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第61話 まるで昔の僕のようだ

 ようやく有力情報をゲットできたと思いきや、


「ああ、だけど思い出せないや……。確かに聞いたことは間違いないと思うんだけど。どこでだったかなぁ……?」


 どうも記憶が曖昧らしい。


「悪いね」

「いえ」


 どうしても思い出してもらえず、結局、何の情報も得ることができなかった。

 シルエのところに戻る。


「私も注意しておくから、何か分かったら教えてあげるわ」

「うん、助かるよ」


 ひとまずゼタを探すのは置いておいて、リオンは依頼を受けることにした。


「リオン君、Cランクになったのね? だったらこれに参加できそうね」


 そう言ってシルエが提示してきたのは次のような依頼だった。


【オークの森のオーク狩り 依頼ランクB】

 毎年恒例のオーク狩りです。この時期に大量繁殖するオークは、不足した食糧を補うため周辺の村々を襲います。オークの数を減らすことで、そうした被害を減らすことが目的です。

 期間:二日。

 参加条件:最低でも通常種のオークを狩れるパーティであること。ギルドランクC以上。

 報酬:成果に応じて。


「書いてある通り、この時期に冒険者たちが一斉に森に入ってオーク狩りを行うのよ。オークは食肉としての価値も高いし、報酬も美味しいわ。だから大人気の依頼で、この時のためにわざわざ他国から一流の冒険者がやってくるほどよ」

「「じゅるり」」


 シルエの話を聞きながら、双子が涎を啜っていた。

 オーク肉はリオンもよく野営中の調理に使っており、二人の大好物なのだ。


「特に今年はSランク冒険者のパーティが参加するから、リオン君も間近で彼らを見れるチャンスよ!」


 シルエはどこか興奮した様子で言う。


「……超イケメンだって噂だし……どんな方なのか今から楽しみね……あわよくばお近づきになって玉の輿を……」

「シルエお姉ちゃん?」

「な、何でもないわ、うん。リオン君もあと五年もすれば、きっとSランクになれるはずよ。ところで年上のお姉さんは好きかしら?」

「……参加するから登録をお願い」








 オークの森は、王都から数キロほど西に行った辺りにあった。

 それほど大きな森ではなく、広さはせいぜい王都の半分くらい。

 一帯は小さな丘になっていることもあり、遠くから見ると平皿のようにこんもりとした形状をしていた。


 オーク肉の需要が高いこともあって、普段は国から特別な許可を得た者を除いて、森に入っての狩りが禁止されている。

 普通の冒険者がオークを狩ることができるのは、森から出てきて、周辺の村々に被害を与えるようになった個体だけだ。


 だがオークの繁殖期はその限りではない。

 オークと戦える力のある冒険者のみだが、この二日間は森に立ち入ってのオーク狩りが許されていた。


 今日はその初日。

 森の近くにある広場に大勢の冒険者たちが集まっていた。


 ランクC以上という条件があるというのに、ざっと百人以上はいる。

 王都だからこそのこの人数だろう。


 その中にはもちろん獣人の幼児とスライムをリオンの姿もあった。

 訝しげな視線を注がれる中、気にせず解禁の瞬間を待っている。


「へっ、今年こそはオークを一人で狩ってやるぜ」

「お前の実力じゃ無理だって。いつも通りソロ同士で臨時パーティを組んでろよ」

「んだとっ?」

「そこ、喧嘩しないでください!」


 荒くれの冒険者たちがこれだけ集まれば、大人しくしているわけがない。

 あちこちで冒険者同士のいざこざが発生し、ギルドの職員が仲裁に入っていた。


 と、そのときひと際大きなざわめきが起こった。

 何だろうとリオンが視線を向けてみると、他の冒険者たちの視線を集める一団があった。


「ふっ、やはりこの僕の美しい見た目はどこに行っても注目されてしまうようだ」


 男にしては長い金髪を慣れた手つきでかき上げながら、そんな言葉を吐く青年。

 恐らく特注品なのだろう、デザイン性の高い華やかな装備の数々を身に着け、周囲の武骨な冒険者たちと比べると明らかに浮いている。


 彼が引き連れているメンバーたちも目立っていた。

 男所帯のパーティが多い中、青年を除く三人が女性冒険者なのだ。

 しかも三人ともギルドの受付嬢顔負けの美人であり、冒険者たちの目が釘づけになっている。


「何だあの気障ったらしい野郎は……」

「おい、やめとけ。あいつだ。あいつがSランク冒険者のランスロットだぜ」

「マジか」

「強い上に美人ばっか連れてやがるとか……羨ましい……」


 周囲のひそひそ話を拾うに、どうやらあの青年がシルエの話していたSランク冒険者らしい。

 つまり今の世の中ではトップクラスの実力と実績を持ち、誰もが憧れ、怖れる存在だ。

 最初は青年の言動にイラついていた冒険者たちも、「自分とは違う世界の人間」と理解したようで、羨望の眼差しへと変わっていた。


「ん? まさか彼らもオーク狩りの参加者なのかい?」


 そんな青年もまた、とある一団に目を止めた。

 十歳かそこらの頭にスライムを乗せた少年と、それよりさらに幼い獣人が二人。

 そう、リオンたちだ。


「ふふ、ダメじゃないか、君たち。ここは君たちがくるような場所じゃないよ。早く村に帰りなさい」


 近隣の村の子供たちが迷い込んだとでも思ったのか、青年が声をかけてくる。


 リオンはギルド証を見せた。

 言葉で伝えるよりその方が早いと思ったからだ。


「へえ? その歳でCランク冒険者なのかい! すごいねぇ! まるで昔の僕のようだ!」


 青年は周りに聞かせるような大きさで、高らかに語り出した。


「僕もキミぐらいの頃、いや、もう少し小さな頃だったかもしれないけれど、同じような時期に初めてオークを倒したんだ! そして自信を深めた僕は、そこから冒険者の階級ランクを駆けあがっていった! その結果が今の僕さ! キミも頑張ればいずれ僕のようになれるかもしれないね! ぜひ頑張ってくれたまえ!」


 そして満足そうに去っていく。

 その背中を見送りながら、随分とナルシストだなとリオンは思った。


(そう言えばSランク冒険者がいるって言ってたっけ? どこにいるのかな?)


 彼こそがそのSランクであることに、リオンは気づいていないのだった。


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