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第181話 右手上げて

「ああ……神器が……トヨトミ家もこれでお終いや……」


 がっくりと項垂れている当主ヒデタツを余所に、リオンは毒で自害してしまったニンジャから黒い頭巾を剥ぎ取った。

 現れたのはヤマト人らしい特徴を持つ男の顔だ。


 息はしておらず、やはり完全に死んでいる。

 神器をどこに持ち去ったのか、何に使うつもりなのか、問い詰めることもできない。


 他のニンジャたちも同様だった。

 敵に情報を与えないため、あらかじめこうするように訓練されていたのだろう。


「サムライといい、すぐ自害し過ぎでしょ」


 呆れたように言いつつ、リオンはそんな相手の意図をぶち壊すように、その魔法を使った。


「――リヴァイヴ」


 蘇生魔法である。


「ん……あ……」


 死んだはずのニンジャが目を開く。


「起きた? おはよー」

「っ!? な……ど、どういうことだ!? 私は確かに死んだはず!?」

「そんなに楽に死なれても困るんだけど」

「くっ……こんなはずは……」


 縋るように何度もカチカチと歯を鳴らしている。

 仕込んだ毒を再び飲もうとしているのだろうが、生き返らせる前に綺麗に洗浄しておいたので残ってはいないはずだ。


 ならばと舌を噛み切ろうとしたので、その前に口の中に先ほど剥ぎ取った頭巾を突っ込んでやった。


「もごもご」

「で、神器をどこに持ち去ったの?」

「……」


 誰が白状するかという顔で、リオンを睨み上げてくる。

 腹を何度か蹴ってみた。


「あがっ……ぐほっ……」


 だがその瞳に宿る強い意志、いや、狂気的な精神性は、まるで揺らいだ気配がなかった。

 これは口を割らせるのはなかなか大変そうだなと考えたリオンは、


「シルヴィア、憑りついちゃって」

「任せてください!」

「っ!? な、何だ……っ? 何かが私の中にっ……」


 男の身体の中へと入り込むゴーストのシルヴィア。

 リオンは命じる。


「はい、右手上げて」


 男が右手を上げた。


「右手下ろして、左手上げて」


 男が今度は左手を上げる。


「か、身体が、勝手に……」

「身体だけじゃないよ。……神器をどこに持って行ったの?」

「はっ、何度問おうと無駄だっ! 絶対に話しは……あばばばばっ!?」

「どこに持って行ったの?」

「……知らない……末端の私は……知らされていない……」


 一瞬白目を剥いたかと思うと、不意にその口振りが変わる。

 男に憑依したシルヴィアによって操られているのだ。


「うーん、どうやら本当に知らないみたい。じゃあ、神器を奪ってどうするつもりなの?」

「四つの神器は……封印を……解く鍵……」

「封印? それは何の?」

「ヤマタノ……オロチ……かつてヤマトタケルによって……封印された……怪物……」

「ヤマタノオロチ?」


 先ほどからずっと嘆いているだけだったヒデタツが、それを聞いていきなり叫んだ。


「や、ヤマタノオロチやと!?」

「知ってるの?」

「もちろんや! ヤマタノオロチっちゅうたら、神話に登場するバケモンやで! 八本の首を持つ巨大なドラゴンで、天帝家の祖先のヤマトタケルに封印されるまで、街という街を破壊しながら暴れまくったっちゅう話や! その痕が今でも島のあちこちに残っとる! オオサカにも信じられへんような爪痕が見つかっとるで! ま、まさか、その封印を解くやって……っ!」


 ヒデタツの顔が真っ青になる。


「そのヤマタノオロチを復活させる鍵が、各将軍家に保管されている四つの神器ってわけね。でも、復活させてどうするつもりなの?」

「くくく……ヤマタノオロチは……再び暴れ回るだろう……ヤマト国は……もはや……終わりだ……」


 シルヴィアに憑りつかれたニンジャの男が、不意に感情を見せて笑い出した。

 ヒデタツが激昂して問い詰める。


「そんなことして何が目的なんや!」

「復讐だ……っ!」

「ふ、復讐やと……っ?」

「戦乱の時代……我らニンジャは……貴様ら武将どもに……使い潰され……挙句、戦いが終われば、もはや不要と……捨てられた……」

「っ……」


 何か心当たりがあったのか、ヒデタツが息を呑む。


「わ、わしら将軍家の先祖は……泰平の世に、ニンジャのような集団を残しておいては危険やと……ニンジャ狩りを行ったっちゅう話が、記録に残っとるが……せやけど、それどんだけ昔のことやねん! とっくに時効や、時効っ! 今の時代を生きるわしらが、何で百年以上も昔のことで復讐されなあかんねん!」


 話しながら理不尽なことだと思ったらしく、ヒデタツは声を荒らげて怒鳴りつける。

 しかし今度はニンジャが声を張り上げた。


「時効などあるものかっ! 我らニンジャがかつて受けた苦しみと屈辱は……っ! 貴様らに復讐するまで、永遠に我らの血を流れ続けるのだ……っ!」


 憑りついているシルヴィアの制御が効かなくなったのか、ニンジャはヒデタツに躍りかかる。

 リオンはすかさずその腰を殴りつけた。


「がっ……」


 悶絶して転がるニンジャ。

 だがすぐに勝ち誇ったように笑い出した。


「くはははっ! どのみちもう時間の問題だ……っ! 間もなくエドの神器も奪われるだろう! そうすれば四つの神器が揃い、この国は終わりだっ! はははっ! はははははははっ!」


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