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第46話 聞いてもまったく分からん

 エルフの王族として生まれたメルテラは、生まれつき魔法の才能に優れ、幼い頃にはすでに他のエルフたちの追随を許さない使い手になるほどだった。


 そんな彼女は、自分の力をもっと広い世界で証明したいと考え、周囲の反対を押し切ってセドリアを出てしまう。

 そして各地で様々な功績を上げ、いつしか英雄と謳われるようになった。


 やがて世界を破滅へと導く魔王が現れたとき、彼女は勇者の仲間になると、その強力な魔法の数々で勇者を助けながら、ついには魔王討伐に成功する。

 セドリアへと凱旋した彼女をエルフたちは大いに称えたが、どういうわけか、自らが作り出した塔に籠ってしまった。


 後に、魔王との戦いの際に勇者が命を落としたことが判明。

 きっと彼女はその責任を感じたのだろう。


 それから一度もあの塔から出てきたことはない。

 長命のエルフなので、まだ生きている可能性もあるが……恐らく塔の中で自害してしまっただろうとの考えが主流となり、現在は彼女の墓として悼まれていた。


「そしてそんなメルテラ様の想いに応えるように、我らはそれまでの排他的な性質を捨て去り、異族とも積極的な交流を行うようになったのだ」


 周囲の木々よりも高く聳え立つ塔を神妙に見つめながら、フィーリアはそう昔話を締めくくった。

 他のエルフたちも端然と頷いている。


 一方、彼女たちの話を聞き終えたリオンは、


(いや聞いてもまったく分からん! 誰だよ、そのメルテラって!?)


 まったくと言っていいほど、身に覚えがなかった。


 前世のリオンに仲間などいなかった。

 一人で戦い、一人で魔王を倒したのだ。


 もちろん途中で誰かと共闘することもなくはなかったが、どれも一時的なものだった。


(もしかして誰かのうちの一人とか? けど、仲間ってほどじゃないしな。何より魔王と戦ったのは確実に俺一人だ)


 記憶を辿ってみても、思い当たる節はない。


 あるいは、エルフたちが都合よく歴史を改変したのだろうか。

 そういった類は決して珍しいことではない。

 例えば戦勝国が、自分たちの勝利を正当化するため、敗戦国の悪行を捏造したりするのはよくあることだ。


「リオン殿? どうされた?」

「な、何でもないよ。それより、ここは?」


 リオンが連れてこられたのは、街の中心にある広大な屋敷だった。

 いや、屋敷というより宮殿と言った方がいいかもしれない。


(ええと、確か……)


 リオンが思い出す前に、フィーリアが答えた。


「ここは皇宮だ。ぜひ貴殿に礼をしたい。ぜひ寄っていってくれ」


 そこはエルフの王族が住む宮殿だった。

 彼女が属する騎士団の拠点もこの一画にあるという。


 しかしてっきりその騎士団の本部に連れて行かれるのかと思いきや、なぜかリオンは宮殿の奥にある部屋へと案内されていた。


「少しここで待っていてくれ。すぐに()()に話をつけてくる」


 そう言ってフィーリアが出ていく。

 しばらく待たされた後、別のエルフに呼ばれ、今度は大広間へと通された。


 贅沢さや華美とはまた違う、質実剛健を是とするエルフらしい上品で洗練された空間だ。

 その一番奥に設けられた椅子に、一人のエルフが腰掛けていた。


 エルフらしく端正な顔立ちであることはもちろんのこと、内から滲み出るような気品や高貴さを感じさせる青年だ。

 すぐ隣にはフィーリアの姿もあった。


 青年が口を開く。


「私はエルフの王、ルーベリアだ。もっとも、今はここセドリア領を治める公爵だけれどね。公王とも呼ばれている」

「エルフの王?」


 まさかいきなり王様に謁見することになるとは思わなかった。


「話は妹から聞いたよ。トレントとエルダートレントに加え、フォレストドラゴンまで現れたそうじゃないか。もし君が救援に来てくれなければ、死者が出た可能性は高い。妹と同胞を助けてくれたことに心から感謝する」


 しかもどうやらフィーリアとは兄妹の関係らしい。

 つまり彼女はエルフの王族だったというわけだ。


「そういうのは先に言っておいてほしかったな……」


 あらかじめ知っていれば断っていただろう。

 リオンにとって、貴族や王族というのはあまり関わり合いたくない相手だった。

 前世では、勇者の力を利用しようとしてくる権力者が珍しくなかったからである。


「む? そういえば言っていなかったか」


 そんなリオンの内心を知らず、フィーリアは「すまぬすまぬ」と軽く笑う。

 だがすぐに真剣な顔つきになって、


「無論、貴殿のその力を利用しようという気など毛頭ない。先ほど言った通り、ただ貴殿に礼をしたかっただけだ」


 彼女はリオンの前世のことなど知らない。

 それでも察するところがあったようだ。


 実際、まだ世間ずれしていない少年など与しやすいと見て、味方に引き入れようと考える権力者は多いだろう。


「私もそれを保証するよ。エルフの誇りにかけてね。そもそも我々エルフ族というのは、そうした世俗的な欲に乏しい種族だ。それに今の生活で満足している」


 ルーベリアが念を押すように言う。

 確かに欲深いエルフなど、リオンにも想像できなかった。


 それからルーベリアは、騎士団を助けてくれたことで何か褒賞を出したいと言ってきた。

 手に入ったトレントの素材を騎士団にすべて買い取ってもらう予定で、それで十分だとリオンは伝えたが、


「それは妹からの礼だろう? 私もぜひ何か君に礼をしたいんだ。何か欲しいものはあるかい?」

「……それなら」


 リオンは先ほどの塔のことを思い出していた。


「あの塔に入らせてほしいです」




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