表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/186

第53話 バカなのかな

 リオンの必殺の一撃によって、ゴーレムは完全に消失していた。

 動力源であったコアも破壊されており、これでは自己修復は不可能だ。


 と、そのときだ。

 部屋の奥にあった階段から、何者かが降りてくる気配があった。


「さすがじゃのう、勇者リオン。わらわの傑作をこうも簡単に破壊してしまうとは」

「っ……」


 勇者リオン。

 その言葉に、リオンは思わず息を呑んでしまう。


 前世では呼ばれ慣れていたが、今世でそう呼ばれたことは一度もない。

 今のリオンはただのリオンなのだ。


「……エルフ?」


 階段を降りてきたのは、一人のエルフだった。


 小柄で、見た目の年齢は現在のリオンと同程度だろうか。

 その割に胸部が豊かで、これは華奢な体型が多いエルフとしてはかなり珍しい。

 フィーリアもその例に漏れず、見事な絶壁である。


「ま、まさか……メルテラ様……?」


 そのフィーリアが唇を震わせた。

 この塔内に、しかもその最上階にいる人物となれば、真っ先にその英雄の名が出てきてもおかしくはない。

 しかし、フィーリアは「いえ、そんなはずはありません」と頭を振って自ら否定する。


「百年前の時点で、彼女はもう大人だったはず……」


 エルフ族は寿命が長い。

 平均的な人間と比べると、二倍から三倍は生きると言われている。

 加えて、若い期間もずっと長いとされていた。


 だがそれでも限度がある。

 百歳を超えれば、人間でいう還暦に値する。

 さすがに皺も増え、その美貌を若いまま保ち続けるのは難しくなるものだ。


 しかも目の前のエルフは、そもそも大人にすら見えない。

 どこからどう見ても成人前の少女である。


「いいや、間違ってはおらぬぞ」


 当の本人がにやりと口端を吊り上げ、言った。

 その表情といい、やや古風な口調といい、少女のものにしては随分と老成した雰囲気だ。


「わらわがメルテラじゃ」


 そして自ら宣言する。

 嘘を吐いていないのなら、どうやら彼女が噂の英雄らしい。


 だが子供にしか見えないのはどういうことだと、リオンが首を傾げていると、


「さあ、勇者リオンよ! 今こそ、あのときの恨みを晴らして――ん?」


 少女はきょろきょろと周囲を見回し、そして訝しげに眉根を寄せた。


「どういうことじゃ? 勇者リオンはどこにいった?」


 そこで壁に開いた大きな穴に気づくと、


「あやつめ! わらわが怖くて逃げおったのか! 許さぬぞ! 今度という今度はぎゃふんと言わせてやるのじゃ! そのためにわらわはずっとこの塔に籠って、牙を研ぎ続けておったのじゃからの!」


 激しい怒気と怨念を露にして叫ぶ。

 その様子からして、勇者リオンとはとても友好的な関係にあったとは思えなかった。


 そして目の前にいるリオンが、同一人物であることに気づいていないようだ。


 リオンは困惑気味に言った。


「ええと……勇者様はとっくの昔に死んだけど?」

「な、なんじゃと!?」

「それ知らなかったんだ……。魔王と相打ちになったんだよ」

「う、嘘を吐くでない! あやつがそう簡単にくたばるわけないじゃろ!」


 フィーリアがおずおずと口を挟む。


「か、彼の言っていることは間違っていない。勇者様は魔王討伐の際に亡くなっている。……一緒に旅をしたメルテラ様であれば、当然、ご存じなのでは?」

「ぎくっ」


 フィーリアの指摘に、エルフの少女は明らかに動揺した。

 リオンはジト目で彼女を睨む。


「……つまり、仲間だったというのは嘘だったわけ?」

「う、嘘ではない!」

「じゃあ何で死んだの知らなかったの?」

「と、途中で別かれたのじゃ……」

「本当に?」

「……本当なのじゃ」

「だったら顔を背けなくてもいいと思うけど?」


 少女はだらだらと滝のような汗を掻いていた。

 どう考えてもクロである。

 何よりもリオン本人がメルテラなどというエルフのことなど、まったく覚えていないのだ。


 すると観念したのか、少女はついに白状した。


「そうじゃよ! 仲間だったというのは真っ赤な嘘じゃ!」

「……何でそんな嘘を?」

「だって! 本当のことなど言えなかったのじゃ~~っ! 勇者とともに魔王を討伐することを皆から期待されて旅立ったというのに、実際には勇者の仲間にしてもらえず、すごすごと帰ってきたなんて、言えるわけないじゃろうがぁ~~っ!」


 ヤケクソ気味に叫ばれた真実に、一瞬、周囲の時が止まったようだった。

 小さい頃からエルフの英雄のことを何度も聞かされ、憧れとともに育ってきたフィーリアに至っては驚きを通り越して顔から表情が消えている。


 一方、リオンは、


(思い出した! そういえば、何度もしつこく仲間にしてくれって言ってくるエルフがいたよ! 結局、足手まといだからって追い払ったんだった!)


 こんな子供ではなかった気もするが、そういうエルフに付き纏われていたのは確かだ。

 まさかそのことでここまで恨まれているとは思ってもみなかった。


「だからその屈辱を晴らすため、わらわはずっとここであやつを亡き者にするための魔法の研究を進めておったのじゃ! なのに! なのにとっくの昔に死んでおったじゃと!? わらわの努力は何だったのじゃ~~っ!」


 小さな手足をバタバタさせながら憤る少女へ、リオンは思わずツッコミを入れた。


「ていうか、そうでなくても、エルフじゃないんだし、百年も経ってたら普通に老衰して死んでるでしょ……」

「は!?」


 どうやら今、気づいたらしい。


「……バカなのかな?」



少しでも面白いと思っていただけたら、下で評価してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

村づくりコミカライズ
村づくりコミカライズがスタート!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ