第60話 久しぶりね
その後は何事もなくリオンは王都に辿り着いた。
城門のところで衛兵に野盗を預けてから中に入る。
……いきなり陸を走る船で現れたかと思うと、野盗を捕まえたなどと言って気絶した男たちを門の前に高々と積み上げた謎の少年に、衛兵たちが目を丸くしたのは言うまでもない。
そんな周囲の驚愕になど気にも留めず、リオンは双子を連れて大都市を歩く。
「おおー、凄い活気だな。百年前より人口が増えてる気がする」
当時は王都と言えど、魔王の影響でどこも葬式のような空気だった。
今は人の行き来も増え、都会に出てくる者も多いのだろう。
最初に向かったのはやはり冒険者ギルドである。
冒険者たちの拠点の移動は自由なのだが、新たな街に来たときはそこにあるギルドに一度顔を出すことが推奨されていた。
ゼタの居場所を探すにしても、情報が集まってくる冒険者ギルドは最適だ。
王都のギルドは百年前と同じ場所にあった。
補修はされたようだが、ほとんど変わっていない。
歴史のある建物なので、なるべく昔の姿を損なわないように配慮しているのかもしれない。
ギルド内は大勢の冒険者たちで賑わっていた。
いかにも新人といった者たちから、熟練の強者まで。
王都だけあって依頼の数も種類も多く、それゆえ様々な冒険者が集まってくるのである。
そんな中にあって、やはり子供だけのリオンたちは目立つようだ。
相変わらず注目を集めてしまうが、リオンはまったく気にせず受付へと歩いていく。
「いらっしゃいませ。本日はどんなご用かしら――って、リオン君じゃない!」
「あれ?」
窓口の向こうに座っていたのは見知った人物だった。
「シルエお姉ちゃん?」
「そうよ! 久しぶりね!」
「何で王都に?」
シルエはバダッカの冒険者ギルドの受付嬢だったはずだ。
リオンが冒険者登録する際に担当してくれ、その後もバダッカにいる間はよく世話になっていた。
「転勤してきたのよ。あそこの最大の稼ぎ場所だったダンジョンが無くなっちゃったから。しばらくは持つだろうけど、早めに見切りをつけた方がいいと思って」
「……」
ダンジョンが無くなったのはリオンがボスを倒してしまったからである。
微妙な顔で頷くのだった。
「で、せっかくだし、王都に挑戦してみようかなって思ったの。ちょうど空きが出たところだったみたいで、募集をかけていたから」
当然ながら王都の方がバダッカよりも受付嬢に求められる基準が厳しい。
シルエはバダッカのギルドでも一、二を争うほど人気の受付嬢だったが、合格できるかどうかは五分といったところだろう。
それでも彼女は見事に採用を勝ち取り、現在は冒険者たちからの評判も上々だった。
「そうなんだー。さすがだねー、お姉ちゃん」
そう相手を称賛しながらも、リオンの目は少し泳いでいた。
「ふふふ、結果的にはダンジョンを攻略してくれたリオン君のお陰ね」
「いやいや、あれはたまたまボスが襲ってきて――え?」
シルエの目がキランと光った気がした。
「やっぱり君だったのね」
「ナンノコトカナ?」
「誤魔化さないで。ていうか、下手過ぎ」
「へた……」
リオンは少しショックを受けた。
実は自分では上手く誤魔化せているつもりだったのだ。
「バダッカのギルド長が必死になって攻略者を探してたわよ? 名乗り出たら間違いなく高額な報酬をもらえるわ」
「ナンノ話カ分カラナイナー?」
「もう誤魔化したって無駄だって」
シルエは呆れ顔でツッコむ。
リオンはうーんと小さく唸って、
「仮に――あくまで仮にだけど、もし僕が攻略してたのだとしても、きっと誰も信じてくれないよ。証拠なんてないしね」
実際にはファフニールの骨の一部やダンジョン深層でしか手に入らない素材をアイテムボックス内に保存しているので、それらが証拠として効力を持つ可能性が高い。
だがリオンは元より名乗り出るつもりなどないのだった。
「ふうん。まぁリオン君の好きにすればいいとは思うけど……。そういう変わり者の冒険者も珍しくないし。……それで、今日は何の用かしら? 依頼を探しているの?」
「それもあるけど、その前に人を探してて」
「人?」
「うん。ゼタっていう鍛冶職人のお姉ちゃんなんだけど」
「聞いたことあるわね。自分でダンジョンに潜って素材を採りにいく凄腕だとか、剣を打つ相手を選ぶ偏屈だとかで有名な人じゃない」
彼女もバダッカにいたため、面識こそないが何度か話題を耳にしたことがあるという。
「王都に移転してきたみたいなんだけど、どこにいるか知らないかなと思って」
「う~ん、悪いけど私には分からないわね。きっと冒険者の方が詳しいと思うわ。武器は彼らにとって命を守る商売道具だし、力のある鍛冶職人の情報には敏感なはずよ」
そしてギルド内にいる何人かの冒険者を指さしつつ、「あの人なら分かるかも」と教えてくれた。
「ありがとう、お姉ちゃん。とりあえず全員に訊いてみるよ」
リオンは礼を言って、順番にその冒険者たちに当たっていった。
意外にも誰一人として嫌な顔をせず親切に教えてくれた。
恐らくリオンのような子供が急に声をかけても、ちゃんと応じてくれるような冒険者をシルエが選んでくれたからだろう。
しかし生憎となかなか知っている人が現れない。
本当に王都に来ているのだろうかと不安になっていると、最後の一人が今までと違う反応を示した。
「ゼタ? つい最近、どこかで聞いたことある気がするな……」
 





