第51話 やはり反省していないな
メタルゴーレムは素材となった金属によって、その装甲強度が異なる。
この塔のメタルゴーレムたちは、一般的なそれより高性能なもので作られているらしく、傷をつけることすら容易ではない。
ただリオンにはそれくらいの差異など誤差のものだった。
次々と現れるメタルゴーレムを、通常のゴーレムと同じように簡単に剣で斬り裂いていく。
「ていうかあの子、何でメタルゴーレムを普通に斬ってんの……」
「気にしたら負けだ」
双子もリオンに負けじと頑張っているが、さすがに少し苦戦をしていた。
「「いたい」」
金属製の装甲に与えた衝撃が跳ね返ってきて、思わず顔を顰める。
それでも蹴られた箇所は大きく凹んでおり、確実にダメージを与えてはいた。
『やるのー』
スーラはタックルによる攻撃は効果が薄いと見たようで、身体を伸ばして例えばメタルゴーレムの腕や脚に絡みつくと、
メキメキメキメキッ!
回転を加えながら強引に破壊していた。
特に歩行型は脚を壊されると身動きが取れなくなるため、なかなか有効な手段である。
しかし恐ろしいのはゴーレムだけではなかった。
塔の上層に行くほど、トラップも厄介で悪質なものが増えていた。
「ミーナお姉ちゃん、その色が変わってる床、踏んだら爆発するよ」
「ば、爆発!? あ、危なかった……ていうか、もっと早く言ってよ!? い、いや、あたしは気づいていたけどねっ!」
「貴様、こんなときに強がってどうするっ」
「フィーリアお姉ちゃん、しゃがんで。斧が飛んでくる」
「ぬぉっ!?」
先んじてトラップを看破できるリオンのお陰でどうにか回避できているが、いずれも殺人級のものだ。
まともに引っかかってしまったら一溜りもないだろう。
「もう嫌……早く地上に帰りたい……」
「……同感だ」
どんどん凶悪さを増していく塔に、二人とも完全に疲れ切っていた。
「大丈夫。たぶんもうちょっとで最上階だから。それにほら、階段があったよ」
リオンが前方を指さしつつ、慰めるように言った。
見ると、確かにそこには階段がある。
「最上階っ……さ、さすがにお宝の一つや二つはあるでしょ!?」
「たとえ宝があったとして、貴様の略奪を私が許すとでも思うか?」
俄かに目を輝かせ始める現金な盗人を、フィーリアが睨みつける。
「そ、そうだったわ……。ていうか、これじゃあ何のために侵入したのよ! 骨折り損のくたびれ儲けじゃないの!」
「やはり反省していないな?」
そんなやり取りをしている二人を後目に、リオンは階段を上っていく。
その先はこれまでと雰囲気が違っていた。
侵入者を迷わせるような迷路はなく、ただ階段の目の前には大きな扉だけがあった。
「宝物庫だったら嬉しいけど……なんか嫌な予感しかしないわ……」
「……そうだな」
その先に待ち構えているものを想像して、溜息を吐いている。
「「あける?」」
「ああ」
リオンが頷くと、双子は「「よいしょ」」という掛け声とともに扉を押し始めた。
大人たちと違ってまだまだ元気のようだ。
重々しい音とともにゆっくりと扉が開く。
中は広い空間になっていた。
壁は緩やかにカーブしており、全体で円を描いているようだ。
どうやらフロアを丸々ぶち抜いているらしくだだっ広いが、それでも今までのフロアよりは幾らか狭い。
外から見ると塔の先端は細くなっていたので、ここが塔の頂上に近いことが分かる。
その空間のど真ん中にそれがあった。
「な、何よ、あの馬鹿みたいにでかいゴーレムっ?」
「まさか、あれも動くのか……?」
ミーナたちが思わず後退ってしまうほど、そのゴーレムは巨大だった。
高さ十五メートルはあるだろうか。
もちろん人型だが、脚が短く腕は長い。
肩幅が広くてずんぐりとした体形だが、それでもしっかりと二本の脚で立っている。
リオンたちの侵入を察知したのか、頭部にあった目のような部位が赤く光り出した。
そしてゆっくりと起動すると、地響きを鳴らしながら歩き出した。
『侵入者……排除……排除……排除!』
「こ、こっちくるわっ!?」
「だが速度は遅い! これなら回避は――」
フィーリアが言いかけたとき、突如としてゴーレムが加速した。
「「っ!?」」
超重量の巨体とは思えない速さ。
どうやら足裏にローラーが付いているようで、滑るような動きで迫ってくる。
「彼女を頼む!」
「「ん!」」
リオンは咄嗟にフィーリアを抱え、双子はミーナを二人がかりで持ち上げた。
そしてすんでのところで巨大ゴーレムの突進を回避する。
巨大ゴーレムはそのまま勢い余って壁に激突すると思いきや、絶妙なバランスでUターンを決め、再び襲い掛かってきた。
「扉の向こうに避難してて!」
リオンはフィーリアを思い切り放り捨てると、剣を抜いて迎え撃つことに。
一方、大きく宙を舞ったエルフはどうにか地面に着地すると、
「き、貴殿は!?」
「こいつを倒す」
「無茶だ! さすがに――」
「早くこっち来なさいって! あたしらがいても足手まといなのよ!」
「――くっ!」
ミーナに手を引っ張られ、フィーリアは仕方なく扉の外へと退避する。
それを横目で確認しつつも、リオンは巨大ゴーレムの攻撃を躱すと、その胴部に斬撃を見舞った。
「……硬い」
だが僅かに傷がついただけだ。
どうやら今までのゴーレムよりもさらに強力な装甲をしているらしい。
(普通に斬るだけじゃ無理っぽいな)
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