第30話 ついでに野盗も捕まえておいた
アンリエットたちはリベルトへと戻ってきた。
「にしてもリオンはん、先に帰ってしまうなんて薄情やな」
「帰りもロリショタ堪能したかった」
「どう考えてもあなた方のせいでしょう……」
カナエとティナの言葉に、アンリエットは嘆息する。
行きと同じように一緒に馬車で戻るつもりだったのだが、彼女たちが気づいたときにはすでに村を出てしまっていたのだ。
宿の店員に「先に帰ります」との伝言だけが残されていた。
今回はただの慰安目的ではあったのだが、予想外の事態も発生したため、その報告も兼ねて彼女は町に着くなり真っ直ぐ冒険者ギルドへ。
「アンリエットさん! レジーナの方から話は伺っています。本当に大変でしたね。まさかクイーンタラントラがいたなんて」
親しくしている受付嬢のマリアがすぐに彼女たちに気づき、声をかけてくる。
「ですがアンリエットさんたちが一緒で助かりました。皆さんがいらっしゃらなければ、前途ある少年の命が失われていたところです」
アンリエットたちは思わず顔を見合わせた。
「どうされました? あっ、もちろん今回の件については、アンリエットさんたちに特別報酬を出させていただきます」
「……一つ聞いてええか? それ、リオンはんにも支払われる予定は?」
「え? いえ、今のところは……。そ、そうですよねっ、予想よりも危険な依頼だったわけですし、その辺りを考慮して報酬を上乗せするべきかと……」
「いやいや、そうやない」
カナエは首を振る。
どうやらギルドは、彼女たちのパーティが蜘蛛の群れを全滅させたと考えているらしい。
村でもちゃんと伝えたのだが……やはり信じてもらえなかったようだ。
「アンリの予想通り」
「ええ。来てよかったですね」
ギルドに真っ先に足を運んだのは、まさにこうしたケースを心配していたためだった。
アンリエットははっきりと断言する。
「今回の件、その大半が彼の功績です」
「はい? クイーンタラントラやビッグタラントラ、さらにはタラントラが多数いたと聞いていますが……。Dランクの冒険者では、タラントラ一体ですら荷が重い相手かと……」
「そのクイーンタラントラを倒したのも彼です」
一瞬、時が止まったようにマリアの動きが停止した。
「…………じょ、冗談……ではなさそうですね。カナエさんはともかく、アンリエットさんはそのようなことを言われる方ではありませんし」
「うちはともかくって酷くあらへん?」
「日頃の行いですね、カナエ」
抗議するカナエにきっぱり言ってから、アンリエットはマリアに告げた。
「ですので報酬はすべて彼に渡してください。それと、可能であればAランク……いえ、難しければBランクでも構いませんので、早急に彼を昇格させるべきだと進言しておきます」
◇ ◇ ◇
アンリエットたちが立ち去るのを見送り、受付嬢のマリアは当惑していた。
「あの少年のためにあえて報酬の受け取りを拒否されたのでしょうか? いえ、もしそうなら単に受け取りを拒めばいいだけ。わざわざ少年の能力を過大申告したりはしないはず」
そもそもアンリエットがこの手の嘘を吐くような人間ではないことを、マリアはよく知っていた。
「となると、本当に彼がクイーンタラントラを……? まだ十歳くらいよね?」
実を言うと、先日たった一度来訪しただけで、あの少年冒険者のことは受付嬢の間でも話題になっていた。
あの年齢でDランク冒険者だということもさることながら、かなりの美少年。
普段むさくるしい男ばかりを相手にしている彼女たちにとって、まさに清涼剤のような存在だ。
いきなり冒険者に絡まれ、それをこのギルドのエースであるアンリエットたちに助けられたといったトラブルがなかったとしても、きっとすぐに噂になっていたことだろう。
加えて頭に可愛らしいスライムを帽子のように乗せ、これまた可愛らしい獣人の子供たちを連れているのだ。
目立たないわけがない。
「大きくなったら間違いなく素敵な貴公子になるわね。……って、そんな妄想してる場合じゃなくて」
上に報告するべきだろうと、マリアは思案する。
ただ、生憎と彼女の上司は頭が固い。
さすがにAランク冒険者のアドバイスともなれば無碍にはできないはずだが、すぐには信じてくれないだろう。
「ま、少し様子を見ますか。本当にアンリエットさんがそこまで言う人物なのかどうか」
その後、リオン少年は幾つか依頼を受けた。
それは例えば、
ゴブリンの巣穴の探知
ポーション作りに必要な薬草の採取
無くなった美術品の行方探し
といったものである。
どれも低ランク冒険者が受けるようなものなので、これでは少年の力を見極めるのは難しいだろうとマリアは思った。
だが、
「ついでにゴブリンを殲滅しておいたよ」
「ついでにって、百匹以上いたでしょ!?」
「上位種っぽいのもいたかな」
「って、ゴブリンロードじゃないの!」
「薬草採ってきたよ」
「って、どれだけ採ってきたのよ!?」
「千枚くらい? できるだけたくさんって言ってたから」
「限度ってものがあるでしょ! しかもこれ、全部上級薬草だし!?」
「野盗団のアジトにあったよ。ついでに野盗も捕まえておいた」
「だから何でついででそんなことできちゃうの!?」
「美術品を取り返すにはどのみち倒さないとダメだよね?」
「応援を呼びなさいよ!」
マリアは確信した。
「ガチだったわ……」





