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第185話 お安い御用ですよ

「あ、あれは……っ!?」

「ま、まさか……っ!」


 エド城の頂上から富士を望みながら、イエトキとヒデタツの両将軍家当主はそろって真っ青になった。


 遥か遠くの富士の麓。

 そこから蚯蚓のようにうねる影を、肉眼でも確認することができたのだ。


「ヤマタノオロチぃぃぃぃぃ……っ!?」

「ふふふっ、復活してもうたぁぁぁぁぁ……っ!」


 この距離だから蚯蚓のように見えるが、富士との縮尺を考えれば、実際には恐ろしく巨大だ。

 あんなものがエドやオオサカの街で暴れ回ったら一溜りもないだろう。


 復活してしまったら、もはや対処のしようがない。

 今この世に、ヤマトタケルはいないのだ。


「終わった……わしの人生……」

「それどころやない……ヤマトの終わりや……」



   ◇ ◇ ◇



「「「グルアアアアアアッ!!」」」


 どうやらヤマタノオロチの各首は、倒しても再生し、何度でも復活するようだった。


『ど、どうするでござる!?』

「……すべてまとめて倒してみるか」


 全首が同時にやってしまえば、再生ができなくなるかもしれない。

 そう一縷の望みに賭けて、リオンは残る体力と魔力を振り絞って一気に畳みかけた。


 しかし――


「ダメか」


 すべての首を同時に破壊したにもかかわらず、すぐさま再生を開始してしまった。


「だいたい【食帝】の目で見ても、こいつの調理法、もとい、倒す方法がよく分からないんだが。弱点がないというか……」


 七本の首、そのどこにも急所らしき部分が存在していないのだ。

 もし可能性があるとしたら、未だ地中に埋まったままと思われる根元の方だろう。


『む? 七本の首でござるか……? 待て。こやつはヤマタノオロチでござろう?』

「ん? そうだが?」

『ヤマタというのは、この国で八つに枝分かれしているという意味でござるよ!』

「なに? ということは、こいつは首が七本じゃなくて、八本あるってことか?」

『そうなるでござるよ!』


 恐らくその七本目の首は地面の中だ。


「ようやく追いつきました!」

「ちょうど良いところに来たな」

「って、何ですか、この化け物は!? これがヤマタノオロチですか!?」


 そこへ遅れていたシルヴィアがやってくる。


「ちょっと体力と魔力を消費し過ぎた。回復を頼む」

「それくらいお安い御用ですよ!」


 ポーションを使うよりも早いと、彼女に回復をお願いする。


「ポーションをいちいち飲まなくて済むなんて、便利なアイテ――仲間だな」

「今、私のことアイテムって言いませんでした!? リカバリー」


 抗議しながらも、きっちり仕事を果たすシルヴィア。


「……よし、まずは地中から引っ張り上げるか。グラビティ・リバース」


 体力と魔力が完全回復したリオンは、再生中のヤマタノオロチへ重力魔法を放つ。

 すると巨体が勝手に地面から浮き上がり始めた。


『何でござるか、この魔法は!?』

「一時的に重力を逆転させる魔法だ。……見えてきたぞ」


 七本の首が絡まり合う根元部分が地面からせり上がってくる。


「む? ちょっとつっかえてるな」


 リオンは直接その首根っこを掴むと、大根でも抜くような感じで勢いよく引っ張り上げた。


「な、なんて大きさでござるか!?」

『これが八本目の首ですか!?』


 驚きのあまりシルヴィアとキサラギの言葉遣いがひっくり返る。


 地上へ新たに姿を現したその部分は、これまでの首七本分を合わせたよりも巨大なドラゴンの頭部だった。

 でっぷりとした感じの見た目はむしろガマガエルなどに近く、その背中辺りから七本の首が伸びているのである。


「グルアアアアアアアアアアアアッ!!」


 まだ寝ていたところを無理やり引っ張り出されたためか、非常に機嫌が悪そうだ。

 七本の首もほぼほぼ再生を終えて、一斉に咆哮を轟かせている。


「こ、こんなの、どうやって倒すでござるか!?」

『もはや人間が叶う相手ではないですよ!』

「……まだ入れ替わってるぞ?」


 その八つ目の首が大きく口を開けた。

 そこから吐き出されてきたのは、猛烈に渦巻く暴風――竜巻だった。


「~~~~っ!」


 まともにそれを浴びて、高速回転しながら吹き飛ばされるリオン。

 竜巻は樹海の木々を何百、何千本も一瞬で薙ぎ倒し、さらには津波を生み出しながら湖の上を駆け抜けていった。


「……物凄い威力だな」


 リオンはというと、途中で強引に竜巻から抜け出していた。

 それでも身に付けていた衣服がズタズタに引き裂かれてしまっている。


「「「グルアアアアアアアアアアアアッ!!」」」


 リオンの無事を確認して、迫りくるヤマタノオロチ。

 対してリオンは、キサラギの剣を構えて腰を落とし、それを真っ向から迎え撃つ格好だ。


「だ、大丈夫ですか!?」

『あれはさすがに無理でござろう!?』

「心配しなくていい。すでに奴の心臓の位置は分かっている」


 八本目の首が地上に出てきたことで、リオンはその急所を完全に見切っていた。

 闘気と魔力を極限までキサラギに集束させ、襲いくる怪物を待ち受ける。


 七本の首が同時にブレスを放ってきた。

 その瞬間、リオンは大地を蹴って、ブレスを逃れる――だけでなく、敵の懐へと飛び込んでいく。


 そこは八本目の眼前だ。

 牙を剥き、リオンを呑み込まんとするそれに抗うことなく、もはやその巨大な口腔の中へと自ら身を投げ入れ、


「――クロス・メテオブレイク」


 放ったのは、かつて魔王との戦いを制した最強の一撃だった。


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