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第65話 今日はほどほどでいいぞ

 シルエは言う。


「このオークたちのお尻を見てください。色が赤くなってますよね? これ、この繁殖期にしか見られない現象なんです。つまりこのオークたちが狩られたのは、繁殖期ということになります。ですが、ギルドでは繁殖期に入る前からこの森に見張りを付けていましたので、今年の繁殖期に狩られたものではないと考えられます。すると以前の繁殖期ということになりますが……たとえ高度な保存機能のあるアイテムボックスであっても、一年以上前の繁殖期に狩ったオークがこれほど新鮮な状態を保っていることはあり得ません」


 その説明が納得いくものだったため、他のギルド職員たちが頷く。


「確かに彼女の言う通りだ」

「このオークたちは間違いなく狩られたばかりだね」


(ん? 一年くらいなら新鮮なまま保存できると思うが……?)


 リオンはそう思ったが、言わない方が良いだろうと判断し、黙っておくことにした。


「だがよ、見張りって言っても、これだけ広い森だ。目を盗んでどこからか侵入したって可能性はあるんじゃねぇか?」

「だいたいギルド側がグルって可能性もあるだろうが」


 そう反論したのは冒険者たちだ。


「そこは我々を信じていただくしかないのですが……。嘘を吐くメリットもないと思いますし……」


 まだ王都のギルドに来て間もないこともあって自信がないのか、シルエの声のトーンが弱々しくなる。

 と、そこへランスロットが口を挟んだ。


「やめたまえ、彼女を責めるのは」


 そしてシルエに微笑みかける。


「君の言い分ももっともだよ。だから堂々としていればいい」

「ら、ランスロット様……」


 きらりと歯を輝かせるイケメンに、シルエはうっとりとした顔になる。

 冒険者たちが冷ややかな目になる中、ランスロットは周囲を見回しながら告げた。


「僕にいい考えがある。今日のこの結果についてはいったん、保留ということにしてはどうだろうか。そして明日、改めて少年の成果を見せてもらうんだ。もしインチキでなかったとすれば、きっと明日も同等の成果を上げることができるはずだろう?」


 その提案には多くの冒険者たちが同意した。


「もちろん、そのアイテムボックスは預けておいてもらうことになる。まだ中にオークが保存されていないとは限らないからね。それでどうだい、少年?」

「うん、僕はそれで構わないよ」


 リオンはすんなりと頷く。

 インチキ扱いされないようにしつつも、明日はもう少し狩る数を少なくしよう、具体的には三十体強ぐらいかな、と心の中で決めていた。


「……なるほど、自信はあるみたいだね」


 探るような目を向けてくるランスロット。

 そしてその日の狩りはお開きとなったが、去り際に青年は小声でリオンに忠告した。


「だけどどんなイカサマを使っても無駄だよ、次はね?」


 どうやらリオンのことを完全に疑っているらしかった。






 翌日、再びリオンは森の中にいた。


「「がんばる!」」

「いや、今日はほどほどでいいぞ。昨日かなり頑張ってくれたからな」

「「だいじょうぶ!」」


 双子はやる気満々だ。

 このままでは昨日以上の記録を出しかねないので、できるだけオークが少ない方向へとリオンはこっそり誘導することにした。


(……にしても、誰か付けてきてるな)


 リオンは森に入ったときから、自分たちの後を隠れて付いてきている存在を察知していた。

 双子は気づいていないようなので、かなりしっかり気配を消しているようだ。


 敵意は感じないので、とりあえず放っておくかと、リオンは判断する。


 それからリオンの誘導の甲斐あって、昨日よりも悪いペースでオークを狩っていく。

 これなら記録は三十体くらいに収まるだろう。

 ハイオークは何体か倒したが、ジェネラルオークはまだ現れておらず、質の方でもちょうどいい具合だった。


「「うー」」


 リオン的には思い通りなのだが、双子は昨日の記録に負けていることでストレスを感じているようだ。

 不満そうな唸り声が喉の奥から漏れている。


 と、そこでリオンは北北東の方向に多数のオークが集まっている気配を察した。


「少し西の方に行ってみるか」


 双子を別方向に誘導しようとする。

 だが二人は首を左右に振って、


「「あっち!」」


 北北東の方角へと走り出した。


(なぜ分かった? まだ二人の索敵範囲外のはず……いや、風か!)


 どうやら北北東から微かに風が吹いてきていたようだ。

 こちらが風下に当たるため、獣人の嗅覚によって、通常よりも遠くの匂いを感知することができたのだろう。


 仕方なくリオンは双子の後を追いかけた。

 オークは七体ほどの群れだ。

 これくらいなら数としてはそこまで危惧する心配はないが、問題はその中に強い気配があることだろう。


 ジェネラルオークか、あるいはそれ以上。

 もしキングオークだったとすれば最悪だ。


 それはもちろん危険だからではない。

 ジェネラルオークでもあの反応だったのだから、キングオークを討伐したとあっては、どれだけ驚かれてしまうことか。

 それが心配なだけだ。


 しかしリオンの不安を他所に、双子はすでにオークの群れとの交戦を始めていた。

 リオンは例のごとく身を隠してその様子を観察する。


(あれ? おかしいな?)


 最も強い気配を感じていた個体。

 キングオークだとすれば、ジェネラルオークよりさらに巨体であるはずだった。


 だがそこにいるのは、ハイオークと大差ない体格のオークである。

 違いがあるとすれば、通常のオークは緑色か、もしくは茶色をしているのだが、そのオークは青色をしていることだろう。


(なんだ、変異種か。キングオークじゃなくてよかったな)


 ()()()変異種だと、リオンは胸を撫でおろすのだった。


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