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第23話 何でこんなところにいたんだ?

「――リヴァイヴ」


 目を開けてられないほどの光が降り注ぎ、女の子の全身に降り注ぐ。

 やがて光が収まったとき、彼女の怪我はすべて癒えていた。


 いや、怪我だけではない。

 一度は肉体から離れ、天に召されかけていた魂も再び身体へと戻ってきていた。


 リヴァイヴは最高位の回復魔法である。

 死んだ人間すらも生き返らせることができ、前世でもごく少数しか使い手はいなかった。


 ただし死んで時間が経つと生き返る確率は急激に下がっていく。

 この女の子は死んだばかりだったことが幸いした。

 身体の温かさから考えて、恐らくほんの数分前のことだろう。


「あう……?」


 男の子はぽかんとしている。


「どうだ? 怪我の方もちゃんと綺麗になっただろ」

「……」


 次はこっちの怪我を治してやらないとなー、と男の子を見ながらリオンは考える。

 だがまた暴れられると面倒だ。


「スリーピング」


 催眠魔法を唱えると、すぐに男の子の瞼が閉じかける。


「っ!?」


 一度は慌てて瞼を開き、耐えようとしたようだったが、それも僅かな間だった。

 よっぽどの耐性がなければ、リオンの催眠魔法を防ぐことなどできない。


「ヒール」


 リオンはすやすやと眠る男の子に回復魔法をかける。

 それから野宿用の毛布をアイテムボックスから取り出すと、女の子と一緒にくるんで寝かせてやった。


「兄妹かな?」


 こうして並べて見てみると、そう思えるくらいに二人の顔つきはよく似ていた。

 そしてくすんだ銀色の髪から三角形の耳が飛び出している。

 恐らく猫の獣人だろう。


「しかし何でこんなところにいたんだ?」


 起きたら訊いてみることにしよう。







 二時間ほど寝ていただろうか。

 最初に目を覚ましたのは女の子の方だった。


「……?」


 状況が掴めないのか、寝ぼけているのか、しばし目だけをきょろきょろと動かしていたが、リオンと目が合った。

 その瞬間、慌てて身体を起こす。


「う~っ!」

「そう警戒するな。助けてやったんだぞ」

「……おきる!」


 女の子が横に寝ていた男の子を叩く。


「てき!」

「……っ! う~っ!」


 今度は目を覚ました男の子がリオンを見て威嚇の声を上げた。

 助けてやったのになー、とリオンは嘆息する。


 ひとまず警戒を解かなければならない。

 それには自分が敵ではないことを示さないといけないだろうとリオンは考える。


(……そうだ)


 思案していると、ふと天啓が降りてきた。


 子供はきっと面白い大人になら気を許すに違いない。

 ならば面白いことをして笑わせてやろう。


(さあ、括目して見るがいい。俺の必殺――)



「――変顔」



 リオンは手の指で目尻を下げたり鼻の穴を広げたりして、面白い顔を作った。

 初挑戦だが、渾身の一作だった。

 きっと二人とも笑い転げるに違いないと、リオンは期待する。


「「……」」


(おかしいな?)


 なぜか二人ともきょとんとしていた。

 笑う気配は微塵も感じられない。


 だがこの程度で諦めるリオンではなかった。

 変顔を維持したまま、自分でもよく分からない謎のダンスを踊り始めた。


 時に腰を振り、時にお尻を突き上げ、怪しい動きを繰り返す。


「「~~~~っ」」


 やがてその努力が実ったのか、口を真一文字に閉じながらも唇がぷるぷる震え出す二人。

 これは笑いを我慢している感じだ。


 あともうひと押しだ。

 リオンはお尻を突き上げると同時、


 ぶっ!


 屁をこいた。


「「ぶふっ!」」


 ついに二人が我慢できずに噴き出した。


(よし、もっと行くぞ)


 ぶっ!

 ぶっ!

 ぶっ!

 ぶーっ!

 ぷ~っ!


 時に大きさや音の調子を変えながら、リオンは屁を連発する。


「あははははっ!」

「ぶぶぶ~っ!」


 二人ともツボにはまったらしく、警戒するのも忘れて笑い転げている。


(さて、今の隙にスープを入れてやろう)


 アイテムボックスの中から土鍋を取り出す。


 この森で捕まえた猪の骨を粉々に砕いて出汁にし、そこへ猪肉や山菜、それからキノコなどを入れた簡単なスープだ。

 時間が経過しないアイテムボックスに入れておけば、熱々のまま保存することができた。


「「……じゅるり」」


 匂いを嗅いで、涎を垂らしている。

 二人のお腹から、くー、と可愛らしい音が鳴った。


「食べるか?」

「「……」」


 かなり警戒は解けたらしいが、さすがに見知らぬ相手の作ったものをすんなり口に入れるところまではいかないようだ。


「心配するな。毒なんて入ってないから」


 そう言いながらスープを二人の前に置いてやる。

 すると恐る恐る近づき、何度か匂いを嗅いで、それからようやく飲み始めた。


「「ん~~っ!」」


 どうやら美味しかったらしい。

 目を見開いて互いに顔を見合わせた後、それから一気に飲み干してしまった。


「おかわりするか?」

「「ん!」」


 結局、二人はそれぞれ三杯ずつも食べ切ってしまった。


 満足して警戒心が解けたところで、訊いてみる。


「俺はリオン。冒険者だ。スープの対価代わりに教えてくれ。お前たちみたいな子供が何でこんなところにいたんだ?」

「えと……」

「んと……」


 二人はあまり言葉をしゃべれないようだったが、それでもたどたどしいながら経緯を教えてくれた。


 二人は兄妹……というか、恐らく双子だという。

 恐らくというのは、親がいないので分からないのだとか。


 町の貧民街で暮らしていたそうだが、ある日、奴隷商人にまんまと騙され、誘拐されてしまったらしい。


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