第64話 どんなイカサマを使ったんだい
「三百五十三キロ!?」
「う、嘘だろっ? ランスロットのオークを超えやがったぞ!?」
「ていうか、今どこから出てきたんだ!? まさかあんな子供がアイテムボックスを持ってんのかっ?」
驚きが広がる中、リオンはギルド職員の一人に尋ねられた。
「……これは本当に君が狩ってきたものなのかい?」
「え? もちろんそうだけど」
正確には双子が狩ったものだが、リオンは二人の主人なので間違いないだろう。
「し、質部門の現在の最高記録は三百五十三キロとなりました!」
ランスロットが頬を引き攣らせながらリオンに近づいてくる。
「少年、まさかジェネラルオークを討伐するなんて、やるじゃないか。本当に昔の僕みたいだ、うん。もちろん僕も君ぐらいの年齢のときにはジェネラルオークを倒せていたけれどね」
少し言っていることが変わっていたが、リオンは指摘しないでおいた。
「まぁ次の数部門では負けないよ? 所詮、良いオークを狩れるかどうかなんて運だからね。本当の実力はどれだけ〝多く〟の〝オーク〟を狩ったかだ。おっと、我ながらなかなか素晴らしいダジャレを思いついてしまったね。はっはっは!」
「?」
一人笑い出すランスロットに、リオンは首を傾げる。
(それはそうと、Sランク冒険者は参加していないのか? Sランクならキングオークをソロで倒せるらしいし、やっぱり今日はいないんだろうな)
それが目の前の青年だとは知らず、リオンはそんなことを考えていた。
「つ、続いて数部門に移りたいと思います! 最低基準は五体です! 五体以上のオークを狩ったぞという方、前へどうぞ!」
未だざわめきが収まらない中、次の部門の審査が始まった。
「ギデオルさんのパーティ、記録は七体! メンバーの数は四人です!」
「バッタロさんのパーティの記録は九体でした! メンバーの数は五人!」
「ライゼンさんのパーティの記録はなんと十一体! メンバーの数は四人でした!」
「これ以上のパーティはいらっしゃいませんか?」
他に名乗り出る者がいなくなると、冒険者たちの注目はやはりランスロットのパーティへ。
「四人で十一体か。なかなかの数だね」
そんなことを言いつつ、彼らは次々と刈ったばかりのオークを運んでいく。
十体を超えてもまだ終わらない。
「な、なんと二十三体! ランスロットさんのパーティの記録は二十三体です! メンバーの数は四人!」
他の追随を許さない成果に、冒険者たちが感嘆の声を漏らす。
「すげぇ、さすがSランクだ」
「たった四人で二十三体……驚異的だな。しかも一体のジェネラルオークに加えて、半分近くがハイオークだ」
「これを超える奴なんていねぇよ」
「いや、まだ分からねぇぞ。さっきの小僧が……」
「ばーか、あれは間違いなく大物狙いだ。数は大したことねぇって」
口々に予想する中、リオンは前に出る。
職員が戦々恐々として訊ねた。
「まさか君、討伐数が二十三体を超えているとか言わないよね……?」
「え? うん、そうだけど」
リオンはアイテムボックスからオークを出していく。
次々と積み上がっていく大量のオークに、誰もが唖然とした。
さすがに三十体を超えたところで、リオンもその空気を察したらしく、
(あれ? 全部で五十八体いるんだけど、ちょっと多過ぎるかな?)
そう考えて三十五体でやめておくことにした。
「さ、三十五体……っ!? 記録は三十五体ですっ! メンバーの数は、えっと……」
だがオークを狩った張本人である双子が不満そうに抗議してくる。
「「もっとたおした!」」
二人はまだ五歳だ。
自分たちの成果を自慢したい気持ちがあるのだろうし、多過ぎると困るのだと説明したところでピンとこないに違いない。
「ま、まだいるよ」
ふんすー、と鼻息荒く主張する二人に、仕方なくリオンは残りのオークも取り出す。
「ご、五十八体です!?」
冒険者たちのどよめきが起こる。
「五十八体だと……? たった数時間だぞ?」
「しかもこっちもかなりの数のハイオークを狩ってりぞ」
「あのランスロットのパーティに、質でも数でも勝ちやがったのか!?」
「とんでもねぇ奴が現れたな!」
そんな中、先ほどまでの余裕の表情が崩れていたのは、ランスロットである。
「っ……あ、あり得ない!」
突然、彼は大きな声で叫んだ。
「ジェネラルオークを倒しながら、なおかつこれだけのオークを倒しただって? しかもそんな幼児を連れて? さすがにそんな真似、君ぐらいの子供にできるはずがないだろう!」
ランスロットがリオンに詰め寄る。
「怒らないから教えたまえ。一体、どんなイカサマを使ったんだい? いや、聞かなくても分かる。きっと元からそのアイテムボックスの中にオークが入っていたのだろう。あれだけの数が入るなんて、随分と高性能だね。普通の冒険者では手に入らないレベルだ。そう考えると、君はきっと大きな後ろ盾を持っているのだと推測することができる。きっとその後ろ盾の協力を受けて、あらかじめオークを狩って入れておいたのだろう。最初からおかしいと思っていたんだ。やっぱり君のような子供がジェネラルオークを狩れるはずがない」
淀みなく告げられたその推理に、冒険者たちが納得したように頷いていく。
「なるほど、確かにそう考えると筋が通るな」
「なんだ、ただのインチキか。おかしいと思ったぜ」
「こんなに簡単に看破するなんて、さすがSランクだな」
イカサマ扱いされて、頬を膨らませて不満を露にするアルクとイリス。
リオンは二人が暴発しないよう、どうにか宥めようとしたとき、
「ええと……ちょっといいでしょうか?」
おずおずと手を上げたのは、他の職員たちに交じって運営のスタッフをしていたシルエだった。
「今の推理、間違っているかと……」