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第27話 つい抱き着いてしまっても不可抗力

 翌朝、リオンたちは都市の外に集まっていた。


「普段は三人で乗っていますが……子供が三人増えただけなら問題ないでしょう」


 アンリエットが馬車を用意していた。

 真っ白い体躯の大柄な馬で、頭に一本の角がある。


「ユニコーン?」

「はい。シェアという名前で、普通の馬の数倍の馬力があります」


 よく調教されているようで、ユニコーンは凛とした態度で乗り込むのを待っている。


 中は広く、安宿の一室よりよほど快適そうだった。

 ユニコーンならば一時間くらいで目的地に着くという。


「美少年と密閉空間に一時間……ハァハァ」

「ロリショタと相乗り……揺れた拍子につい抱き着いてしまっても不可抗力」

「……二人は一番後ろに座ってください」


 よからぬことを考えていた二人は、アンリエットによって後方に追いやられた。


 ともかくこうしてレジーナに向けて出発した。






 話に聞いていた通り、レジーナは小さな村だった。


 まずは一番大きな屋敷に住んでいる村長のところへ。

 五十歳ぐらいの男性だ。


「あ、アンリエット様!?」


 アンリエットを見て驚いていた。


「まさか、あなた様が依頼を引き受けて下さったのですか……? しかし、見ての通り、温泉が湧く以外に名産もない小さな村です。十分な報酬を支払えるとは……」

「いえ、私たちは休暇がてら、彼の付き添いで来ただけですので」


 村長はほっとしたように息を吐く。

 リオンはギルド証を見せながら、


「依頼を引き受けたDランク冒険者のリオンです。詳しいことを聞かせてくれますか?」

「は、はい」


 一瞬、こんな子供が? という顔をしつつも、村長は説明してくれた。


 依頼書に書いてあった通り、ここ最近、村の周辺に魔物がよく出没するという。

 少し行ったところに森があるのだが、本来ならそれらの魔物はこの森に生息していて、めったに森から出てこないらしい。


「なるほど」

「森で何か起こっているのかもしれませんね」


 早速、調査に向かうことにした。


「ですが、この広い森を探索し、原因を突き止めるのはなかなか骨が折れそうですね」


 森の入り口で、アンリエットが言う。


 この依頼に人気がなかったのは、この村までの移動に時間がかかること。

 そして森の調査という、ゴールが曖昧なものであることが大きいだろう。

 下手をすると何日も森を彷徨った挙句、何も見つからない可能性もある。


 ただ【盗賊王】を極めたリオンにとって、こうした調査系の任務は得意種目の一つだ。


「心配しなくていい。わたしのジョブは【斥候スカウト】」


 そう得意げに言うのはティナだった。

【斥候】はクラスⅡで、クラスⅠの【狩人】から索敵や探索能力へとスキルを特化、あるいは強化させたようなジョブである。


「だからロリとショタを発見・観察するのが得意」


 むしろ別の意味で心配だった。

 絶対に取らせてはいけなかったジョブなのではないだろうか。


 ちなみに他の二人は、アンリエットがクラスⅡの【剣姫】で、カナエが【魔導師】らしい。

 冒険者ランクはアンリエットがAで、カナエとティナがBだった。


「もちろん魔物を見つけるのも得意」

「普通はそっちがメインだと思うけど……」


 さすがのリオンも呆れ顔でティナにツッコミを入れる。


「ですが、本当に連れてきて大丈夫だったのですか?」


 アンリエットが双子を見ながら言う。


「やはり村に置いてきた方が……」


 双子がリオンにぎゅっと抱き着いてきて、ティナが「羨ましい」と呟いた。

 実は村を出発するときにも同じ話をしたのだが、「「いや!」」と言って絶対に離れようとしなかったのだ。


「大丈夫だよ。こう見えて普通の子供じゃないから」

「ていうか、じぶんかて立派な子供なんやけどな?」


 森の中へと足を踏み入れる。

 アンリエットが先頭に立ち、リオンたちが歩きやすいよう、剣で草木を払ってくれた。


 変人ばかりのパーティだが、リーダーの彼女だけはまともなようだ。


「……奇妙ですね」


 随分と森の奥深くまで進んだ頃、アンリエットが呟いた。


「せやな。こんなに森の中まで来たっちゅうのに、まるで魔物に遭遇してへん」


 カナエもそれに同意する。


「ティナ、どうですか?」

「まだ魔物の気配はない」

「やはり何らかの異変が起こっているようですね」


 いくらこの時代では魔物の数が減っているとはいえ、森の中でここまで遭遇しないというのはおかしいだろう。

 彼女たちの言う通り何らかの異変が起きているようだ。


 リオンの探知スキルにもさっきから魔物は一匹も引っかかっていない。


(……口笛を使って誘き寄せてみるか)


「ひゅー」


 するとその直後のこと。

 リオンは巨大な魔力が近づいてくるのを察知した。


「気をつけて。魔物が来るよ」


 まだ五百メートルほど先だ。

 しかし猛スピードでこっちに近づいてくる。


「方角は南東かな」

「ほ、本当ですか? ティナ?」

「……? そんな気配はない」


 ティナが首を傾げた。

 どうやらまだ彼女の索敵範囲には引っかかっていないらしい。


 数秒後、ようやく彼女も気づいたようで、


「っ! 来た。確かに南東」

「えっ? ほんまに? まさか【斥候】のティナより先に察知したんか……?」

「それより今は魔物です! みんな気を付けてください! かなりの大型です!」


 アンリエットがそう注意を促した直後、バキバキと木々をなぎ倒しながらそれが姿を現した。

 巨大な蜘蛛だ。

 体高は二メートル、長い脚まで含めると横幅は十メートルあるだろう。


「こいつ……ビッグタラントラやん!」

「っ……突っ込んできます!」

「う、うちに任せとき!」


 カナエが魔法を唱える。

 すると地面が大きく盛り上がり、巨大蜘蛛の前に分厚い土壁ができあがった。


 さすがに大きいだけあって蜘蛛特有の身軽さには欠けてるのか、そのまま土壁に激突した。

 土壁は崩壊してしまったが、引き換えに突進を止めることができた。


「リオン君たちは下がっていてください! この魔物は私たちが何とかしますので!」


 アンリエットはそう叫ぶと、崩れた土壁を踏み台にして巨大蜘蛛に躍りかかった。


「はぁぁぁぁっ!」


 巨大蜘蛛は咄嗟に前脚でガード。

 だがその腕ごとアンリエットの剣が蜘蛛の頭部を斬り裂く。


「お姉ちゃんたち、今度は小さいのがたくさん来るよ」


 そこでリオンは別の魔物の接近を検知した。


「……またわたしより早い」

「んなことより、ほんまか!?」

「間違いない。わたしも今、察知した。数は十、二十……やばい、もっといる」

「やばいやん! アンリエット!」

「わ、分かってます! ですが、糸がっ……」


 蜘蛛の糸が身体に絡みつき、アンリエットは必死にそれを剣で斬っているところだった。

 負傷した巨大蜘蛛は相手を脅威と見たのか後退し、まずは蜘蛛の糸で相手の動きを奪おうと考えたのだろう。


 すぐにそいつらが現れた。

 子蜘蛛――タラントラだ。


 子蜘蛛と言っても、ビッグタラントラと比べたらの話で、人間よりもずっと大きい。

 一体一体は上級冒険者であるアンリエットたちからすれば大した敵ではないが、


「……多勢に無勢。ピンチ」




2019年1月26に改稿いたしました。大まかなストーリーは変わってませんが、設定を結構いじっています。

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