第34話 犯人はこの中にいるよ
元の門はもっとしっかりしたものだっただろうが、長い年月の間に朽ちてしまったらしく、今はいかにも急ごしらえといった木製の扉がはめ込まれているだけだ。
結界を張っていたこともあり、そもそも発見されることを想定していなかったのだろう。
さらにこちらへ飛んでくる矢は疎らだ。
これなら一気に攻め込んだ方がいい。
「はぁぁぁっ!」
先陣を切ってアンリエットが砦の門へ突っ込んでいく。
木扉はAランク冒険者の斬撃によって木っ端みじんに破壊された。
「侵入者だ!」
「ぶち殺してやれ!」
砦の中に飛び込むと、そこには二十人を超える男たちが待ち構えていた。
血走った眼をして各々武器を手にしており、どうやら抗戦するつもりらしい。
見たところいかにも堅気ではなさそうだが、武器の構えから素人に毛が生えた程度の戦闘能力であることが窺えた。
「大した連中じゃねぇな!」
「一気に行くぜ!」
一方でこちらは戦闘を専門とした熟練の冒険者ばかりだ。
たとえ相手の方が多かったとしても、まず負けるはずがない。
冒険者たちは威勢よく突撃していく。
すぐに乱戦となった。
「っ!? くっ、こいつら……っ!?」
「意外と強いぞっ!?」
予想に反し、劣勢なのは冒険者側だった。
一対一であっても苦戦するほどで、彼らの間に困惑が広がっていく。
「何でこんなに強いんや!?」
「ただのならず者というわけではなさそうですね……っ!」
アンリエットたちですら手を焼いていた。
「でも変。武器の扱いは下手」
ティナが言う通り、やはり戦いに慣れている様子ではない。
それでも冒険者たちが苦戦させられているのは、単純に身体能力が――すなわち、ステータスが高いせいだろう。
(随分とちぐはぐだな?)
それはリオンも察していた。
しかしこうした例は決して珍しいことではない。
例えば身体強化のバフをかけ、本人の練度や経験をステータスが大きく上回った状態になると、似たような現象が発生する。
「くそっ! オレ様はBランクだぞっ! なんでこんな奴らにっ……!」
先ほどの失態を挽回せんとしていたグリスは、二人を相手取って完全に押されていた。
ついには剣を打ち上げられ、無防備となったその身体に斬撃が迫る。
『えーいなの!』
それを救ったのは一匹のスライムだった。
スーラのタックルを浴び、敵があっさりと吹き飛んでいく。
「なっ? あのガキのスライム……っ!?」
驚くグリスを尻目に、スーラは次のターゲットへと突進していった。
そしてリオンもまた、他の熟練冒険者たちが苦戦している相手を次々と倒していた。
乱戦なので魔法は控え、剣と格闘だ。
「あいつテイマーじゃなかったのか!?」
「てか、さっきは魔法を使ってたよな!?」
さらにアルクとイリスの双子も大人たちを凌駕する活躍を見せている。
「えい」
「やー」
小さな身体と獣人の俊敏さを生かして敵の攻撃を簡単に躱すと、懐に飛び込んで拳や蹴りを見舞う。
しかも一撃で相手の意識を刈り取っていく。
「なんだ、あの子供たちは!?」
「強っ!?」
こんなところに子供を連れてくるなんてと、ついさっきまでは眉をひそめていた冒険者たちが、その信じがたい戦闘力に目を剥いた。
「相変わらずやなー」
「ロリショタ強可愛い」
「私たちも負けていられませんね!」
双子の活躍に触発されたか、アンリエットたちも奮闘する。
そうして一時は劣勢だった冒険者側が、次第に優勢になっていった。
やがて砦内にいた連中をすべて無力化することに成功した。
「こいつらリベルトを拠点にしているギャングだな」
冒険者の一人が、彼らの顔を見てそう証言する。
さらに別の冒険者も、
「ああ、俺も何人か見たことがある。だが最近の活動は大人しいもんで、こんな大規模な誘拐なんてするはずはないんだが。それにこの異常な強さは……」
「ともかく誘拐された人たちを探しましょう」
アンリエットの提案で、砦内の捜索が開始した。
砦の地下室で、誘拐された人たちを発見した。
疲労困憊しているようではあったが、見たところ無傷だ。
だがその数は五、六人ほどしかいない。
報告されているだけでも、この数倍は行方不明になっているはずだった。
「すでに売られてしまったのでしょうか」
「こいつらに訊くしかないな」
気絶していたギャングの構成員たちを叩き起こし、尋問する。
「おい、誘拐した人たちをどこに売った?」
「だから誘拐なんてしてねぇって言ってんだろ!」
「嘘を吐くな。だったら地下室にいた人たちは何なんだよ」
「知らねぇよ! だいたいうちは人間を誘拐したところで、売り捌くルートがねぇよ。街の取り締まりが厳し過ぎるからな、怖がってどこの闇商人だって扱ってくれねぇんだ」
「なんだと?」
「つーか、そもそもここは一体どこだ?」
「おい、てめぇ、ふざけてんのか?」
しかし返ってくるのは支離滅裂な内容ばかり。
何人かに分けて別々に話を聞いても同じで、冒険者たちは首を傾げるしかない。
「謎」
「確かにおかしいですね。彼らの言うことが本当なら、自分たちがしたことをすっかり忘れてしまっていることになります。まるで何者かに操られていたかのような……」
「うん、操られていたみたいだね」
「リオン君?」
冒険者たちが一斉にリオンへと視線を向けた。
「おいおい、何を言ってんだよ? 操るって、まさか精神操作魔法でも使ったってのか?」
「そうだよ」
「ああ? 精神操作魔法ってのは、ほとんど使える奴がいないような高難度の魔法だぜ? それにこれだけの集団を一度に操れるなんて、聞いたことねぇ」
何人かが異を唱える。
(別にそんなに難しい魔法じゃないけどなぁ。俺も少しは使えるし)
魔物相手には効果が薄く、滅多に使う機会がなかったが、そんな自分でも使えるのだから大した難度ではないと考えるリオン。
もちろんそれが一般的な基準とは大きくズレていることは言うまでもない。
(ただ、この連中にかけられていたのは相当なレベルのものだ)
恐らく前世でもこれほどの使い手は限られていただろうと、リオンは推測する。
……人間の中ならば。
「いや、この少年の言うことだ。詳しく訊く価値はある」
「俺もそう思う」
「一体誰が操っていたのか分かるかい?」
先ほどのリオンの戦いぶりを見てか、中には好意的に続きを促す者たちもいた。
リオンは頷いた。
「うん。犯人はこの中にいるよ」
「「「こ、この中にっ!?」」」
リオンの言葉に冒険者たちは息を飲んだ。
2019年1月26に改稿いたしました。大まかなストーリーは変わってませんが、設定を結構いじっています。





