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第62話 はち、おいしいのー

 オーク狩りが解禁され、冒険者たちが我先にと森の中へ入っていく。

 普段は禁止されているが、この時ばかりは幾らでも狩り放題ということで、冒険者たちは血眼になってオークを探している。


 無論、オークとて簡単に狩られてやる気はない。

 しかも繁殖中の気が立っている時期ということもあり、普段より狂暴だ。

 Cランク以上という条件があっても、毎年、冒険者側にも死者や怪我人が出てしまうほどだ。


 冒険者ギルドは「自分たちの実力を過信して森の奥まで行かないように」と、今年は再三にわたって参加者たちに呼びかけていた。


 そんなギルドの忠告を他所に、リオンは双子とともに森の奥へ奥へと分け入っていく。

 深いところの方が効率よくオークを狩れるためだ。


「「いた」」


 早速、双子がオークを発見する。

 もちろんリオンはとっくに見つけていたのだが、訓練のため二人に探させていたのである。


 嗅覚に優れた獣人だけあって探知の才能は高い。

 それでも経験を積んでいく必要がある。何の魔物なのか、どの程度の強さなのか、といった情報を得られるようになるまでには、訓練が必要なのだ。


「よし、まずはアルクからだ」

「ん」


 いつもは双子セットで戦っていたが、必ずしも二対一に持ち込めるとは限らない。

 リオンは時々、彼らに一人ずつ戦わせるようにしていた。


「えい」

「~~~~ッ!?」


 アルクは気配を消して背後から近づくと、背中に飛びついて首を一捻り。

 オークは悲鳴を上げることもできずに倒れた。


 相手がこちらに気づいていないときに、わざわざ存在を知らせてから戦う必要はない。

 今のように気づかれないまま命を狩ることも大事だと、リオンは普段から双子に言い聞かせていた。

 アルクはそれを素直に実行したのである。


「よくやった。偉いぞ」

「ん!」


 頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるアルク。

 それを羨ましそうに見ながら、イリスは「自分もやるぞ」という顔をしていた。


 その後、リオンが手を貸さなくても、双子は順調に狩りを進めていった。

 ……順調どころか、実は参加している冒険者たちの中で断トツの討伐数なのだが、それはひとまず置いておくとしよう。


 一方、スーラはというと、


『りおーん、とれたのー』


 木の枝から枝へとぴょんぴょん飛び移りながら戻ってきたその頭には、大きな蜂の巣が乗っかっていた。


 蜂といっても、キラービーという魔物だ。

 その蜂蜜は高級品として知られ、濃厚な甘さに病みつきになった貴族が、借金してまで買い続けた結果、破綻してしまった逸話があるほど。


 キラービーは自ら人間を襲ったりはしないものの、巣に近づく敵には容赦がなく、前世でも蜂蜜を入手できる冒険者は希少だった。

 当然、今の世界にはほぼ皆無。

 そのため森のあちこちに立派な巣があったので、これ幸いとリオンはその回収をスーラに任せたのである。


 物理攻撃への耐性が強く、さらに毒がほとんど効かないスライムには最適な仕事だ。

 キラービーはスーラの餌にもなる。


『はち、おいしいのー』

「蜂蜜の方が美味しいけどな」


 これを使って後でパイでも焼こうと考えるリオンだった。


 ちなみにクラスⅡの【従魔将ハイテイマー】を取得したことで、幾つか能力に変化があったのだが、一番大きいのは従魔と離れた場所にいても意思の疎通が可能になったことだろう。

 念話スキルである。

 これによりスーラに森の中を自由にさせても状況が理解できるし、たとえ双子が迷子になっても心配ない。


「「っ!」」


 双子が急に足を止めて警戒するように体勢を低くした。


「よく気づいた。五十メートル先にオークの集団がいるな」


 数は十二。

 その中にはやや強い気配もあるが、今のアルクとイリスなら大丈夫だろうと判断する。

 万が一のときは加勢に入ればいい。


「二人だけでやってみろ」

「「……ん!」」


 双子は気配を消して近づいていく。

 向こうの方が数で勝るため、強襲することで有利に進めようというのだ。


 そしてまずはアルクが茂みから飛び出した。


 正面にいたオークの首を捻って倒すと、すぐ次の一体に飛びかかる。

 そして二体目までは簡単に片づけることができたが、そのときにはオークたちも戦闘態勢を整えていた。


 だが彼らの注目がすべてアルクに向かっているその隙をついて、反対側からイリスが襲い掛かった。

 こちらも一体目、二体目までは難なくオークを仕留めることができた。


「「「ブフィッ!」」」


 一気に仲間を四体も減らされて憤るオークたち。

 二手に分かれ、小さな乱入者たちに躍りかかった。


 アルクが三体を、イリスが四体を相手取ることになった。

 残る一体――先ほどリオンがやや強い気配と称したオークだ――は三人目の襲撃者に警戒し、周囲を見回している。

 事実、すぐ近くにはリオンがいたのだが、今のところ彼は動く気はなかった。


「ブヒッ!」

「んっ!」


 アルクの相手取った三体のうちの一体は、通常種よりも体格がいい。

 それもそのはず、ただのオークではなく、ハイオークだった。


 Bランク冒険者でも苦戦するのがオークの上位種であるハイオークだ。

 だがアルクは過去に幾度か戦った経験があり、倒せない相手ではない。


 オークたちの攻撃を俊敏な動きで回避しつつ、急所を狙った的確な打撃を与えていく。

 以前はステータスに任せた大振りな一撃ばかりで、複数を相手取る際には隙が大きく危険だったのだが、この戦い方ならその心配はない。

 リオンの指導の賜物だ。


「ブヒィ!?」


 オーク二体に加え、ハイオークが地面に崩れ落ちる。


 アルクが視線を向けると、オーク二体とハイオーク二体を相手に双子の片割れは苦戦しているところだった。

 すぐに加勢に向かおうとしたところで、そこへ残っていた一体が突っ込んでくる。


「ブフゥゥゥゥゥッ!」


 憤怒の鼻声を鳴らすそのオークは、実はハイオークのさらに上位種――ジェネラルオークと呼ばれる個体だった。


 ジェネラルオークの突進を食らい、アルクの小さな身体が吹き飛ばされた。



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