第63話 これより品評会を開始します
アルクの小さな身体が吹き飛んだ。
だが隠れて見ていたリオンはまったく慌てない。
ジェネラルオークの突進を受ける寸前、アルクが自分から後方に飛んで威力を殺したのが分かったからだ。
アルクは空中でくるりと回転すると、木の幹に足から着地する。
そして幹を蹴って、ジェネラルオークの顔面目がけて飛んでいった。
「えい」
「ブゥッ!?」
アルクの飛び蹴りを鼻面に食らい、ジェネラルオークの巨体があろうことかひっくり返った。
天を仰いだ後、後頭部から地面に落下する。
ジェネラルオークは完全に白目を剥いていた。
アルクは手早くトドメを刺す。
そのときにはイリスもオーク四体を倒していた。
「自分も大きなオークと戦いたかったな」という顔でアルクの傍に駆け寄ってくる。
「二人ともお疲れさん。悪くなかったな」
双子を労いながらリオンが姿を現す。
特にステータスに頼り切った戦い方から、ちゃんと技や駆け引きを使って戦えるようになってきた点が評価できた。
「ただ、アルクは少し油断があったな。ちゃんとジェネラルオークには警戒しておかないと。あれがもしレッドドラゴンだったら致命傷だったぞ」
「……ん」
神妙に頷くアルク。
レッドドラゴンを五歳児が相手すること自体が異常なのだが、もちろん彼らはそのことに気づいていない。
「イリスは四体に囲まれて苦戦していたが、相手が多いときは位置取りに注意することだ。上手くやればたとえ一対多数であっても、一対一に持ち込むことができる」
「ん!」
はっとしたような顔で頷くイリス。
多数のオークを五歳児が相手に――以下略。
その後も順調にオーク狩りを進めていくリオン一行。
もし彼らの戦いぶりを他の冒険者パーティが見ていたら、驚愕を通り越してこれは夢だと思うに違いない。
「む、そろそろ時間か」
安全のため、狩りは一日三時間までと決まっていた。
五十体を軽く超えるオークの死体をアイテムボックスに詰め込んで、リオンたちはいったん森の入り口にある広場へと戻っていった。
「それではこれより品評会を開始します!」
広場にギルド職員のよく通る声が響いた。
騒がしかった冒険者たちが一斉に静かになり、注目する。
冒険者たちが狩ってきたオークの数や質を競い合う品評会は、オーク狩りを盛り上げるために考案されたイベントの一つだ。
以前は質を評価するだけだったが、現在は数を評価する部門が新設されている。
今日と明日の二日間の記録で競われ、参加はパーティ単位だ。
ただし一人でも構わない。
成績は、数の部門においては討伐数を人数で割った数となるが、質の部門では人数による調整はない。
二つの部門でそれぞれ優勝を決め、さらに両方の実績を踏まえた総合優勝が定められる。
優勝すれば冒険者として大きな名誉であることはもちろん、特別報酬が与えられることになっていた。
「まずは質部門からです! 体長二メートル前後のオークを狩ったぞという方、こちらへどうぞ!」
何人かの冒険者たちが、意気揚々とオークを運んでいく。
それを職員たちが秤に乗せて計測していった。
評価基準は重量だ。
「ガッツさんのパーティの記録! 一百三十三キロ!」
「ババロアさんのパーティの記録! 一百四十五キロ!」
「ロッテリさんのパーティ、なんとハイオークを狩っていました! その記録は……に、二百十二キロですっ!」
「ゼットさんのパーティも大きい! こちらも間違いなくハイオークです! 記録は……惜しい! 二百五キロ! 僅かに及ばず!」
「今のところ最大は二百十二キロです! これを超えるオークを狩ったという方、いらっしゃいませんか!?」
そこへ満を持して現れたのは、Sランク冒険者のランスロットが率いるパーティだった。
「二百十二キロのハイオークを狩るなんて、なかなかやるじゃないか」
彼が荷車に乗せて運んでいるのは、それまでのオークとは一回りも二回りも大きな個体だった。
冒険者たちが騒めく。
「おい、あれってジェネラルオークじゃねぇか!?」
「マジかよ。俺、毎年参加してるけど初めて見たぞ」
職員たちが力を合わせて持ち上げようとするが、まったく上がらない。
見かねてランスロットのパーティの一人が手を貸した。
一見すると普通の女性なのだが、軽々とジェネラルオークの巨体を持ち上げて秤の上に乗せる。
「さ、三百四十一キロ!? ランスロットさんのパーティの記録は三百四十一キロでした!」
その重さが告げられると、冒険者たちがどよめいた。
「ほ、他にこれを超えるオークを狩ったという方はいらっしゃらないでしょうか?」
「いるわけねぇだろ」
「質部門はあいつが優勝で決まりだな」
と、そこへリオンが前に出た。
「ここに出せばいい?」
「え? あ、はい」
職員が頷くのを確認してから、リオンはアイテムボックスの中に入れておいた戦利品を秤の上へ出した。
子供が何をやってんだという顔をしていた冒険者たちが、それを見て一斉に瞠目した。
「「「はぁっ!?」」」
リオンが秤の上に置いたオークは、先ほどのランスロットたちのものとまったく遜色ない大きさだったのだ。
「じぇ、ジェネラルオークだとっ!?」
「まさかあいつが狩ってきたのか!?」
冒険者たちが驚愕する中、職員が秤の数値を読み取る。
そしてとんでもない記録を口にするのだった。
「さ、三百五十三キロです! 先ほどの記録が三百四十一キロでしたので、それを上回っています!」





