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第180話 よくぞ見破ったな

「んなアホな! 神器は隠し部屋にあるはずや! 鍵はわしが隠し持っとる! 奪えるはずがないやろ!」


 トヨトミ家の当主ヒデタツが、顔を真っ青にして叫ぶ。


「し、しかし相手はニンジャ、誰にも見つからずに忍び込み、すでに神器を盗み去った可能性も……」

「くっ! そんなことあって堪るかいな!」


 そう声を荒らげると、ヒデタツは一目散に走り出す。

 その先にあったのは上階に続いていると思われる階段だ。


 何度か転びそうになりながらも階段を駆け上がっていくヒデタツ。

 控えていたサムライたちはそれを追いかけた。


「わ、わしらも行ってみるで!」


 弟のヒデアツととともに、リオンもその階段を上っていった。


 階段を上り切った先は板張りの通路があって、襖と呼ばれるヤマト式の扉でその先と仕切られていた。

 今はその襖が開け広げられている。


 襖の先にあったのは黄金の茶室だ。

 壁や天井が金箔で埋め尽くされたそこは、普段は当主と親しい者たちだけが茶会を楽しむための場所である。


 ヒデタツが茶室の奥の襖を開けると、そこは不自然な色の壁になっていた。


「よし、扉は壊されとらんな! まぁ、ヒヒイロカネでできた扉や。壊すことなんて絶対できへんはずや。鍵も……ちゃんとあるわ!」


 ヒデタツが自分のちょんまげの中から鍵を取り出す。

 そんなところに隠してたのか……とリオンは思わずツッコみそうになった。


 その鍵を鍵穴に入れて回すと、ガチャリ、と音が鳴った。


 ヒデタツがその壁を押すと、ゆっくりと回転し始める。

 それほど広くないこの茶室には、どうやら隠し部屋が存在していたらしい。


 同じく黄金で塗り固められた小部屋の中央。

 そこには台座があって、その上に古びた剣らしきものが安置されていた。


「なんや! ちゃんとあるやないか! 驚かせてからに――」

「危ない!」

「へ?」


 ガキイイインッ!


 激しい金属音が響き渡った。

 それはヒデタツに振り下ろされようとした凶刃を、リオンが剣で受け止めた音だ。


 間髪入れず、その凶手の腹へ蹴りを叩き込むリオン。

 廊下まで吹き飛ばされていったのは、ヒデタツを護衛していたはずのサムライの一人だった。


 数センチ脇を掠めていったヒデアツが、「ひええ……」と呻きながらその場に尻餅を突く。


「ど、どういうことや?」

「たぶん、ニンジャが化けてたんだよ」

「なんやて!?」


 目を剥くヒデタツ。


「いつの間に!? お、おい、じぶんら、早くそいつを捕まえや!」


 慌てて他のサムライたちに命じるがそれに応じる者はいなかった。

 それどころか彼らが懐から取り出したのは、あまり見慣れない形の短剣――苦無だ。


「一人だけじゃない。多分ここにいる全員がニンジャだよ」

「なっ!?」


 次の瞬間、サムライたちが一斉に変身する。

 黒い装束に身を包む、無個性な集団へと早変わりしてしまったのだ。


「そんなアホな!?」


 そのニンジャたちが次々と躍りかかってくる。


『拙者の言った通りだったでござるな!』

「確かにな」


 自慢げに言うキサラギの剣を構えるリオン。


 忍刀を手に斬りかかってくる者もいれば、手裏剣と呼ばれる投擲武器を投げてくる者、鎖鎌で身動きを封じようとしてくる者など、その攻撃手段は多種多様だった。

 並の戦士ならそれだけで翻弄されていただろう。


 しかしリオンはそれらすべてを完璧に捌き切り、隙を突いて反撃していた。

 一人また一人とニンジャたちが茶室に転がっていく。


「す、すごいやんか!?」

「せやろ! わいの御手柄やで!」


 トヨトミ兄弟が感嘆する中、なおも激しい攻防は続く。


「……煙幕?」


 リオンの足元に投げられた謎の弾が炸裂し、猛烈な煙が辺りに充満する。

 視界を奪って有利に戦いを運ぼうという戦法だろうが、リオンにそれは効かなかった。


 気配だけでニンジャの動きを察し、変わらず対処していくリオン。

 しかし風魔法で煙を吹き飛ばして視界を確保したとき、当主ヒデタツがそれに気づいた。


「っ! 神器がっ!?」


 その高い隠密能力で一瞬の隙を突いたニンジャに、奥の隠し部屋への侵入を許してしまったのだ。

 そのニンジャが神器を台座から持ち上げた。


「無駄だよ」


 だがリオンはまったく焦ることなくそのニンジャに告げる。

 背後ではすでに残りのニンジャたちが、リオンの魔法によって身動きを奪われ、畳の上で倒れていた。


 最後のニンジャが神器を持って逃げようにも、唯一の出入り口にはリオンが立ち塞がっているのだ。


 しかし次の瞬間だった。

 ニンジャの姿が一瞬ブレたかと思うと、その手から神器が消え去っていた。


「神器が消えてもうた!? どういうことや!?」

「まさか、別のニンジャと入れ替わった……っ?」


 これにはリオンも驚きを禁じ得なかった。

 今目の前にいるニンジャは、明らかに先ほどまでいたニンジャとは別人だ。


「くくく……よくぞ見破ったな」


 ここに来て初めてニンジャが声を発した。


「今のは我らの秘技〝入れ替わりの術〟。すでに神器は奪い去った」

(入れ替わりの術! ネーミングがそのまんまだ!)


 リオンは内心で叫びつつ、そのニンジャに問う。


「神器を盗んで、どうする気なの? 何が目的?」

「……」


 どうやら教える気はないらしい。


「じゃあ、無理やり吐かせるしかないね」

「くく、無駄だ。……がはっ!」


 ニンジャが吐いたのは大量の血だった。

 さらに倒れていたニンジャたちも次々と苦しみ、悶え出す。


「毒か……」


 どうやら奥歯に毒を仕込んでいたようだ。

 これでは拷問もできない。


「……ま、関係ないけどね?」



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