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第182話 一足遅かったかもしれないね

「じゃあ、とりあえずエドに行ってくるね。もしかしたら奪われる前にどうにかできるかもしれないから」

「え、エドに!? 何日もかかってまうで!?」

「大丈夫。たぶん数時間もあれば十分だから」

「数時間!?」


 驚くヒデアツを余所に、リオンは言う。


「皆には伝えといてよ。あと、お殿様を連れてくね」

「へ? わし?」


 未曽有の事態に焦るばかりだった当主ヒデタツが、目を丸くして自分の顔を指さす。


「その方が向こうの殿様と話が付きやすいでしょ。スーラ」

「はいなのー」

「な、何やこのスライムは!?」


 スーラが身体を大きくし、ヒデタツに覆いかぶさった。

 スライムの中に閉じ込められるヒデタツ。


「その中にいたら安全だから」

「い、一体何を……っ!?」


 リオンは大きくなったスーラごとヒデタツを抱えると、最上階の窓から外へと飛び降りた。


「うああああああああああああっ!?」


 スーラの中から籠った悲鳴が轟くが、リオンは意に介さず、地面に易々と着地する。

 そのときにはすでに足元にいつもの土船が完成していた。


 甲板の上にヒデタツ入りスーラを置いて、


「全力で飛ばすから。落ちないとは思うけど、落ちてもスーラがちゃんと衝撃を吸収してくれるはずだよ」


 いきなり頭上から降ってきて周囲はざわついている。


「なぁあれ、ご当主様やないか!?」

「ほんまや!? ご当主様が拉致された!?」

「あー、詳しいことはヒデアツのおじさんに聞いてね」


 次の瞬間、凄まじい速度で船が発進した。

 あっという間にオオサカ城内を飛び出し、オオサカの街中を滑るように走り抜け、人の少ない農村部へ。


「ひいいいいいいっ!? 船がっ、船が陸上を走っとるうううううっ!?」

「街を出たからもうちょっとスピード上げるね」

「まだ上がるんや!?」

「でもその中にいたら振動とか少ないでしょ?」

「い、言われてみたら……」


 一方のリオンは先ほどから猛烈な風を全身に浴びている。

 並の人間では一秒たりとも立ってはいられないだろう。


「じぶん、一体何者なんや……」







 やがてエドの街が見えてきた。

 オオサカに勝るとも劣らない活気のここは、トクガワ家が治めている。


「まだ神器が無事ならいいんだけど」

「すうすう……」

「……もうすぐ着くからそろそろ起きてね?」


 最初こそ怯えていたヒデタツだったが、途中からすっかり慣れてしまったようで、完全に眠り込んでしまっていた。

 スーラの身体の中は気持ちいから仕方がない。


 リオンはエド城の前で土船を停止させた。


「ついたのー」

「むにゃむにゃ……もう朝……?」


 スーラが体内からヒデタツを吐き出し、地面に転がす。

 ようやく目を覚ましたヒデタツは、眠そうに欠伸を噛み殺した。


「って、エド城やん!?」

「うん、着いたよ」

「もう着いたんか! 早過ぎやろ!」


 驚くヒデタツの声が響き渡り、次々とサムライが集まってきた。


「おい、何者だ!?」

「ここはエド城だぞ! 怪しい者は……っ!? そ、その古臭いチョンマゲに、猿のような顔は……まさか!?」


 ヒデタツの特徴的な容姿からサムライの一人がその正体に気づいたようだ。


「誰が猿や! わしはトヨトミヒデタツ! 重大な話があって、わざわざオオサカから来たんや! イエトキ公に合わせい!」

「は、はいっ!」


 やっぱり連れてきてよかったと思いながら、エド城内へ堂々と入っていくヒデタツの後にリオンは付いていく。


 そしてトクガワ家の当主が住む本城まで来たときだった。


「む? 何やら騒がしいな?」

「これは……一足遅かったかもしれないね」







「ヒデタツ公!? な、なぜここに……っ!?」


 トクガワ当主イエトキは、狸によく似た男だった。

 いきなり大阪にいるはずのトヨトミ当主が姿を現したので、驚きのあまりひっくり返りそうになっている。


「……その様子やと、すでに神器を盗まれたようやな」


 ヒデタツは大きく溜息を吐いた。


「っ!? そそそ、そんなわけないだろうっ!? 神器は将軍家の正当性を証明するもの! 盗まれたりするわけがないっ!」


 滝のような汗を吹き出しながら必死に否定するトクガワ当主。

 その目は完全に泳いでおり、嘘を吐くのが死ぬほど下手くそな性質らしい。


「隠さんでもええ。実はな、わしんとこもニンジャどもにやられてもうたんや」

「な、なんやと?」

「これで四つの神器、すべてを失ったことになる……。せやけど、最大の問題はそこやない。実はな、奴らの目的が分かったんや」

「奴らの目的……?」


 それからニンジャから吐かせた話をすると、イエトキは絶句した。


「そ、そんな……ヤマタノオロチだと……?」

「本当なら大変なことになるで。封印を解かれる前になんとかせえへんとあかん。で、ヤマタノオロチの伝承の多くは、このトクガワ領周辺で残っとる。ということは、じぶんとこやったら、何か役立つ情報が残っとるんちゃうか?」


 リオンが無理やりにもヒデタツを連れてきたのは、エドであればヤマタノオロチについての詳しい情報を得られるかもしれないと聞いたからでもあった。

 さすがにどこの誰とも分からない少年だけでは、信用してもらえないだろう。


 もし封印された場所が特定できるならば、ニンジャに先回りすることができるかもしれなかった。


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