンは知らなかったが、彼らは国民からも人気があった。


「それにしても可愛らしい子たち。獣人かしら?」


 セリアが声をかけると、アルクとイリスは慌ててリオンの後ろに隠れた。


「恥ずかしがり屋さんですわね」

「見た目は小さな子供だけど、こう見えてとても強いんだ。私の目の前で、大人の盗賊たちをいとも容易くやっつけていた」

「まぁそうですの?」


 褒められて嬉しかったのか、双子はリオンの後ろから少しだけ顔を出す。


「セバス、あれを」

「畏まりました」


 近くに控えていた執事らしき男性が、中身の詰まった袋を運んでくる。


「約束通り残りの報酬を支払おう」


 すべて金貨だとすれば、相当な金額になるはずだ。

 ただ、救ったのが王太子の命であることを考えるなら、相応と言えるかもしれない。

 リオンは素直に受け取っておくことにした。


 このまますんなり帰らせてくれると嬉しかったのだが、


「そろそろ昼食の時間だね。どうだい? よければ一緒に食事をしていかないかい? 君にはいろいろと訊きたいことがあるし」

「まぁ! それはいいですわ!」


 王族からそう提案されては、断れるはずもない。

 食いしん坊の双子が食事と聞いて目をキラキラさせ始めたとなれば、なおさらだ。






 何十人も一緒に座れそうなテーブルの上に、豪華な食事がずらりと並べられていく。

 この人数では食べきれそうにもない量だ。

 さすがは王宮の昼食である。


「さあ、好きなだけ食べてくれたまえ」

「「ん!」」


 シリウスが言い終わるが早いか、双子は勢いよく目の前の料理に飛びついた。

 ナイフとフォークなど使ったことがない彼らは、ほとんど手掴みである。


「こら、もうちょっと丁寧に食べるんだ。町の食堂じゃないんだから」


 慌てて注意するリオン。

 こんなことなら普段から最低限のテーブルマナーくらいは教えておくべきだったと、頭を抱えた。


「いや、マナーなんて気にする必要はないさ」

「それよりぜひたくさん食べてほしいですわ」


 しかしシリウスもセリアも眉を顰めることもなく、むしろ微笑ましいものを見る目を双子に向けていた。


 だがそのときだった。


「これは一体どういうことですかな? 神聖な王宮に汚らわしい獣の子を連れ込むとは」



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