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第56話 どうにか撒いたようだな

 リオンは塔の上階から飛び降りた。


「「ぎゃあああああああああああああっ!?」」


 フィーリアとミーナの悲鳴が大空に響き渡る。


「「~~っ!」」


 双子もリオンの腰にしがみつきながら恐怖のあまり目を瞑った。


「な、何をやっているんだ!? 死ぬ気か!?」

「ああ……こんなことなら貯め込んだお金で豪遊しておくべきだったわ……」


 フィーリアが非難の声を上げ、ミーナは死を覚悟して後悔の言葉を吐く。

 しかし当のリオンは至って平然とした様子で、


「心配しなくていいよ。これくらいの高さならどうにかなる」


 そう言っている間にもぐんぐん速度が増し、地上が猛スピードで近づいてきている。

 このまま叩きつけられたら普通の人間は即死するだろう。


 だが地上まであと数メートルに迫ったところで、急激に減速。

 そして何事もなかったかのように、リオンはゆっくりと地面に着地した。

 先ほども用いた重力魔法を使ったのである。


「た、助かった、のか……?」

「……ちょっと漏れちゃったんだけど……」


 抱えていた二人を下ろしてやると、腰が抜けたのか、へなへなとその場にへたり込む。

 目を開けた双子は、「どうして助かったんだろう」というふうに顔を見合わせていた。


「それにしても……リオン殿、一体貴殿は何者なんだ……? 先ほど、メルテラが何かを言いかけていたが……。私の聞き間違いでなければ、勇――」

「あ~っ! 大事な用事を思い出した!」


 リオンはいきなり声を張り上げ、フィーリアの言葉を遮った。


「すぐに帰らなくちゃ! フィーリアお姉ちゃん! 色々とありがとう! じゃあ僕たちはそろそろ行くね!」


 そしてどこか棒読み気味にそれだけ告げると、双子を小脇に抱えて走り出す。


「リオン殿!? 待ってくれ! まだ訊きたいことが……っ!」


 慌てて呼び止めようとするも、その姿はすでに百メートル先だ。

 そのあまりの猛スピードに、あっという間に見えなくなってしまった。


「……一体、何だったんだ……?」


 と、そこへエルフたちが駆け寄ってくる。

 フィーリアたちが塔の上から落ちてきたことに気づいたのだろう、随分と慌てた様子だ。


「フィーリア様!?」

「ご、ご無事でございますか!?」


 フィーリアはどうにか立ち上がると、「心配ない」と告げる。


「すぐに兄上にお伝えせねば……」


 そして塔内で起こった出来事を報告しようと、王宮の方へ歩き出そうとしたところで、ふと気がつく。


「っ……あの盗人の女は……?」


 すぐそこで腰を抜かしていたはずのミーナの姿がなくなっていたのだ。


「くっ! ドサクサに紛れて逃げたか……っ!」







 一方、リオンはそのままセドリアの街を出て、街道を走っていた。

 すれ違った人たちが、幼児を抱えて信じられない速さで疾走する少年に目を丸くしているが、今は一刻も早く遠くに逃げることが優先だろう。


(たぶん魔力で気づかれただろうな。どう考えてもやばい奴っぽいし、関わり合いになりたくない)


 そんなことを考えながら駆けていると、頭の上でスーラがぷるぷると震えた。


『りおーん、さっきはありがとなのー』

「いや、むしろ悪かったよ。あいつの強さを完全に測り間違えてた」


 魔法使いなので、身体の強度はたかが知れていると思っていたのだ。

 だがスーラの突進、それも不意打ちにもかかわらず、あのダメージ。

 明らかに異常だ。


『でもたすけてくれたのー』

「当然だろう。スーラは僕の大切な仲間なんだから」

『なかまなのー』


 スーラは嬉しそうにぶるんぶるんと身体を揺らしている。


(……けど、それで分かった。あの身体は――)


 と、そのとき双子が急に慌て出した。

 後ろ向きに抱えてしまったので、二人の顔はリオンの背中の方を向いているのだが、どうやら後方に何かが見えたらしい。


「「ふね!」」

「船?」


 振り返ったリオンはそれを目撃する。


 確かに、船だ。

 帆はなく、流線型の船体だけ。

 しかしそれが大地を滑走し、リオンたちを追いかけてくるのだ。


「待~つ~の~じゃ~~~~っ!」


 そして船の上にはあのエルフの少女が乗っていた。


 恐らく地面を土魔法で操作することで推進力を得ているのだろうが、かなり速い。

 リオンは全力に近い速度で走っているというのに、見る見るうちに近づいてくる。


「くっ……サンドウォール!」


 リオンは船の接近を阻もうと土の壁を作り出す。

 だが船が激突する前に壁が爆発し、その向こうから無傷の船が走ってくる。


 こと土魔法に関してはリオンを凌駕している。

 そう確信したリオンは、別の魔法で足止めを試みることにした。


「トルネード」


 リオンの背後に発生したのは猛烈な勢いの竜巻だ。


「ぬおおおっ!?」


 船が巻き上げられて空を舞う。

 その上に乗っていた小柄なエルフもまた天高くへ飛んでいった。








「……どうにか撒いたようだな」


 小さな林の中に身を潜めながら、リオンは呟いた。

 竜巻で吹き飛ばした後も、しつこく追いかけてきたエルフだったが、ようやくその姿が見えなくなっていた。


 だがあの異様な執念だ。

 下手に動いては再び発見されかねない。


 そう判断したリオンは、とある超高難度魔法を使うことにした。

 それは一瞬にして遠く離れた場所まで移動する魔法――すなわち転移魔法だ。


 移動先をあらかじめマーキングしておく必要があるのと、発動する際にもかなり入念な準備がいるが、非常に便利な魔法である。


「バダッカに行こう。前のが壊れちゃったし、新しい剣を打ってもらわないとね。こんなこともあろうかと思って、あのお姉ちゃんの工房にこっそりマーキングしておいてよかった」


 ……もし当人が知ったら卒倒することだろう。



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