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第3話 投げるんじゃねぇよ


「「ギャギャギャ!?」」


 どうやら同じ魔物であっても、オーガは彼らにとって仲間ではないらしく、ゴブリンたちは我先にと逃げ出していった。


「や、やべぇっ!」

「オーガなんて倒せるわけがねぇっ!」


 スネイルの取り巻きたちは顔色を変えて後ずさっている。

 そんな彼らをスネイルが叱咤した。


「はっ、心配は要らねぇよっ! オーガだって、この剣があれば全然怖くねぇし!」


 だがその声も震えている。

 それでもスネイルは剣を構えて、オーガに向かっていった。


「喰らえっ! ――なっ!?」


 その光景に誰もが愕然とした。

 ゴブリンの胴体を簡単に輪切りにしていたはずの斬撃が、オーガの分厚い手であっさりと受け止められてしまったのだ。


「ひっ……」


 スネイルが引き攣った声を漏らした。


「に、逃げろぉぉぉっ!」

「やっぱオーガには敵わねぇよ!」

「俺まだ死にたくねぇ!」

「あっ、おい待ちやがれっ!?」


 スネイルを放置し、子分たちが一斉に踵を返して逃げ出す。

 リオンも慌てて後を追いかけようとする。


「――っ!」


 そのとき後ろから髪の毛を勢いよく引っ張られた。

 リオンはお尻から倒れ込んでしまった。


「ははっ、後は任せたぜ!」

「なっ……」


 兄が笑いながらすぐ脇を通り過ぎていった。


「こんなときのためにわざわざお前を連れてきていたんだからな! オレのために死ねるんだ、光栄に思えよっ!」

「そん、な……」


 リオンはすぐに立ち上がろうとした。

 だが恐怖でまったく足に力が入らず、這うように前進することしかできない。

 恐る恐る振り返ると、そんな彼を嘲笑うかのようにニヤニヤしながらオーガが悠然と歩いてくる。


(……殺される)


 ――殺される?

 ――オーガごときに?


(いやいや、オーガごときって。僕はゴブリンすら倒したこともないんだよ?)


 ――魔王を圧倒しただろう?


(魔王って、それ夢の中での話だし。僕は勇者じゃない。地方貴族の家に生まれた庶子で、剣すらまともに握ったことがないんだ。……って、一体僕は誰とやり取りをしているんだろう? それに……さっきまでの怖さはどこに行ったんだ?)


 むしろ身体の奥から自信が溢れ出してきていた。

 恐怖が行き過ぎた結果、おかしくなってしまったのかもしれない。


 気がつけばリオンは立ち上がり、自分よりも何倍も大きなオーガと向き合っていた。

 いつの間にか、兄が落していった剣を拾っている。


 オーガが余裕に満ちた顔で近づいてきた。

 そして無造作に太い腕を伸ばしてくる。


 ザッ!


 リオンは剣を閃かせ、一瞬にしてその太い腕を両断していた。

 切断された手首から先が宙を舞い、ぼとりと地面に落ちる。


「ウガ?」


 何が起こったのか分からないといった顔で、間抜けな声を漏らすオーガ。

 首を傾げながら腕の切断面を見て、ようやく理解したらしい。


「ウガアアアアアアアッ!?」

「今、僕が斬ったの……?」


 ――これくらい朝飯前だろ。

 ――第一、周りには誰もいない。他の誰がやったっていうんだ?


「ウガァッ!」


 どうやらオーガもリオンの仕業だと思ったらしく、怒りも露わに躍りかかってくる。

 次はその胴体が真っ二つにされていた。


「ウガ?」


 巨体が地面に崩れ落ち、オーガはあっさりと絶命する。


「ど、胴体を斬った……?」


 オーガの胴体は太く、硬い背骨もある。

 それを輪切りにする難易度はゴブリンの比ではないはずだ。


 ――もっとも、俺ならその辺の棒切れでも可能だが。


「ああ……」


 すべてを思い出した。


「僕は――いや、俺は勇者だった」


 当時、史上最強の勇者と言われていた男。

 そして今でもその評価は変わっていないらしい。

 伝説となった百年前の英雄である。


「……なるほど。どうやら生まれ変わったみたいだ」


 あの夢はただの夢ではなく、前世の記憶だったのだ。


 リオンはオーガを斬った剣へと視線を落とす。


「大した剣じゃないな」


 スネイルは勇者から賜った世界一の剣だと言っていたが、前世のリオンなら手に入れてもとっとと売り払っていたレベルのものだ。

 ちょっと大きな都市に行けば、この程度の剣は武器屋で普通に売っていた。


「……そう言えば、前世でこの辺りに来たことがある気がする」


 魔物の討伐を依頼されて、わざわざ足を運んだのだ。


 ただ、大した魔物ではなく、一瞬で終わってしまった。

 そのせいか、どんな魔物だったか、はっきり覚えていない。

 スネイルは強力な魔物だったとか言っていたが……。


 そのとき道案内をしてくれた村長の息子がいたのだが、何かやたらと物欲しそうな顔をしていたので、要らない剣をあげたのだった。


「もしかしてあいつが先祖なのか? 一緒に戦ったどころか、魔物が現れるなり腰を抜かしていたが……」


 どうやら百年の間に随分と脚色されたらしい。








「り、リオン!?」


 リオンが森から出ると、兄たちは目を剥いて驚いた。


「無事だったのかっ? オーガはどうなった!?」

「オーガなら倒したぞ」

「は?」


 リオンの言葉が信じられなかったのか、一瞬呆けた後、スネイルたちは大声で笑い出した。


「ぎゃははははっ! お前なんかにオーガを倒せるわけねぇだろうが! きっと殺すまでもないガキだったからオーガも見逃してくれたんだろう! 運が良かったな!」


 弟を囮にしたことなど屁とも思ってないようだ。

 それどころか、リオンが手にしている剣を見て、


「よかった! 無くすところだったぜ!」


 礼すら言わずに引ったくろうとしてくる。

 弟のことよりよっぽど大事だったのだろう。


 リオンは少しイラっときて、兄の方へと無造作に放り投げた。


「な……っ? お前っ、投げるんじゃねぇよ!」


 慌ててキャッチしたスネイルは怒鳴り声を上げる。


「そんなに喚くなよ……うるさいから」

「ああっ? 何だ、お前、このオレに向かってその態度は! ぶん殴られてぇの――」

「ほら、これ」


 リオンはオーガの頭部も投げてやった。


「うおおおっ、なんだっ!? って、お、お、オーガの首ぃぃぃっ!?」

「まさか、本当に……?」

「う、嘘だろ……?」


 スネイルたちが驚愕している隙に、リオンはとっととその場を後にする。


「おい、一体どうやって――――いねぇ!? くそっ、あいつどこに行きやがった!」



2019年1月26に改稿いたしました。大まかなストーリーは変わってませんが、設定を結構いじっています。

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