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第20話 たぶん疲れていたんだと思う

 魔物を片付け終わったのでゼタを起こした。


「はっ? アタシは一体何を……?」


 周囲を見回し、ゼタは目をぱちくりさせる。

 どうやら寝ている間に正気に戻ったようだ。


 ちなみに魔物はほぼすべて灰となっていたので、風魔法を使って掃除、もとい吹き飛ばしたので辺りに死体は一切残っていない。


「心配しなくていいよ。突然、意識を失っただけだから」

「いやそれ結構ヤバいよな!?」

「たぶん疲れていたんだと思う」

「だからって急に気絶するか!? ま、待てよ? 何か恐ろしいものを見たような……」

「……思い出さない方がいいと思うけど」

「何があったんだ!? 怖すぎる!」


 本人は頭を抱えてはいるが、リオンはひとまず元気そうだなと判断して、改めて地上に戻ることにした。

 先ほどのイレギュラーの原因も分かっていないし、ゼタがこの様子では長居はしない方がいいだろう。


 と、そのときだ。

 ビキビキビキッ、と地面に亀裂が走った。


「……さっきの重みのせいか?」


 先ほどの魔物の大群で床が抜けそうになっているのかと推測している間に、亀裂は部屋中に広がっていた。


「ちょっ、これまさか……」

「気をつけて。抜ける」


 そう注意を促した直後、一気に地面が崩落した。


「ぎゃああああああっ!?」


 突然の自由落下にゼタが悲鳴を上げる。

 リオンは咄嗟に彼女をお姫様抱っこすると、十メートルほどの距離を落ちた後、軽々と着地を決めた。


「~~~~っ!」

「?」


 慌てて腕から降りるゼタをリオンは不思議そうに見てから、周囲を見回した。

 どうやら下の階層に落っこちてしまったらしい。


 広々とした空間だ。

 薄暗く、辺りにはおどろおどろしい気配が漂っている。


 リオンはその気配の発生源へと目を向けた。


 そこにいたのは巨大なドラゴンだった。

 翼はなく、流線型の細長い体躯をしている。

 禍々しい色の鱗からは毒々しい蒸気が漂っていた。


 リオンはそのドラゴンの名を知っていた。


「……毒竜ファフニール」


 リオンは前世のことを思い出す。

 この毒竜は勇者だったときのリオンが討伐した魔物だった。


(そうか)


 戦った場所は、ちょうどこのダンジョンの位置。

 隕石が落ちて地面が抉れたようになっていたが、あれはまさにリオンが放った必殺スキルの痕だった。

 道理で何となく見覚えがあるなと思っていたわけだと、リオンは得心する。


(あれで確実に仕留めたと思っていたんだが……生きていたのか)


 ダンジョンができたのはこのドラゴンのせいだろう。

 ドラゴンの中でも最上位クラスの膨大な魔力は、確かにダンジョンを生み出し得るほどのものだった。


「つまりお前がこのダンジョンの主――ボスってことだな」


 そして先ほどのイレギュラーを起こしたのもこのドラゴンの仕業だろう。


「って、大丈夫、ゼタお姉ちゃん?」

「……ボス……ボスが出た……しかもファフニール……大災害級の魔物……もう終わりだ……絶体絶命だ……」


 ゼタは再びメンタルの限界に達したようで、


「あばばばばばばばばばばばばばば!」


 壊れた。


「また眠らせるか」

「ぐー」


 眠ったゼタをスーラに任せて、リオンはそのドラゴンと対峙する。


「久しぶりだな。百年ぶりか? まぁ俺的には数か月前に倒したばかりって感じだが」


 リオンが声をかけると、ファフニールが凄まじい殺気をぶつけてきた。


「ソノ魔力、間違イナイ、ヤハリお前ダァッ!」

「なるほど、魔力で判別したのか。道理で見た目が変わっているのに俺だと分かったわけだ」

「殺スッ、殺シテヤルッ、今度コソ殺シテヤルゥッ!」

「……前はもうちょっとちゃんと会話できたんだがな?」


 毒に侵された生き物が苦しみながら死んでいく様子を観察するのが大好きというイカれたドラゴンだったが、それでも会話は成立していたはずだ。

 百年の間に知能が低下してしまったらしい。


「死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネェェェェェッ!」


 ファフニールが雄叫びとともに躍り掛かってきた。


「生憎それはお前の方だ。今度こそ確実に葬ってやる」


 リオンを食らわんと迫ってきた咢をジャンプして躱すと、ファフニールの脳天に全力の拳を叩き込む。


 ずごんっ!


 先ほど五百匹の魔物を殲滅してさらにレベルが上がったことで、リオンのステータスはさらに強化されていた。

 ファフニールの頭部が地面に激突する。


 だがファフニールは何事も無かったかのようにすぐさま起き上がると、再び襲い掛かってきた。


「やっぱ徒手空拳じゃキツイな」


 前世では苦もなく倒したものの、ドラゴンの中でも上位に君臨しているほどの魔物である。

 かなり力が戻ってきたとはいえ、さすがに剣なしでは荷が重い。

 剣の素材は手に入ったが、生憎と剣の方はこれからだ。


「なら魔法だ。――アイスレイン」


 降り注いだのは大量の氷刃だ。

 それがファフニールの全身に次々と突き刺さる。


「効いていない?」


 しかしファフニールは氷刃をまともに浴びても痛がる様子すらなく、構わず突進してきた。


「効カヌ効カヌ効カヌゥゥゥッ!」


 直後、猛毒の息が吐き出される。


「ハリケーン」


 リオンは素早く魔法で豪風を生み出し、それを吹き飛ばす。


「エンチャント――完全毒耐性」


 さらに念のため補助魔法で自分に毒への耐性を付与。

 ファフニールの猛毒は非常に厄介で、少しでも吸い込むと意識を失ってしまうほどのものなのだ。


 ちなみにスライムは毒が利かないし、そのスライムに全身を覆われて寝ているのでゼタも大丈夫だろう。


(しかしどういうことだ? こいつ、痛みを感じてないのか?)



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