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第42話 僕は何もしていません

「えい」

「とお」

「ブモーーーッ!?」


 アルクとイリスが蹴りを見舞うと、体長三メートルを超える巨大な猪が吹き飛んでいった。

 何本か木を薙ぎ倒してようやく静止した猪は完全に伸びていて、リオンは近づくとその首にナイフを刺して命を奪う。


 それから続けて解体も行なった。


「パワーボアの肉は意外と柔らかくて美味いんだ」

「「じゅるり」」


 焼けて肉汁が滴っているところを想像したのか、双子は仲良く涎を垂らす。


 解体が終わると、今から調理に使う分だけを残し、あとはアイテムボックスへと放り込む。

 アイテムボックス内では時間がほとんど経過しないため、容れておけば長時間、鮮度を保つことが可能だった。


 代わりに取り出したのは平べったい石。

 これを火にかけて熱してから、オリーブから取れた油で山菜やキノコなどと一緒にパワーボアの肉を焼いていく。


「「おいしい!」」


 目を輝かせながら肉を頬張る双子。

 その横ではスーラがパワーボアの骨を体内に取り込みながら、


『おいしいのー』


 とぷるぷる震えている。

 スライムは何でも食べるのだが、味覚は存在しない。

 単に雰囲気で言っているのだろう。


 休憩兼食事が終わると、リオンは立ち上がる。


「さて、セドリアまではもう少しのはずだ」


 リオンたちは現在、リベルトの街から北北西へ進んだところにある山の中にいた。

 この山を越えると、そこにはセドリアという都市があるはずだった。






 ――真夜中にリベルトの街をヴァンパイアの群れが襲った。


 百年前の惨劇を伝え聞く街の人たちは、朝になってその事実を知るや恐れ慄いた。

 だがすぐにそのヴァンパイアが討伐されたと分かって安堵した。


「きっと勇者様だ!」

「勇者様が助けてくださったんだ!」


 一部の狂信的な勇者リオンの信者たちは歓喜し、そう声高に叫んだ。


 実はそれは真実だったのだが……もちろん勇者は百年前に死んでおり、この時代に生きているはずもない。

 冷静な人たちは一体誰がヴァンパイアたちを倒してくれたのかと、口々にその推測を語り合った。


「アンリエット様だろう」

「俺もそう思う」

「なにせこの街で唯一のAランク冒険者だしな」


 当然ながら本人はそれを否定した。


「私ではありません。ヴァンパイアたちを倒したのはリオン君です。しかもその中にはヴァンパイアロードまでいました。私も挑みましたが、手も足も出ず、彼に助けられたのです」


 そして自らが目撃した真実を語った――のだが、


「いえ、僕は何もしていません」

「リオン君!?」

「むしろ、アンリエットお姉ちゃんたちがヴァンパイアロードを倒すところを見ました」


 リオンは思った。

 もし自分がヴァンパイアロードを倒したなどということが知れ渡ったなら、きっと色々と面倒なことになる、と。


 幸いあの場には、この街で有名なAランク冒険者であるアンリエットたちがいたのだ。

 彼女たちが討伐したことにしておけば、多くの人たちがそう信じるだろう。


「たぶんヴァンパイアロードの精神操作のせいで、ちょっと記憶が曖昧になっているんだと思います。けれど精神操作を受けながらも、それに抗ってロードに打ち勝ったんです」


 適当な嘘をもっともらしく言って、リオンはアンリエットに押し付ける。

 そして思った通り、人々の間ではそれが事実だと考えられるようになっていくのだが、


「さて、とっとととんずらするか」


 それを確認する前に、リオンは街を去ったのだった。







 そうして今、リオンは次の街へ向かって山の中を走っていた。

 旅人の大半は魔物も出没する危険な山道を迂回するものなのだが、それを苦にしないリオンにとってはこれが最短ルートだった。


 岩場や崖があったりなかなかハードな道だが、アルクとイリスは小さな身体でしっかりそれに付いてきている。

 二人のステータスが大きく上がったお陰だろう。



アルク

 種族:猫人族

 種族レベル:34

 力:S 耐久:S 器用:S 敏捷:SS 魔力:S 運:S

 状態:リオンの従魔



イリス

 種族:猫人族

 種族レベル:34

 力:S 耐久:S 器用:S 敏捷:SS 魔力:S 運:S

 状態:リオンの従魔



 時々現れる魔物も、二人にかかれば一撃だ。

 今も彼らより何倍も大きなブラッドグリズリーが、あっさりと宙を舞った。


 リオンが少し教えただけで、いつの間にかしっかりとした打撃技ができるようになっていた。

 獣人は元々、人間よりも身体能力が高く、しかも運動神経がいいのだ。


 あれからリオンの指導もあり、二人はしっかりとした打撃技ができるようになっていた。

 ジョブは取得していないのに、格闘技系のスキルを高いレベルで使えるようになっているのだ。


 生憎と二人は獣人なので、そもそもジョブを取得することができない。

 これはジョブという加護を与えているのが、人間の神々だからである。


 だがその反面、レベル上昇により身体能力が伸びやすかったり、特定のスキルを先天的に習得しやすかったりといった強みを持っている。

 さらに、獣人は魔物と同じように進化することができると言われていた。


 その進化を先んじて遂げたスーラも、あれからさらにステータスが上がっていた。



スーラ

 種族:レッドスライム

 種族レベル:18

 力:S 耐久:SS 器用:S 敏捷:S 魔力:S 運:S

 状態:リオンの従魔



(それにしても最近よく食べているせいか、ちょっと重くなっている? ……いや、さすがに気のせいか)


 だんだんと頭の上の重みが増してきている気がしたのだが、見たところ体積はまったく変わっていない。

 恐らく気のせいだろうと、リオンは結論づける。


 ……のだが、事実、密度は大幅に増し、以前より遥かに重くなっていた。

 リオンのステータスが上がったこともあって、その変化がピンとこなかったのである。



リオン

 種族:ヒューマン

 種族レベル:63

 ジョブ

 【剣聖ソードマスター】レベル20

 【大魔導師グランドウィザード】レベル20

 【聖者セイント】レベル20

 【盗賊王キングシーフ】レベル20

 【()()()】レベル1

 力:SSS 耐久:SSS 器用:SSS 敏捷:SSS 魔力:SSS 運:SSS



 クラスⅠの【従魔士】がレベル20になったことで、リオンは新たにその上位職であるクラスⅡの【従魔将ハイテイマー】を取得していた。




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