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第45話 そんなやつ知らんけど

「さすが」

「すごい」


 エルダートレントを倒したリオンのところへ駆け寄ってくると、双子はそのまま飛びついてきた。


「え、エルダートレントの幹を剣で斬るなんて……」

「一体、何者ですか……」


 一方でエルフたちは身構えている。

 見た目こそただの子供だが、信じられない強さを見せつけられたのだ。

 警戒するのも当然のことだろう。


 しかしそんな彼らの様子にリオンは首を傾げる。

 この森のエルフたちなら、エルダートレントくらいよく伐採、もとい討伐しているはずだからだ。


 ……もちろんそれは百年前の話だった。

 エルダートレントの木材は当時、武器などの素材として輸出されていたのである。


 だが近年、エルダートレントがこの森に出現することは滅多になかった。


「助太刀、感謝する。もし貴殿らの助力がなければ、多大な被害が出ていただろう」


 他のエルフたちが狼狽える中、進み出てきたのはリーダーと思われるエルフの女性だった。


「私はフィーリアという。そして我らはセドリアの騎士団だ」


 どうやら彼女たちはセドリアの街を護る騎士団らしい。


「僕はリオン。冒険者だよ」

「なるほど、冒険者か。その歳で……と言いたいところだが、今の戦いぶりを見せられれば納得する以外にないな」


 フィーリアはそう言って苦笑する。

 それから他のエルフたちへ命じた。


「この少年に我らは助けられたのだ。いわば命の恩人。そのように警戒するのは失礼だろう?」

「「「は、はい!」」」


 エルフたちは慌てて手にしていた武器を下ろすと、リオンに「助かりました」「ありがとうございます」と頭を下げてくる。


(随分と友好的になったな)


 前世の頃は、エルフと言えば同族以外にはもっと冷たい印象が強かった。

 もちろん個人差はあったものの、こんなふうに素直に礼を言ってくるエルフは少なかったはずだ。


「それにしても、エルダートレントをこんなに奇麗な状態で倒せたのは初めて見た」

「そうなの?」

「なにせ遠距離に陣取って、火をつけて倒すのが一般的だからな」

「そんなことしたら素材がほとんど手に入らないよね?」


 実は最初からリオンは疑問に思っていたのだ。

 エルフたちがトレントに対して火の魔法を使っていたことに。


「接近して剣や斧で切り倒すのがセオリーだと思うんだけど……」

「それができるのはトレントまでだ。……普通はな。貴殿は普通ではない」


 フィーリアは呆れた顔で言う。


(そうか……)


 ようやく自分がやり過ぎたことに気づくリオンだった。


「ええと、この素材はどうするの?」

「もちろん貴殿が倒したのだから貴殿のものだ」


 フィーリアはそう言ってくれるが、それでは結果的に横から獲物を横取りしたような形になってしまう。

 リオンがそのことを気にしていると、


「ならばぜひとも我々に売ってくれ。これでも私は騎士団の長を務めているのだが、これだけの素材があれば優れた性能の武具を大量に作ることができるだろう」


 どのみちどこかで買い取ってもらうつもりだったので、リオンはその申し出を快諾することにした。


「我らも運搬を手伝おう」

「ううん、その必要はないよ」


 リオンはトレントを片手で持ち上げると、アイテムボックスの中へと放り込んだ。


「「「……え?」」」


 エルフたちは何かの見間違えと思ったのか、目を瞬かせる。

 しかし他のトレントも次々と小さな袋の中へと消えていく。

 何人かのエルフが眼を擦り始めた。


 フィーリアは周囲の反応を確認し、それでようやく目の前の光景が自分だけに見えているわけではないと理解したようで、


「そ、その袋、どうなっているんだ?」

「? 普通にアイテムボックスだけど……」

「普通のアイテムボックスはそんなに入らないと思うが……。しかもその大きさの口にどうやって入れているんだ?」


 アイテムボックスは希少な魔道具だが、フィーリアにも見たことくらいはあった。

 だがその容量はせいぜい荷馬車一台分である。

 なのにリオンは十体以上もいたトレントを、あっさり収納してしまったのだ。


 さらにアイテムボックスに入れることができる大きさは、その入り口の大きさまでに制限されるものだ。

 入り口より大きな物を収納できないのは当たり前のことである。

 そのため、アイテムボックスと言われているように、袋型より収容口の大きな箱型の方が一般的なのだった。


(入れる物に合わせて、入り口が拡張する機能を付けるのは当たり前だと思うんだけど……。そうじゃないと予備の装備なんて持っていけないし)


 ちなみにリオンはより丈夫な素材を入手するたびに新しいアイテムボックスを作っており、現在のものは三代目になる。

 容量は小さな村がすっぽり入るぐらいあった。


 なので当然、エルダートレントもちゃんと入る。


「よっと」

「「「エルダートレントまでっ!?」」」







 リオンはエルフたちと一緒にセドリアの街までやってきた。

 前世で少し立ち寄ったことがあるだけだが、その街並みはよく覚えていた。


 当時とあまり変わらない。

 立ち並ぶ家々はどれも木造で、美しい植木や花壇など、街の中まで樹木で溢れている。


 強いて言えば、街全体が一回り大きくなっていることだろうか。

 それからエルフ族ではない人が普通に歩いているも、百年前には見られなかった光景である。


 そして、もう一つ。


「……お姉ちゃん、あれは何?」


 リオンが見上げていたのは、街の外れ、ちょうど森との境目あたりに聳え立つ巨大な塔だった。


「あれはメルテラ様のお墓だ」

「メルテラ様?」

「ああ。かの伝説の勇者リオンとともに旅をし、魔王を打ち破った我らエルフの英雄である」


 フィーリアは誇らしげに教えてくれる。


(いや、そんなやつ知らんけど……)



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