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第70話 男にしか見えないんだが

「そうか。これならゼタを見つけられるかもしれないな」


 ふと思いついて、リオンはぽんと手を打つ。


「スーラ。ゼタのこと覚えているよな?」

『おぼえてるのー。たしか、こんなかんじー』


 スーラが身体をもにゅもにゅと動かし始めた。

 よく見ていると、どうやら人の形になりつつあるようだ。

 ゼタの姿になろうとしているらしい。


「凄いな。そんなこともできるのか」


 最近は触手を伸ばすだけではなく、星や剣、あるいは動物の形状を取ったりして遊ぶようになっており、随分と器用になってきていた。

 だがまさか人間にまで似せられるようになるとまでは思っていなかったのである。


『できたのー』


 そこに現れたのは、体重が百キロくらいありそうな太ったおばさんだった。

 少し目や鼻のバランスがおかしいのは御愛嬌だが、それを差し引いたとしても、悲しいかな、まったく似ていない。


「……もうちょっとすらっとしていたと思うぞ」

『あれー? じゃあ、こんなのー?』


 丸かった身体が細くなり、身長がぐいっと伸びた。

 そこに現れたのは針金のような不気味なおばさんである。


「そもそもゼタはおばさんじゃなくて、若い女性だぞ」

『うーん?』


 リオンは仕方なくゼタの似顔絵を描くことにした。

 ペンを紙に走らせることしばらく、やがて満足したように頷く。


「うん、こんな感じだな」

『あー、ぜたなのー』


 できあがった絵を見て、スーラがぷるぷると頷いている。

 双子が横から覗き込んだ。


「「だれ……?」」


 そこに描かれていたのは、人間かどうかも定かではない、謎の生き物だった。


「そういえば二人は会ったことなかったよな」

「「うん……」」


 こんな人間が本当にいるのだろうか、という顔になる双子。

 いたとしても絶対に会いたくないと思うのだった。


「これで探せそうだな」

『やってみるのー』

『まかせてなのー』

『れっつごーなのー』


 スーラが生み出した小さなベイビースーラたちが意気揚々と出発していく。

 それぞれ虫ほどのサイズで、数は全部で三百。

 これから都市中に散ってもらい、ゼタらしき人物を見つけたら念話を通じて連絡をくれるという手筈だった。


 待つこと数分。


『みつけたのー』


 早速、一体から発見の一報が届いた。


「すごい。もう見つかったのか。すぐ行くから少し待ってろ」

『はいなのー』


 リオンはすぐに駆けつけた。

 ベイビースーラがいたのは、大勢の人でごった返す市場だった。


『あのひとなのー』


 そう言って触手を指した先は、屋台で串焼きを売っている青年だった。


「ん? どれ?」

『あのひとー』

「……男にしか見えないんだが」

『あれー?』


 もちろんゼタではない。それどころか女性ですらなかった。

 似ているとすれば、長い髪を頭の後ろで纏めていることくらいだろう。もちろんゼタには髭など生えていない。


「ま、まぁ、こういうこともあるか」


 気を取り直して、次の報告を待つ。

 それから二分も経たないうちに、別のベイビースーラから『いたのー』という連絡がきた。


 今度はどうやら住宅街のようだった。

 ベイビースーラが一軒の住宅を触手で示している。


『はいっていったのー』

「ここに住んでいるのか」


 リオンは玄関のドアを叩いた。


「ゼタおね~ちゃ~ん!」


 しばらくすると、中から人が出てくる。

 不機嫌そうな顔をしたおばさんだった。


「誰だい、あんた? うちに何か用かい?」

「ええと……ここにゼタがいると聞いて……」

「ゼタ? そんな子はいないよ!」


 ガシャン!

 思い切りドアを閉められてしまった。


『あれー?』


 その後も次々とゼタを発見したという連絡がきた。

 だが実際に確かめてみると、どれも似ても似つかない人ばかり。

 酷いケースでは、人ですらなく、飲食店の店主が趣味で作り、店先に飾っていた謎の人形ということもあった。


「……うん、ダメだわ、これ」


 どうやらベイビースーラたちは人を見分ける力がまったくないらしい。

 ゼタの捜索はいったん諦めることになった。







「り、リオン君、大変よ!」


 その日、リオンが冒険者ギルドにやってくると、受付嬢のシルエが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「何かあったの?」

「実はあなた宛てに王――って、ここじゃ駄目ね。こっちいらっしゃい」


 どうやらあまり誰かに聞かれてはいけない内容らしい。

 シルエに個室へと案内された。


「これを見て」


 そう言ってシルエが差し出してきたのは、随分と立派な封筒だった。

 封蝋には紋章が刻まれていることから、差出人は貴族だろう。この国において紋章は貴族にしか利用することが許されていないのだ。


「さっき身なりのいい紳士がやってきて、あなたに渡してほしいって言ってきたのよ」

「確かに僕の名前が書いてある」


 封筒の宛名は「リオン」。

 どうやらリオン宛の手紙らしかった。


「どこの貴族だろう?」

「王家よ」

「え?」

「王家! この紋章は王家にしか使えないものなの! もしかしてリオン君、王家の方と知り合いなの?」


 シルエに詰め寄られて、リオンは首を振った。


「そんなはずないよ。だって王都に来たのだって初めてなんだし」

「じゃあこの手紙は何なのよ……」

「誰かと間違えているんじゃない?」

「そんなはずないわ。手紙を受け取る際に、ちゃんと特徴を確認したから。間違いなくあなたよ」


 どういうことだろうかと、リオンは首を傾げる。

 ともかく中身を読んでみれば何か分かるかもしれない。

 封を破り、中の手紙を広げてみた。


「ええと……手紙の主は……シリウス=ステアート?」

「って、それ王太子様じゃないのっ!?」


 さっと目を通したリオンは、その内容に顔を顰めたのだった。


「……王宮への招待状?」



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