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第179話 もちろん報酬は弾むで

「う、うそやん……あんな子供に……誰も手も足も出えへんなんて……」


 ヒデカツは唖然としていた。


 従姉であるカナエの挑発を受けて、屋敷に集められたサムライの一人と異国の銀髪少年が手合わせを行った。

 得物は木刀。

 あくまで軽く揉んでやるつもりで挑戦を引き受けたそのサムライは、しかし開始から僅か数秒で自分が挑戦する立場であることを悟る。


 結局最後まで軽くあしらわれて、あっさり一本を取られてしまったのだ。

 しかもよくよく見てみれば、銀髪少年はその場から一歩たりとも動いていなかった。


 そこから次々と他のサムライたちも挑戦していったが、誰一人として一本取るどころか、少年をその場から動かすことすら敵わず。

 カナエの挑発は挑発ではなく、ただの事実であることをヒデカツは理解したのだった。


『当然この程度のサムライでは、勇者リオンの相手にもならぬでござよ』


 キサラギがなぜか満足そうに言う。


「な、なんちゅう少年や! カナエが言うとったのは決して誇張やなかったわ!」


 感嘆するヒデアツに、カナエは提案した。


「せやろ。このリオンはんがおれば、ニンジャなんて怖くないで」

「うむ、そうかもしれへんな……よし! リオンはん、言うたか? 異国の少年にこんなこと頼むんもあれやけど、ぜひわしらに力を貸してくれへんか? もちろん報酬は弾むで!」

「……まぁ、別に構わないけど」


 急すぎて状況がいまいち呑み込めないが、この国の一大事だという話を聞いて、このまま立ち去るのも寝覚めが悪い。

 乗り掛かった舟だと思って、依頼に応じることにした。


「ほんまか? おおきにやで! せやったら、ここよりぜひ本城に行ってほしいわ! 当然、報酬はご当主様持ちや! なっはっは!」


 どうやらこの屋敷ではなく、当主のいる本城での警護任務が望まれているらしい。


「早速ご当主様んとこ行くから、付いてきてくれるか!」


 とはいえ、ぞろぞろと大人数で行くわけにもいかず、リオンだけが当主のところへ赴くこととなった。

 残りは双子やメルテラも含め、全員こちらの屋敷に残ることに。


「私は一緒に行きますよ!」

『拙者もでござる!』

「スーラもー」


 ただしゴーストと剣、そしてスライムは付いてくることになった。


「堪忍な、リオンはん」


 カナエが手刀を作りながら謝ってくる。


「うちも少しは実家の役に立ちたい思てな。リオンはんなら、ニンジャなんて幾ら来たところで問題ないやろ?」

「仕方ないなぁ」


 そうして当主の弟であるヒデアツに連れられ、リオンは緑の瓦屋根が美しい本城へとやってきた。

 屋根が五重のため五階建てに見えるが、実際には地上八階、地下一階となっているらしく、領主のトヨトミヒデタツは普段この七階にいるという。


 ちなみに最上階には黄金の茶室があるとか。


「へえ、これ木造なんだね」


 木造でこの高層物を建てるのは相当な技術が必要だろう。

 見たところ魔法が使われているわけでもなさそうだ。


 城内はやはり厳重な警備が施されていた。

 何だあの異国の少年は? という目で見られつつ、リオンはヒデアツとともに階段を何度も上って当主の元へ。


 そこはタタミと呼ばれるこの国独特の床材が敷き詰められた広大な部屋だった。

 サムライたちが静かに座し、当主の護衛に付いている。


「ヒデアツか。何の用や?」


 部屋の奥の高床、大きく虎の絵が描かれた壁を背景に、ヒデアツと同じくチョンマゲ頭の小柄な男が座っていた。

 何となく顔が猿に似ているが、どうやら彼が当主のヒデタツらしい。


 ヒデアツは、へへー、と床に膝を突いてから、これまでの経緯を説明した。


「……その異国の小童が凄腕の剣士やて? 子供にしか見えへんやろ」

「見た目に騙されてはあきませんで。実際にうちのサムライと試合させてみたんや」

「ほう、じぶんとこのサムライが誰一人として敵わんかったんか。そら、大したもんやな」


 そう賞賛しつつも、当主ヒデタツは不敵に笑った。


「せやけど、ここにおるんはいずれもオオサカ、いや、ヤマト中に名の知れたサムライたちや。ニンジャなんか何人来たとこで怖ないわ」


 当主からの信頼を受けて、傍に控えているサムライたちが誇らしげに胸を張る。


『……変でござるな』

「変?」


 不意にキサラギが呟き、リオンは小声で訊き返した。


『あのサムライたち……何となく違和感があるでござるよ。なんというか、サムライっぽくないというか……』


 なんだか要領の得ない答えだったが、これでも彼女は凄腕の女サムライだ。今は剣だが。

 その感覚は安易に無視できるものではないと、リオンは思う。


「し、しかし兄上、万一ということもありますがな。心強い味方は多い方がええかと」

「まぁ、じぶんがそこまで言うんならな。本城の周辺でも警備してもらおか」


 と、そのときである。

 階段を駆け上がってくる音が響いたかと思うと、男が慌てた様子で部屋に駆け込んできた。


「ヒデタツ様っ! たたた、大変でございますっ!」

「なんや、どうした?」

「こ、これが先ほど……城内に……っ!」


 男が広げてみせたのは、何やら文字が書かれた紙だった。


 そこにあったのは――


「オオサカ城の神器、確かに貰い受けた……な、なんやとおおおおおおおおおおっ!?」


 読み上げたヒデタツの絶叫が響き渡った。


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